『まつもtoなかい(フジテレビ)』や『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ(フジテレビ)』、『タクシー運転手さん一番うまい店に連れてって!(テレビ東京)』など、数々の人気番組を担当する放送作家の澤井直人さん。
今回は、昨年1年間で学んだことを綴ってくださいました。
"放送作家"は、日々どんなことを考え、どのように番組を作っているのでしょうか。仲良し芸人たちとのエピソードとともに、ぜひお楽しみください。
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僕に必要なことを教えてくれた『まつもtoなかい』
「あっという間の一年だった。」
年末になると至る所からそんな声が聞こえてくるが、僕にとっては、いろいろな景色を目に焼き付けた1年だった。
というのも、2023年は「収録現場に足を運ぶ」ことを大切にしてきたからだ。
そのキッカケをつくってくれたのは、春からスタートした『まつもtoなかい』に他ならない。放送作家として参加させて頂いたことが、僕にとって本当に大きかった。
普段から、阿川佐和子さん、吉行淳之介さん、高峰秀子さんの対談集を読んだり、「人と人の会話」を聞いたり覗き見るのが大好きで、対談の連載まで始めてしまった"人マニア"の僕にとっては、願ってもいないコンセプトの番組だった。
それまで、テレビの収録は特番やレギュラーの初回しか観に行っていなかったが、自然と毎回足がスタジオに向かうようになった。カメラの後ろで一言一句、一流の方々の言葉のキャッチボールを聞き逃すまいと観察する。目に焼き付け、その空気の匂いを嗅ぐ。オフラインであがってきた映像をチェックしている昔の自分とは比べものにならないほど、タレントさんの言葉に耳を傾け、胸に刻んでいった。
動物の中で人間にだけ与えられた"言語"を使って、その一瞬一瞬にしか生まれない"言葉"を口から発していく。テレビの中でも、"トーク番組"というジャンルが日に日に好きになっていった。
そうして、『まつもtoなかい』で収録現場に行く習慣ができてからは、自分が責任を持たせてもらった番組の収録現場にはなるべく顔を出すようにした。その結果、素敵なシーンに立ち会うことが自然と増えていった。
「同窓会」にもなる収録現場
読売テレビさんで演出家の遠藤さんと一緒に考えて通してもらった番組、『座持ち動画グランプリ』(2023年6月22日&29日放送)。その収録現場でのおはなし。
この企画は、「電車とかでそこまで仲良くない人に会ったとき、その場をやり過ごせる"座持ちのできる"動画があれば助かるし、実際に芸人さんのスマホの中にはそういう動画ありそうだよね!」というところから着想し、生まれた企画だ。
番組のMCは、アインシュタインの河井ゆずるさん、そしてヒコロヒーさんにお願いした。
実は、ヒコロヒーさんとは『岡田を追え!!』の岡田康太さんと一緒に住んでいたときに、部屋ですき焼きをご一緒したことがあった。初対面に関わらず泥酔している私を「おもろいな~」と笑ってくださり、素敵な方だと思っていたが、気付いたらテレビで観ない日はない雲の上の人になっていた。そんなヒコロヒーさんと数年を経て、自分の企画でご一緒できたことは感慨深かった。
さらにこの日は、もうひとつ、大きなイベントがあった。収録現場に妻と2歳の娘がはじめて観に来てくれたのだ。
スタジオの玄関に着いた妻と娘を迎えに行き、エレベーターに乗ろうとした瞬間、ヒコロヒーさんと蜂会った。「えっ、澤井君のこどもちゃん?」と優しく話しかけてくださったヒコロヒーさん。後から妻に聞いたら、廊下を走り回る娘の面倒を見てくれたそうだ。(MCに何をさせてんねん! 笑)
さらにさらに、この収録では、久しぶりに紅しょうがの熊元プロレスとも再会できた。
実は彼女、NSC35期の同期なのだ。10年も前に大阪で知り合った熊元っちゃんと、今東京で一緒にお仕事をさせていただいているのもまた、不思議な感覚だった。
この日の収録でも、「吉本のあやや、“くまま”こと熊元プロレスのダイエット動画」が、No.1と言っていいくらい爆笑をかっさらっていた。
現場で再会できたことがきっかけで、この収録の後日、同期を誘って久しぶりに御飯にも行くことができた。(その数ヶ月後、彼女は見事THE Wの王者になっていた)
収録現場は、人と人の再会を演出してくれる「同窓会」のような場所にも変化することを知った。
同じ空間に、娘と、旧知の芸人さんたちが存在している。点と点を時空が線となって繋げ、その上を走っている感覚。これまでにない景色だったことを記憶している。
収録後、妻が「こういう風に番組って出来ているんやね。楽しかった。」と言ってくれた。現場に足を運ばなければ、もらえなかった言葉だ。
あのとき、ヒコロヒーさんとのすき焼きに行っていなければ、今回の再会の話もなかったし(岡田さん誘ってくださってありがとうございました)、NSCに通っていなければ、熊元プロレスとの再会もなかった。収録現場に行くことで、今後のストーリーを生み出す点を作っていける。机の上でパソコンをポチポチ打っているだけの人工的な放送作家にはなりたくない。そう思った。
死ぬ前にフラッシュバックさせたい映像
僕は『フラッシュバック論』という考えを大事にしている。「死ぬ前に目の前にフラッシュバックしてくる映像をどこまで増やせられるか」というものだ。
今回、娘が収録を観に来てくれたことで、僕には「夢」ができた。
それは「娘に刺さるコンテンツを作る!」というものだ。漠然とだが、今やりたいと思っているのは(テレビで出来れば理想なのだが)、「親子で作るひとつの物語」だ。
文章は、放送作家の僕が書いて。絵は、美術の先生をしていた父に描いてもらう。主役は、それを観る視聴者の娘。
そんなトライアングルが完成したら、フラッシュバックの映像に残ることは間違いないだろう。僕だけじゃなく、父にも、娘にも。
その為には1つずつの点だ。現場なのだ。僕はこれからも現場に足を運ぼうと思う。
放送作家・澤井直人の「今日も書く。」
バラエティ番組を中心に“第7世代放送作家”として活躍する澤井直人氏が、作家の日常のリアルな裏側を綴ります。