秋と言えば「虫の声」。「風流」と「神様」の関係について、現役の神職・桃虚が語ります。
※こちらは、連載時の記事です。
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「日々のすべてのものに神仏のメッセージが組み込まれている」ことに、空海は気づいていた
平安時代、遣唐使船に乗って唐へ渡り、恵果(けいか)という偉い僧から「密教」のすべてを受け継いで帰国した空海は、『声字実相義』という、漢文で書いた著作で、声と字についてくわしく教えてくれています。
松長有慶著「訳注『声字実相義』」によると、このなかで空海は、「われわれが普段の生活の中で特別な意識を持たずに接している物や声、香りや味、触感、考える対象等あらゆるものの中に、神仏のメッセージが密かに組み込まれている」ということを示している、と言います。
この世のすべてのものは大日如来が姿を変えたもの、という密教的な解釈をするならば、鈴虫の声も、大日如来が発する「ことば」ということになります。それに耳をかたむければ、真理の世界に近づける。空海は、いままで特に気にしていなかったものに対して意識を向けることによって、今生(こんじょう)のうちに仏になれると教えています。
中国から仏教が入ってくる以前から、日本人は自然界のあらゆるものを「神様」として、畏怖の念をもって親しく交流してきましたから、それらが発する音に何かしらの言葉を感じていたとしても、不自然ではありません。虫の声にも。川のせせらぎにも。
ただ、そういったことは、ごく自然に、ふつうにおこなわれてきたので、空海がバシッと言語化してくれたことによって、「あ。そういうことだったのか!」と理解された、ということもあるかもしれません。
日本人が虫の声を「いいなあ」と感じて聞くのは、そこに秘められた神仏の言葉を受け取っているから、だとすると、言語と同じ左脳で処理しているのも、さもありなん、と思いますよね。
秋の夜長に、音の出るものを止めて、虫の声に耳を澄ませ、「良きかな」と楽しめる人は、古代人のように自然に神様と交流している人。ということは、「風流な人」というのは、神様といつもあそんでいる人なのかもしれませんね。
開運の基礎である「ていねいに暮らす」、とは、なんとなく「家事をていねいにやる」とか「朝ごはんをちゃんと食べる」というような、自分のおこないにフォーカスしがちですが、それらは、まず身のまわりの音、匂い、形などをていねいに感じるところから始まります。ていねいに感じれば、ていねいに暮らすようになるし、そうするとさらに五感の感度があがる、というサイクルになっている気がするのです。
虫の声のように、いままで特に意識していなかった音に意識を向ける。音を神様からのメッセージだと思って受け止める。その発想の転換が、開運につながると思う、秋の夜長です。
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神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること
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