共和党のドナルド・トランプ前大統領と、民主党のカマラ・ハリス副大統領が、熱い接戦をくり広げているアメリカ大統領選挙。日本では報じられないディープなインサイド情報がつまった著書『トランプ VS. ハリス アメリカ大統領選の知られざる内幕』を上梓したジャーナリストの松本方哉さんは、ふだんどのように情報を収集しているのでしょうか? その意外な極意を教えてもらいました。
* * *
大事なのは「コア情報」を探すこと
──松本さんの情報収集術について教えてください。
ニュースキャスターをしていて、わかったことがあります。それは、情報の流れは止まらないということです。
私は視聴者に向かって毎日、社会から情報をちぎっては投げ、またちぎっては投げということをくり返していました。しかし、あるときふと思ったんです。おそらく私が天国に召されたあとも、誰かがこれを続けるのだろうと。
ある意味、実のない行動のような気もしますが、そんな中で大事なのは、ある事象の核、コアになるような情報を探すことだとわかってきました。
コア情報というのは、ある事象の中に必ず1つか2つ存在しています。しかし、薄く光っているので、じっくり探さないと見えません。誰かの発言や行動、声明文、記者会見でのやり取り、あるいは関係者の日記やメモ、今であればSNSに表示されている内容の中に、むき出しに置かれていたりもします。
このコア情報を集めるのが、本当の情報収集活動であると思っています。まるで古生物学者が何千年前の化石をていねいに、少しずつ砂を払いながら見つけていくように、毎日どこを掘るのか、そして掘ったものが本物なのかを確認しつつ進めています。
──まずは情報を幅広く集める。そして、その中からコアを探すということですね。
余談になりますが、私の家内が病を負って倒れたときは、その病に関する論文を海外から100本近く集め、全部読みました。全部読んでこそ、初めてわかることも出てきます。
このように私は全部主義なので、全部集めて、その中からコアを探すというやり方をしています。
──集めた情報はどう整理しているのですか?
「Evernote」というスマートフォンアプリを使って、カード状にしています。デジタルなので際限なく書くことができるし、写真や動画を入れることもできます。過去10年くらいのあらゆるアイデアが、私の「Evernote」には入っています。
情報というのは、事象の時系列のどこにあったのかも大事です。なので、必ずメモをとっておいて、時系列順に並べ替えることもしています。
「追跡相手」のカードをつくってみよう
──大学で教えている学生さんには、どのようなアドバイスをしていますか?
朝起きたら、その日の「追跡相手」のリストを頭の中に思い浮かべよう、ということをよく話しています。追跡相手には、独裁者、外務大臣、ロシア問題の専門家、大統領候補など、さまざまな人たちがいます。
そのうえで、みんなにはちょっとした工作をしてもらいます。追跡相手の顔写真を10人くらい、A4の用紙に並べて印刷して、裏面にマグネットシートを貼りつけます。マグネットにすると、黒板やホワイトボードに貼りつけることができるので便利です。それをはさみで切って、カードにします(写真参照)。
このカードを使って、人物の顔を覚えてもらいます。つまり、情報をイベントから理解するのではなく、人間から理解するという考え方です。
たとえば、ロシア軍のウクライナ侵略を説明するとき、もちろん双方の戦死者などのデータを教えて深刻さを理解させますが、それだけでは学生は興味をひかれないんです。ですから、ロシアのプーチン大統領と、ウクライナのゼレンスキー大統領の顔写真を貼ったカードを使って、この2人と戦争の関係を説明します。
もちろん、本人と直接会うことができれば一番いいのですが、実際はなかなか難しい。私がキャスターの仕事をしていて嬉しかったのは、ふつうなら会えない人とも会えることでした。
キャスター時代、旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ元大統領を、取材で5年近く追いかけましたが、ある日、ゴルバチョフと2人で1時間くらい話すことができたんです。このとき大変なことが起きた話は本書に書きましたが、そのことで私はゴルバチョフを本当に理解することができました。冷戦が終わった意味も、本当にわかったと思ったんです。
情報というのは、人間によって生み出される行動の集積です。なので、人間の観点から集めると、ものすごく理解が早く、しかも深くなります。よく人間を観察すること、そして深く思いを巡らせること。この2つがともなうと、情報収集力は飛躍的に伸びると思っています。
──最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
私たちの業界では、「手垢のついた情報」という言い方をしますが、この本に書いてある内容は、すべて私自身が取りまとめた、この本でしか入手できない情報です。
この本には、たくさんの人物が出てきます。ぜひ顔写真とにらめっこしながら、そしてアメリカ大統領選挙の行方を追いかけながら、一風変わった読書体験をしてほしいと思います。そうすれば、一人ひとり違ったアメリカ大統領選挙を体験できるでしょうし、飛躍的にアメリカ政治への理解が進むと思います。
どうぞまずは手にとって、じっくり腰を落ち着けてページをめくってみてください。みなさんのご意見・ご感想もお待ちしています。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】松本方哉と語る「『トランプ VS. ハリス アメリカ大統領選の知られざる内幕』から学ぶジャーナリストから見た大統領選」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
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番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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