ものごとを数字で把握し、論理的に伝える……。「数学的スキル」の重要性がますます高まっている昨今。しかし、数学に対して苦手意識を持っている文系ビジネスパーソンは少なくありません。ロングセラー『数学的コミュニケーション入門 「なるほど」と言わせる数字・論理・話し方』の著者として知られる深沢真太郎さんに、数学への苦手意識を克服する、ちょっとした心がけを教えてもらいました。
* * *
「数学の勉強」はしなくていい?
──数学に対して苦手意識を持っている文系ビジネスパーソンに、アドバイスをいただけますか。
まず、勉強しなくていいです。数学に対して苦手意識を持っている方に「こんな勉強をしてみましょう」とお伝えして、実際に勉強した人は、私が知るかぎりほとんどいません。これは、プロとしてこの仕事を十数年やってきて実感していることです。
その代わり、日々の仕事や生活において、できるだけ変化に敏感になってください。たとえば、部下を見て「最近、なんかあいつ笑顔が減ったな」とか、転職した方なら「前の会社と比べて、なんかこの会社は雰囲気がいいな」とか。ちょっとしたことに敏感になってほしいんです。
「笑顔が減った」ことに気づくということは、実際に笑顔の数を数えていなくても、無意識のうちに数量でとらえようとしているということです、つまり、変化に敏感になることは、ものごとを量や数で考えようとしていることになります。
変化に敏感になると、「先月と比べて、ウェブの更新頻度が少ない気がする」とか、「最近売れている本を見ると、ページ数が多い気がする」とか、ちょっとした変化にも目がとまるようになります。
すると、「じゃあ、実際はどうなんだろう?」と確かめたくなってくる。確かめたくなると、数字が気になってくる。このようにして数字と仲良くなっていくんです。そして、数字と仲良くなると、数学的な思考、数学的なコミュニケーションも自然に増えていきます。
変化に鈍感な人は、数字と仲良くなれません。だけど、変化に敏感になったとたん、数字がすごく身近になって、仲良くなれるんです。
数学が大事なのはその通りです。だからと言って数学の勉強をしなさいとか、数字をちゃんと見なさいとか言っても意味がありません。多くの専門家の先生は、失礼な言い方だけど、そこをわかっていない。
私は教育指導の専門家ですから、そういったところまで勉強して、みなさんに指導しているつもりです。
──深沢さんの文章術についても聞かせてください。文章を書くコツはありますか?
文章を書くことは、読者との対話だと思っています。なので、その人のことを思いながら書くということを心がけています。
「こんなことを投げかけたら、相手はどう思うだろう? たぶんこう思うだろうな。ということは、次にこういう事例を出したほうがいいだろうな」。こんなふうに想像しながら書いていくのが、私の文章の書き方です。
あと、心がけているのは「KISS」ですね。「Keep it short and simple」の略で、とにかく短くシンプルであるほうがよいということです。
大前提として、文章を読むことはとてつもなくストレスだと思っています。だから、一息つける時間を、なるべくたくさんつくってあげたい。それが、句読点のマルだと思うんです。
なので、できるだけ一文を短くして、なるべく早くマルまで行く。マルが多いほうが、読者に優しい文章だと思っています。
「あなたはどのように仕事をしたいですか?」
──深沢さんの今後の展開について教えてください。
今は「ビジネス数学」といって、ビジネスパーソン向けの教育を中心に活動しています。でも、みなさんがもっと若いときに学んでいたら、私の仕事は必要ないのにとも思うんです。
子どものときに数字や数学になじめなかった人、楽しめなかった人がたくさんいるから、この仕事が存在しているんだなと。
これは、私個人にとってはありがたいことかもしれません。でも、世の中全体で考えたら決していいことではない。
ですから、究極的には、自分の仕事がなくなればいいと思っています。なので、これからは教える対象年齢が下がっていくかもしれません。
「文系か、理系か」ではなく、「数学的か、数学的じゃないか」という価値観が常識になるといいですね。そんな世の中を目指していきたいと思います。
──最後に、ビジネスパーソンのみなさんに向けてメッセージをお願いします。
「あなたはどのように仕事をしたいですか?」という問いを、みなさんに預けたいと思います。
私は、この本で「数学のように仕事をしてはどうですか?」という提案をしています。でも、仕事のやり方というのは、当然それだけではありません。
「◯◯のように仕事をする」。あなたにとって、◯◯に当てはまる言葉はなんでしょうか? 私がお伝えしてきた「数学のように」でもいいし、「職場で活躍している◯◯先輩のように」でもいい。「稲妻のように」でもいい。
なんだってかまいません。でも、ここがバチッと定まっていないと、仕事のスタイルも決まらないような気がします。
仕事がうまくいっている人は、自分のスタイルが決まっている人だと思います。今すぐ答えが出るものではないかもしれませんが、ぜひ少し時間をとって考えてみてください。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】深沢真太郎と語る「『数学的コミュニケーション入門 「なるほど」と言わせる数字・論理・話し方』から学ぶ数字との接し方」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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