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僕が手にいれた発達障害という止まり木

2020.07.12 公開 ポスト

同じ発達障害でも「強み」と「苦手」は一人ひとり違う柳家花緑

スピード感あふれる歯切れのよい語り口で、本業のほかテレビや舞台でも活躍中の落語家・柳家花緑さん。2017年、花緑さんは発達障害のひとつ「識字障害」(ディスレクシア)であることを公表しました。
子ども時代から、できないことや苦手なことは自分の努力不足だと思い込んでいた花緑さん。40歳を過ぎて自分が発達障害だと知り、「飛びっぱなしによる疲労でときどき空から落ちていた鳥が、やっと止まり木を得た感覚。本当にラクになりました」と語ります。
自身の経験を軽妙につづった花緑さんの新刊『僕が手にいれた発達障害という止まり木』より、一部を公開します。

*   *   *

やっと止まり木を得た

発達障害だと公表してから、新たな出会いをたくさんいただきました。僕自身、勉強になったこともいろいろあります。

今は、自分が学習障害、発達障害だとはっきりわかって、本当によかったと思います。飛びっぱなしによる疲労でときどき空から落ちていた鳥が、やっと止まり木を得た感覚です。

「発達障害」「識字障害」、それが僕です。今はその止まり木があるから、「これは僕にとってすごくエネルギーを必要とするので、少し時間をください」「ちょっと休ませてください」と言えるようになりました。ですから、本当にラクになりました。

逆に言うと、それまでがいかにラクじゃなかったか。自分が発達障害だと知るまでは、できないことや苦手なことは、自分の努力不足だと思い込んでいたわけです。だから世間的にある程度注目され、評価していただける状況になっても、本人としては自信が持てない。劣等感を抱き続けていたし、常にどこかでもがき苦しんでいたのだと思います。でも自分の特性を知ったおかげで、なるほど、そういうことだったのかと腑(ふ)に落ちました。

なかには、やさしさから「花緑さんは障害ではないですよね」と言ってくださる方もいます。でもそのやさしさは、実は僕にとっては、ちょっぴり酷(こく)です。なぜかというと、それは「障害がないんだから、できないのは、あなたの努力が足りなかったんだ」ということの裏返しにも思えるからです。

みんなができることができない「バカな小林くん」。小林くんがバカなのは努力が足りないから。まわりからそう思われていた子ども時代に、ふっと引き戻されるような感覚があるんですね。

発達障害のある人間は、努力してもうまくできないこと、どうしても苦手なことがあります。なにがうまくできず、なにが苦手なのかは、一人ひとり違います。そのことを、ぜひ理解してほしいなと思います。

笑いのシャワーを浴びる

生きていると、誰でも大変なこと、つらいことがあると思います。発達障害を持っている人は、なおさらです。

でも人間には、「笑い」というものがあります。悩みがあっても、笑うことで心が軽くなります。

笑いは心にいい影響を与えるだけではありません。笑うと免疫力が上がり、病気の人も症状が軽くなることが、医学的にも証明されています。筑波大学名誉教授の村上和雄先生が、実際に糖尿病の患者さんに落語や漫才を聞いてもらって実験をした結果、笑った後には血糖値が下がるという結果が出たそうです。

おもしろいのは、たとえ気持ちが入っていなくても、「ハッ、ハッ、ハッ」と大声を出すだけでも効果があるとか。人間の身体って、不思議ですね。

このことは『花緑の幸せ入門 「笑う門には福来たる」のか? スピリチュアル風味』に詳しく書きましたので、まだお読みでない方は、ぜひご一読いただきたいです。

より効果的なのは、笑いのシャワーを浴びること。一人で笑うより、みんなが笑っているなかにいると、より心が穏やかになるそうです。

というわけで、どうです? 日常がつらいなぁ、なんだかしんどいなと思ったら、一度落語を聞きに来ませんか?

