【愉快! 爽快! 痛快! これが日本版「キングスマン」だ。】シリーズ累計150万部「ニンジャスレイヤー」チームが描く衝撃の社内スパイアクション『オフィスハック』待望の第5話連載。舞台は東京・丸の内の巨大企業T社。人事部特殊部隊「四七ソ」の香田と奥野に今日も新たな社内調整指令がくだる。不正を働くオフィス内のクソ野郎どもをスタイリッシュかつアッパーに撃ち殺せ。テイルゲート! ショルダーサーフ! 禁断のオフィスハック技の数々を正義のために行使せよ!
#1
小さな会議室だった。
長机が2つ。ハーマンミラーの椅子が6つ。埃をかぶった赤いヨガボールが1つ。
全社導入されたが、結局誰も使わないSkype会議専用の壁掛け大型モニタが1つ。
T社ではごくありふれた風景だ。
その椅子のひとつに、若いSEがロープで縛られていることを除けば。
「うう……」
SEがうめいた。直後、ピピッと音がして、静脈認証型のセキュリティドアが開いた。
「おい、起きてるか?」
荒っぽい声がして、会議室の照明がついた。現れたのはヒゲのサーファー風社員だった。靴はブランド物のタッセルローファーで、ロールアップしたスラックスの足首には赤いミサンガを巻いている。おまけに、そいつは拳銃を持っていた。
間違いなく、ならず者社員だ。
SEはビクリとした。だが返事はせず、顔も上げなかった。
「寝てんのか? 面倒くせえな、ッたく」
ヒゲ野郎は頭をかき、3Dプリンタ製の拳銃をもてあそびながら近づいた。そしてSEの髪を掴み、グイと顔を持ち上げて、銃口に無理やりキスさせた。
「おいオタク君、生きてんだろ?」
「は、はい、生きてます……!」
消極的反抗を行っていたSEも、さすがに震え上がった。恐怖で歯がガチガチ鳴った。
「死んだフリしたら帰れると思ってない? 社会人はそんなに甘くないよ?」
「はい……」
「ちゃんと仕事してる?」
「はい、仕事してます……!」
「ハ? 何言っちゃってんの?」ヒゲ野郎が鼻で笑った。「仕事してちゃダメだろ? 働き方改革の意味、解ってる?」
「ハッ、ハイ、してません! 仕事していません! ここにいないし、楽しく休暇中です……!」
「おッし、確認完了!」
ヒゲ野郎は拳銃をスラックスの後ろに無造作に突っ込むと、ドアの方に向かった。ドアノブを掴み、開けてから、会議室の方を振り返って言った。
「俺らがカネ作ってきてやってんだから、感謝して頑張れよ!」
「はい、頑張ります……」
SEは弱々しい返事を返した。ヒゲはそのまま廊下に出て行った。
セキュリティドアが閉まり、またピピッとロックの音が鳴った。
靴音が遠ざかっていった。会議室はまた静寂と闇に包まれた。
こんな場所にカンヅメじゃ、気が狂っちまいそうだな。
「ハァー……」
SEは机の上のノートPCを見つめながら、深いため息をついた。
仕事は当然ある。おそらくこのPCも、他の誰かのIDを使って勤怠時間を偽装しているのだろう。
T社グループでもこの4月から働き方改革が導入された。ICカードによるゲート管理だけでなく、オフィスフロアの大半は顔認証カメラで監視され、どうやっても過剰残業が不可能な形になっている。だが……ならず者部署の多くは、このようにSE監禁などの力技で社員を酷使し続けているのだ。
「何で……あんなのが僕より年収高いんだ……。ちゃんと仕事してただけなのに、何でこんな目にあわなきゃいけないんだよ……」
「まったくだよな」
おれは思わず、同情しちまった。
「……エッ?」
SEは驚き、暗い会議室内を見渡した。
まだヒゲ野郎が残っているのかと焦ったんだろう。だが、あいつはもういない。
「エッ、エッ?」
SEは部屋の隅に目を凝らし、驚きで声を失った。
そこにいるはずのないものを見たからだ。
ホコリをかぶった真っ赤なヨガボール。
おれは今、その上に座っている。
◆to be continued......感想は #dhtls でつぶやこう◆
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