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神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること

2024.07.27 公開 ポスト

【八月】にっぽんの夏を「納涼」でたのしむ幸せ その1

「暑気ばらい」の「はらう」は「邪気や災いをとりのぞく」こと。どんどん暑気払いしましょう桃虚(神職/ライター)

現役の神職・桃虚が指南する、神様とのお付き合い。夏の「開運ことば」を知れば、猛暑も気持ちよく乗り切れる!?

※こちらは、連載時の記事です。

*   *   *​​​​​​

涼し、納涼、暑気払い。
先人が発明した夏の開運ことば。

東京にいたころ、セミの声は
「みーんみんみんみんみんみーん」
でした。

 

しかし、大阪の夏は、
「じゅわじゅわじゅわじゅわじゅわげしげしげしげしげし」
と、デスメタル調で鳴くクマゼミの声で始まります。

神社には栴檀(せんだん)や椿などセミが蜜を吸う木がたくさんあります。当然セミの声も一日中続き、私たち神職があげる祝詞の声が、かき消されてしまうほどです。

お詣りに来られる年配の方々に聞いてみると、「五十年ほど前は大阪もみんみんゼミとあぶらゼミが主流で、クマゼミなんかおらんかった、年々、九州のほうから上がってきて、いまではクマゼミばかりになった」らしいです。これも温暖化の影響なのでしょうか。

落ち葉そうじをしている稲荷社のまわりの地面に、ある日ふと十円玉大の穴をみつけました。虫の穴にしては大きいので、初めて見たときは「ヘビかな?」と思いましたが、三日ほどで穴はぽこぽこと増え、モグラたたきゲームの穴のようにたくさんになり、同時に頭上からデスメタルが聞こえてきたので「ああ、クマゼミが出てきた穴か」と合点がいったのでした。

彼らの好きな木が稲荷社のすぐ横に生えていて、土から出たらすぐによじのぼって蜜を吸えるという利便性から、クマゼミはこの場所を選んでいるのでしょう。でも、私には彼らが「お稲荷さんの使い」に思えます。じゅわじゅわげしげし、という終わりのない歌もまた、その威勢と豊かな音量ゆえに、縁起がいいような気がしています。

とはいえ、セミのいない北欧の方には、彼らの声はノイズにしか聞こえないそうですから、ものは言いよう、考えよう。セミの声に夏の情緒を感じるのも、松尾芭蕉のように「長閑さや岩にしみ入る蝉の声」と俳句に詠むのも、蒸し暑い夏を乗り越えるための、日本人の生きる知恵と言えましょう。

昔よりも気温が高い昨今、冷房のお世話にもなりつつ、生きる知恵としての「情緒」を、次の世代へいい感じに受け継いでいけたらいいなあ……とぼんやり思っていたら、とっくに昔の人が、いいものを発明してくれていました。それは「季語」

ご存じのとおり、季語は、俳句や詩歌などに使われる、特定の季節をあらわす言葉です。時候、天文、地理、天候、動物、植物、食べ物、生活、そして行事。あらゆるジャンルにたくさんの季語があります。それは名詞に限らず、「涼し」「暑し」などの形容詞や「風薫る」「山滴る」「田水湧く」のような名詞+動詞もあって、特に俳句では「季語をかならず入れること」が約束事になっています。

俳句の五・七・五、たったの十七文字の中にその一語を投入するだけで、だいたいの日本人が、おおよそ同じような季節の風景を思い浮かべるようになっているという、たいへん便利なものだと思います。

松尾芭蕉像

便利なだけでなく、それぞれの人が、季語から、子どものころの思い出や、日々の営み、時代の変遷などを想起して、豊かな世界を味わうことができますよね。
それは、日本がこれまで、歴史や文化の共有性が高い国だったためで、今後はどうなっていくかわかりません。でも、そこに広がる豊かさをあっさり捨ててしまうのは勿体ない気がします。

「季語」という、たった数文字に圧縮氷結された無限の「情緒」を、解凍して料理し、おいしく味わい、自分の滋養とするのは、受け手側の知性と感性ですよね。私など俳句の素養がない者が俳句を読むときには、「もしかしたらこの季語には、自分が思っているよりも、もっと深くて広い世界が広がっているのかもしれない」と思ったりします。

逆に、もっと歳を重ねて季節を何回も経験すればするほど、解凍と料理そして賞味の能力は上がっていくように思います。それには、ただぼんやりと歳を重ねるのではなく、毎回めぐってくる季節に対して感度を上げて接する、その積み重ねが大事ですよね。

二十年後の私は、芭蕉の俳句が今よりもっとささりまくって、十七文字でも一万字読んだぐらいのカタルシスが味わえるようになるのではないか。そんなふうに思うと、歳をとるのが楽しみ、とまではいかないけれど嫌ではなくなります。

 

そんな季語ですが、とくに、夏の生活にまつわる季語は、他の季節にはない特別な味わいがあると思うのは私だけでしょうか?