みんな違って、みんな「ふつう」

最近は「ニューロダイバーシティ」という考え方が注目され、広まりつつあるそうです。この言葉、やっと覚えました。なにせカタカナがたくさん続くので、僕みたいに識字障害がある人間には、かなり読みづらい。ニョロニョロがお台場に集まって暮らしているのか(笑)。そんな街があるのかと思ったら、そうじゃなかった。

ニューロダイバーシティを訳すると、脳の多様性、あるいは神経多様性。かみくだいて言うと、一人ひとりの脳にはそれぞれ違いがあって、その違いは決して優劣ではなく、「個性」だという考え方のようです。

たとえばASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如・多動性障害)、LD(学習障害)の人も、それぞれ固有の“強み”を持っています。それなのにいわゆる「定型発達」や「健常者」のみを「ふつう」と考え、定型発達の子どもたちだけに向いた教育を行うのはおかしい。それが、「ニューロダイバーシティ」の考え方です。

字を読み間違えたり、うまく書けなかったりするのが、僕にとっての「ふつう」。一生懸命、字を読もうとすると、頭が疲れて、身体も疲れて、ときには倒れちゃうのも、僕には「ふつう」ですし、しゃべり出したら止まらなくなるのも、僕の「ふつう」なんですね。

弟子の花飛にとっては、なかなか会話が続かないのが「ふつう」だし、まわりの音がみんな一斉に脳に入ってしまい、脳のなかが散らかってしまうのが「ふつう」。そんなふうに、人によって「ふつう」の状態は違うんですね。それは、“個性”とも言い換えられます。

障害がまったくない人も、さまざまな障害がある人――身体的な障害がある人も、発達障害みたいにパッと一見しただけではわからない障害の人もふくめて、多様な個性を持った人がバリアフリーで生きられる世のなかになってほしい。

心から、そう願っています。

*   *   *

この続きは『僕が手にいれた発達障害という止まり木』(幻冬舎)で! 全国の書店で好評発売中です。

関連書籍

柳家花緑『僕が手にいれた発達障害という止まり木』

教科書が読めなかったけど、落語家やっています(笑)。勉強ができない“落ちこぼれ”の理由がわかったらラクになった。読み書きに困難が伴う発達障害「ディスレクシア」(識字障害)を公表している人気落語家が、自身の経験を軽妙な筆致で綴る。発達障害に悩む人、発達障害の子どもをもつ親を勇気づける一冊。

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僕が手にいれた発達障害という止まり木

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柳家花緑

1971年8月2日生まれ、東京都豊島区出身。
1987年3月、中学卒業後、祖父・五代目柳家小さんに入門、前座名「九太郎」。
1989年9月、二ツ目昇進、「小緑」と改名。
1994年3月、戦後最年少の22歳にて真打昇進、「花緑」と改名。

『にほんごであそぼ』(NHK教育)で紹介した「寿限無」が子どもたちの間で大ブームとなり、人気・知名度ともに全国区に。

着物と座布団という古典落語の伝統を守りつつも、近年は劇作家などによる新作落語や都道府県落語を、洋服と椅子という現代スタイルで口演する「同時代落語」にも挑戦している。更に、2015年5月 にはバレエの名作“ジゼル”を江戸時代に置き換えた花緑の創作落語「おさよ」と、東京シティ・バレエ団のバレエ「ジゼル」という異色のコラボレーションが実現した『花緑のバレエ落語「おさよ」』を公演。大きな反響を呼び、2017年には東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が加わり『新・おさよ』として再演された。

また、同年に発売した著書『花緑の幸せ入門「笑う門には福来たる」のか? スピリチュアル風味』(竹書房)の中で、自身が発達障害の一つ“識字障害(ディスレクシア)”であることを公表。

多方面から反響があり、テレビや雑誌等への出演の他、全国の発達障害をテーマとした講演会へも多数登壇している。

落語家としての活動以外にも、ナビゲーターや俳優としてテレビ、舞台などでも、幅広く活躍中。

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