『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
入院中の大量白飯問題
入院3日目、痛みも治まり、あとは治療というより静養のため、という感じになって少しこの一時停止を楽しむ余裕が出てきた。
持ち込んだiPadで電子コミックサイトに登録し、気になっていた「葬送のフリーレン」を読んだり、インタビューする予定のある本を夫に持ってきてもらって読んだり。思わぬインプットの時間になった。
ベッドに寝ているのに飽きたときは、病棟の中を散歩する。産婦人科病棟なので真ん中に新生児室がある。その前をなるべくゆっくり通って横目で赤ちゃんたちの可愛さを摂取する。本当は立ち止まってじっくり見たいけれど、周りの人に不審がられるかもしれないので、新生児室の隣にある無料給茶器に「お茶をくみにきました」というていで行く。
無料給茶器であたたかいルイボスティーを入れて、またなるべくゆっくり新生児室の前を通って病室に戻る。これを勝手に心の中で「赤ちゃん散歩」と呼んでいた。
入院というと、差し入れに「ふりかけを持ってきて」と言われる話をよく聞く。
今回、五日間入院してみてその気持ちがよーくわかった。
栄養士さんが考えた献立なのだし、塩分制限などはない身の上なので、出された食事は極力残さず食べたいなと思っていたのだけど、白飯の量が、多い。大きめのお茶碗満杯に注がれている。
途中まではおかずとのコラボレーションでなんとかなるけれど、塩みをおさえたおかずなので「ごはんのおとも力」に限界があり、半分くらい白飯に余りが出てしまう。
夫にふりかけを持ってきてほしいが、仕事とワンオペ育児の彼にお見舞いは望めない。そこだけ残念だなあ、と思っていたら転機が訪れた。
「今日から1階の無人販売機まで行ってもいいですよ」と行動制限が緩和されたのだ。さっそくお財布を持って1階へ行くと病棟にはなかったしょっぱい系のおやつがあった。「俺のおやつ 韓国味付のり天」。よっしゃ、これマンガ読みながら食べよう! と病室に戻ったら、お昼ごはんがやってきた。
あ、こののり天、ふりかけになるのでは!? というわけで、袋の上から細かく砕いてパラパラパラ~ッ。無事に白飯問題を解決することができた。
ちょっとした不自由も楽しめるようになったら、それは回復の証拠。翌日に退院許可が下りた。
夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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