たとえばですね……

夏休 暑中見舞 帰省 林間学校 夏服 芭蕉布 甚平 浴衣 水着 夏帯 冷麦 冷奴 麦酒 冷酒 ソーダ水 ラムネ 氷水 氷菓 水羊羹 走馬灯 日傘 行水 昼寝
甘酒 鮎釣 水中眼鏡 避暑 川床 海水浴 夜店 金魚売 花火 ナイター 水中花

如何ですか? これもほんの一部なのです。
あー。にっぽんの夏っていいな。と思いますよね。
海外に移住した私の友人たちも、「夏だけは日本が懐かしい」と言います。

とくに「昼寝」が夏の季語になっているのは「わかる」ボタンを何回も押したくなります。夏の朝、早起きして散歩に出かけ、神社におまいりして、帰ってきて行水、ひと仕事して、素麺食べて昼寝。夕方また散歩にでかけて、たまーにかき氷たべて、たしなむ程度に冷酒飲んで早寝。今年こそ、そんな最高の夏の生活をしてみたいものです。

ところで、「暑し」も「涼し」も、両方とも夏の季語だってご存じでしたか? 暑しは本当に暑いのだから良いとして、本当に涼しいのは秋なのに、夏の暑さにあってこそ感じられる「涼し」に我々はぐっときてしまう。だから「涼し」も夏の季語になっているそうです。

言われてみれば、夏のあいだ、我々は常に「涼し」を欲しがっていますよね。それはまだ暑さがおだやかだった昔の人も同じで、涼を得るための行動を「納涼」という情緒ある言葉で表します。とくに冷房のなかった時代は、水辺が納涼の場所でしたので、「橋涼み」とか「舟涼み」「涼み舟」といった季語も見られます。

私は夏、美術館に涼みに行くのが大好きです。涼みに行くなんていうと、学芸員さんに失礼かもしれませんが、美術館はその建築や内装もすてきですし、すっきりとした空間で、かつ、ひんやりと涼しく、美術品を見ていると、気持ちが上がるのです。そんなとき、ああ、納涼もりっぱな夏の開運行動だな、なんて思います。

そこで私なりの夏の納涼開運行動を十個、考えてみました。

一、    玄関前を打ち水
二、    好きな時間に行水
三、    美術館に涼みに行く
四、    図書館に涼みに行く
五、    舟に乗る(スワンボートも可)
六、    川沿いを散歩
七、    好きな橋を見つけてその上で涼む
八、    かき氷を食べる
九、    夏のあいだに一回は線香花火
十、    出先で蕎麦と冷酒をいただく

「めちゃくちゃ地味やないかい」と思うかもしれません。
ですが、これらの地味行動を、りっぱな開運に変える言葉を、先人はまたまた発明してくれているのです。

それは、「暑気払い(しょきばらい)」
これもまた夏の季語で、「暑さを払いのけること、またそのために酒や薬を飲むことも言う。」と俳句歳時記に書いてあります。

「払う」と「祓う」はどちらも「邪気や災いをとりのぞく」という、悪いものをはらいのける行為のことを言います。「払う」は個人や地域でする時、「祓う」は神社やお寺でそれをする時、という使い分けがありますので、暑気払いには「払い」のほうを使いますが、意味としては「おはらい」なのです。

たとえば夏に
「暑気払いにビールでも飲みに行こ」
と言ったなら、ビールを飲む正当かつ積極的な理由が発生しますよね。それは、「しゅわっとしたビールによって、暑さによる邪気を払いのける」ということになるからです。

ためしに、さきほどの一から十までの行動のあたまに、「暑気払いに」をつけてみますね。
暑気払いにつめたい水を飲む。暑気払いに玄関前を打ち水。暑気払いに好きな時間に行水。暑気払いに美術館へ涼みに行く……。

ほら。いつもの行動がおはらいになるという事象が起こるのです。

開運というのは、それを意識するかどうかのお話。何気ない行動も、それが暑気払いとして、「暑さによるうだうだーとした穢れっぽい何かをはらう行為」なのだ、と意識づけされれば、それはりっぱな「おはらい」であって、開運行動なのです。

みなさんも、ご自分の夏の十個の開運行動、考えてみると楽しいですよ。

(つづく)

関連書籍

桃虚『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』

古(いにしえ)より、「生活の知恵」は、「運気アップの方法」そのものでした。季節の花を愛でる、旬を美味しくいただく、しきたりを大事にする…など、毎月を、楽しく&雅(みやび)に迎えれば、いつの間にか好運体質に! 四季を「見る」「聴く」「匂う」「触る」「味わう」……。 「五感」を磨けば、1年間幸運がめぐり、運だけでなく、体も、脳も、生活も、みるみる華やぎます! ポイントは、小さな変化を敏感に感じとり、そして”楽しむ”こと。 四季の豊かな日本には、古来から、その楽しみ方のノウハウがたくさん伝わってきています。

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桃虚 神職/ライター

1970年インド(ムンバイ)生まれ、東京育ち。 ライター業を経て、大阪府枚方市の片埜神社にて神職歴20年。 「神社新報」で連載など。筆名の「虚(とうきょ)」の、「桃」は無邪気の象徴、「虚」は素直な心を表す

最新刊に『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』。

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