株、投資信託、債権、ゴールド、不動産、仮想通貨……。世の中にはさまざまな投資商品があふれています。そんな中、元・金融庁官僚でマネックスライフセトルメント株式会社代表取締役の我妻佳祐さんは、「インデックス投資信託」以外は見向きもしなくていい、と断言します。新刊『金融地獄を生き抜け 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ』も話題の我妻さんに、その理由をうかがいました。
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まず知ってもらいたい「4つの心得」
──この本は、我妻さんが大学で講演なさったときのレジュメがもとになっているそうですね。
学生が投資詐欺に巻き込まれたりしないように何か話してくれないかと、大学教員の知人から依頼を受けたんです。投資詐欺の事例を紹介して、こういうものに引っかからないように気をつけましょうね、とお話ししたときのレジュメがベースになっています。
金融教育とか、投資教育といったことがよく言われていますが、投資でお金を増やすことよりも、詐欺にあってお金をなくさないことのほうがよっぽど重要な知識だと思うんです。金融教育の前提には、詐欺から身を守るための消費者教育があるべきで、学生さんにはそういったことをお伝えしました。
──我妻さんがこの本でいちばん伝えたかったことは何ですか?
いくつかあって、1つめは、投資対象としてはインデックス投資信託以外、見向きもしなくていいということ。2めは、生命保険は掛け捨ての共済が基本で、足りなかったら初めて民間保険を検討すればいいということ。
3つめは、銀行が勧めてくる金融商品は相手にしないこと。そして4つめは、消費者金融、いわゆるサラ金を利用しないこと。かつ、クレジットカードのリボ払いはサラ金とほとんど同じものなので、その危険性を理解すること。
この4点が、みなさんに知ってもらいたい金融リテラシーで、これだけ押さえておけば金融詐欺が入り込む余地はほとんどなくなると思います。おそらく一生、金融詐欺にあわずに生きていけると思うので、ぜひ最初に知ってもらいたいですね。
──この本の冒頭で、金融教育を受けた人のほうが金融トラブルに巻き込まれやすいという、衝撃的なグラフが出てきます。
このデータには私自身、衝撃を受けました。私は料理研究家の土井善晴さんが好きなんですが、土井さんが言っているような「だしなんて取らなくてええんです」「家庭料理なんて美味しくなくてええんです」みたいなノリで、「投資はインデックス投資信託だけでいいんだよ」みたいな、優しいトーンの本にしようと思っていたんです。
でも、このデータを見て考え方が少し変わりました。誰かが「インデックス投資信託以外は買うな」と強く言わないと、生半可な知識でリスキーな商品に手を出して、トラブルに巻き込まれてしまう人を減らすことができないのではないか、と。
もちろん、このデータのみで断定的なことは言えませんが、金融教育を少しだけかじって、投資に手を出して、トラブルにあう人が増えたというのは、可能性が高いシナリオのひとつではないかと思っています。
投資をするのは「大人の責任」である
──我妻さんは、「資産を投資に回すのは、この社会で暮らす大人の責任でもある」とまで言ってます。こう言われると、国がもう年金を払いたくないために国民に投資をさせて、自己責任で生き延びてくれと言っているんじゃないかと、いぶかる人もいると思うのですが。
どちらかと言うと逆で、政府としては「国のためにみんな投資してくれ」というのが本音だと思っています。誰かがリスクマネーを提供しないと、産業が成長しないのは事実ですから。
かと言って、高度成長期のように銀行だけにその役割を負わせることはできません。だからこそ、国民一人ひとりにちょっとずつリスクを負ってほしい、投資してほしい。本音はそこだと思うんですね。
それでNISA(少額投資非課税制度)のような税金の優遇制度をつくったり、「投資をすると老後はこんなに豊かになりますよ」といったビジョンを見せたり、メリットを強調することで国民を投資に呼び込もうとしています。
それじたいは間違いではありません。ただ、社会の一員として投資をすることが責務であるという、公民的な考え方があってもいいのではないかと、個人的には思っています。とはいえ、役所がそれを言うのはトーンが難しい。ものすごく高圧的な、超上から目線になりがちなので、さじ加減が難しいのだろうと思います。
──この本では、FIRE(経済的自立と早期リタイア)を戒めることもおっしゃっていますね。
親から受け継いだ何百億円もの資産があるとか、大量の土地があるとか、そういう生まれつきFIREしているような人はともかく、たいていの人はそもそも運用資金が少ないわけです。
数百万円くらいの小さなお金では、いくら運用してもたいして儲かりません。それよりちゃんと働いて、自分の肉体と頭脳でお金を生んだほうが、投資よりもよっぽど効率よく稼ぐことができる。それが現実だと思うんですね。
この本では、「労働には金融資産1億円以上の価値がある」と書きました。逆に言うと、自分の肉体と頭脳を遊ばせておくのは、1億円をドブに捨てているようなものです。
どうしても働くのが嫌で、投資だけで暮らしていきたいという人を止めることはできません。でも、労働と投資の価値を冷静に考えれば、FIREというのは相当損な生き方であることを、ちゃんと理解しておくことが必要ではないかと思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】我妻佳祐と語る『「金融地獄を生き抜け」から学ぶ投資との関わり方の基本』〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
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この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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