ある日突然、イギリス人の夫から「リコンをクダサーイ」と言われ、傷心と勢いで「カミーノ」へと旅立ったのをきっかけに、世界中を旅し続けている、もりともこさん。
現在、スペイン、イタリア、モロッコでの安宿暮らしを描いた「マンマ・ミーア!」が好評発売中です。
旅を楽しむ裏技を5回にわたってお送りする連載2回目は、知る人ぞ知る”スラング”について。
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海外のゲストハウスで、よくある旅人同士の会話。
「えーーーっ、日本語には“swear word(スウェアワード=ののしり言葉、相手を攻撃するための汚いフレーズ)がないだって?」
「ございません、上品な国でございますから(笑)」
「本当かよ。じゃあ頭にきた時とかびっくりした時とか、どうやって感情を表現するんだい?」
「もちろん、バカとかアホって言葉はあるし、口語的なスラングならあるよ。でも多くの言語にあるような、“おケツの穴になんちゃらを…”みたいな、セックスとか下半身関連の言葉を使って面白おかしく相手をののしる文化がないんだよ。swear wordって言葉自体、ピタリと匹敵する日本語が思いつかんわ」
「なんて退屈な言語! ストレスたまりそう」
「うん、たまるよ。だから私は今ここ(日本の外)にいるんだよ」
「あはは、マンマ・ミーア!(何てこった)」
こんな会話をいままで何回してきたことか。
ちなみに、最後の「マンマ・ミーア!(mamma mia!)」はイタリア語で、「オーマイゴッド」に値する言葉で、直訳すると、「私の母」という意味。英語のゴッド(神)に対して、イタリア語ではマンマ(母)が用いられているわけだけど、驚きを表現する時のこういう言い回しも、日本語ではあまり思いつかない。
2015年から、スペインやイタリアのいくつもの安宿に住み込んで働いたおかげで、生きたスペイン語とイタリア語を覚えることができた。自分の感情を大きな声で、じゃんじゃん言葉に出して表現するのが当たり前な世界、なんとスッキリするものよ!
スラングの中でも特に、SWEAR WORD(ののしり言葉)は、日本では「絶対に使ってはいけない危険ワード」なんて大げさな注意とともに紹介されていたりするけれど、現地に入りこんでみると、そのほとんどが気さくに、ジョーク的にも使われていることが分かってくる。
以下は、私がイタリア人の友達とのあいだでよく使う言葉。私はけっこう、ひとりでもブツブツ言って遊んだりしています。ストレス発散に叫ぶのもおすすめ。(笑)
【スペイン語編】
joder
ホデール=おそらく、スペイン人が一番よく使っているスラング。もともとの意味はfuck you、fuckだけど、「すごい」「ヤバイ」「まじかよ」「ひでぇな」「うわっ」「やめて」「サイコー」……ポジティブにもネガティブにも使える感情表現ワード。「ホデール、この1杯のために生きてるよな(ビールを飲みながら)」「明日の試合が中止だと? ホデール!」「ホデール、また雨かい!」
guapa(女)/ guapo(男)
ウアパ(gはほとんど発音しない)=スペイン語で美人さん、ハンサムのこと。スペインでは美人か否かにかかわらず、特に女性に対しての気さくな呼び方として使われている。イイ男が現れた時には「ケ、ウアポ!(何てイケメン)」
hijo de puta
イホ・デ・プータ=直訳すると娼婦の息子、さのばびっち。女性の皆さんはサイテー男やケチ男、変態など、ヤな男にひっかかったらこう言ってスッキリしましょう。「あの、イホ・デ・プータめ!」。「彼と別れたの?」「うん、もういいの、あんなイホ・デ・プータ」。そのほか、日常的に「バカ野郎」「なんて奴」とか「チッ」とか、怒りの矛先が人間だった場合のひとりごとにも使える。
【イタリア語編】
cazzo!
カッツォ=直訳するとペニス。「何だよ」「うわ」「おい」「まじ?」「くそ」という驚きの表現であり、イタリア庶民のとっさのひと言。英語のfuck, fuckingと似ていて、友達間では「何言ってんだ」を「何カッツォ言ってんだ」と言ってみたり、「カッツォ残業」「カッツォミラネーゼ(ミラノの気取った奴)」とか。お決まりのフレーズは、英語のwhat the fuck!?(何だよぉ?)と同じ意味の、'ma,che cazzo!?'(マ・ケ・カッツォ!)
vaffanculo
ヴァッファンクーロ=直訳すると「ケツの穴にブチこめ」だけれど、意味は「くそったれ」「この野郎」「バーカ!」「まったく」。相手に面と向かって言うだけでなく、「本当あいつにはムカついたよ、ヴァッファンクーロ!」といった具合にも使う。新旧イタリア映画にもよく登場する超有名ワード。
casino
カジーノ=混乱、散らかった状態、ドタバタ、悶着。ギャンブルの「カジノ」と発音は似ているけど別単語。イタリア人は渋滞を目にしたり、散らかった部屋を見たりすると思いっきりこう言う。'Che casino!'(ケ・カジーノ=何たる混乱)。「今日はちょっとカジーノだったわ」といえばあわただしい1日。カオスな状態にも使われ、活気あふれるナポリは町そのものが「カジーノ」である。
boh
ボー(ボッ)=「知らねぇ」「別に」「さぁね」。息を吐き出すのとほとんどかわらない労力で「知らない」が伝えられる便利ワード。かなり手抜きだから、先生や偉い人には使わないでね!
finocchio
フィノッキオ=英名をフェンネルといって、玉ねぎ+セロリのような形をした日本ではあまり見かけない野菜。イタリアではなぜか「ゲイ男子」の隠語として、「あの子もフィノッキオかな?」という具合に使われる。空気を読めば楽しくも使え、私はゲイ男子の友達とのお別れパーティで、この野菜にペンで顔を描いて出したら大ウケしました。