◆政治参加のルートは多ければ多いほどいい
上野 もういっぺん、さっきの間接民主主義と直接民主主義の話に行きましょう。この2つを二項対立で考えると、議員を選挙で選ぶのが間接民主主義、つまりエリート政治です。他方、直接民主主義にきわめて近いのが首長選挙で、住民投票もこちらの仲間ですが、これはいいほうにも悪いほうにも働く。
たとえば千葉県では、堂本暁子知事と議会多数派の自民党がことごとく対立して、堂本さんのやりたいことを頑として通さなかった。これは間接民主主義が機能しなかった例だと言えるでしょう。
その一方で首長は直接民主主義で選ばれるから、たまに妙な風が吹いて、大阪の橋下さんのような人を権力の座に押し上げちゃう。彼は大阪のおばちゃんたちに人気があるんです。この調子で、「まあ、いっぺん総理やらせたったらええやないか」みたいな感じになったら大変だと思っていたら、最近になって「風俗活用」発言で失速してほっとしています。つまり首長選挙のように直接民主主義と呼ばれるものには、衆愚政治が行われるかもしれないというリスクが伴います。
さっき代議制民主主義は好きになれないと言いましたが、じゃあ、直接民主主義にもろ手を挙げて賛成と言うかというと、ここもなかなかつらい。
國分 「直接民主主義」という言葉をどう理解するにせよ、現在のような「人」を選ぶ選挙だけだと、社会で問題になっていることについて自分で考える機会がなかなか与えられないということが問題だと思います。
よく「住民投票はポピュリズムになる」という批判があるけどまったく違う。それとは逆で、自分たちで決めなきゃいけなくなるから、勉強会をやったり、シンポジウムに参加したりして、知識が高まっていくんです。むしろ、ふだんの選挙ではそういうことをやらないから、ポピュリズムになってしまう。今の制度は、有権者が政治について考えることを促進するようなかたちになっていない。とくに選挙運動の期間が短いことは致命的ですよ。
上野 想田和弘さんが最近、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか』(岩波ブックレット)っていう恐ろしいタイトルの本を書かれました。彼は、今の有権者の政治参加意識が低い根本的な原因は、自分たちが政治の消費者であるという意識を持つようになった、つまりお客様になっちゃったからだと分析しています。有権者は本当は、お客さんであると同時に、株主なんですよね。会社が潰れたらツケが来るのは株主じゃないですか。なのに、その自覚がまったくなくて、文句だけ言ってる。宮台真司さんの言う「おまかせ民主主義のブータレ」というやつですね。
國分 想田さんのおっしゃることはよくわかります。ただ、「消費者」になってしまった人に、「あなたは当事者なんですよ! 何で分からないんですか!」と意識改革を迫っても、何も変わらないと思うんですよ。そこはやっぱり、自分が当事者として、実際に行動をやってみせるっていうのが僕の信念ですね。
上野 その際、参加のルートは多いほどいい。行政に対しても司法に対しても、世界的なトレンドでは、市民参加の動きが起きています。裁判員制度だって司法への市民参加ですしね。指定管理者制度も評判が悪いけれど、行政への市民参加のひとつではある。公共施設の運営を、市民に委ねる制度です。役人にまかせるよりずっとよい運営ができています。やらないよりはずっとマシだと思います。こういうトレンドは絶対後退させないほうがいい。だから、日本でも政治への市民参加が進んでるのは確かだと思う。
國分 そういう点から見たら、僕の言っていることを後押ししてくれるようなトレンドもあると言えるかもしれない。
ただ、僕が重視しているのはやはり行政の決定プロセスへの介入なんです。たとえば僕は、地元で保育園のことにいろいろ関わったりしていたんですけど、保育園の民営化なんかは、市役所が勝手に決めるんですよね。住民が行政に全然関われないということを最初に見たのはその事例でした。そういうことに住民がもっと関わる制度って、簡単につくれると思うんですよ。
上野 だったらたとえば公務員を全部任期制にして、5年に1回、実績に応じて契約更新するとか。給料は税金から出ているので、そういうこともありかも。今は地方自治法もかなり大幅に改革されていますから、その気になれば自治体が自由にできる裁量権は前よりもずっと広がっているはずです。
國分 ただ逆に「地方自治」という言葉に縛られて、地方でおかしなことが起きていても、国が介入できないという事実にも目を向ける必要があると思います。橋下氏みたいな強力な市長がいると、上からも下からも何も言えなくなってしまう。
上野 地方自治は大事です。国策だからって、勝手にオスプレイを配備したり、原発を再稼働してもらったりしちゃ困る。地元自治体の同意が要るというのは、素晴らしい制度です。
國分 そういうとき、主権は地域の住民が持っているんだということがきちんと確認されていかないと、「地方自治」が「地方の首長自治」になってしまい、怖い気がしますね。
上野 大飯原発再稼働をめぐっては、地元の町議会は、1人だけ反対、残りは全員が賛成でしたね。
*この連載は全4回です。次回掲載は2月5日(水)の予定です。