1日に2万回も空気を出し入れしているのに、当たり前すぎて普段意識することが少ない「呼吸」。呼吸は老化や衰えのスピードといった体調に影響しているだけではなく、人間の感情にも影響しているとおっしゃるのは、書籍『すべての不調は呼吸が原因』の著者・本間生夫さん。普段見過ごしがちな呼吸に注目し呼吸の力を鍛えることで、体と心をより良い方向へコントロールしていく方法を解説している本書から、抜粋してご紹介します。
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大切なのは酸素よりも二酸化炭素
小学校のときに習ったように、わたしたち人間は酸素を取り入れて、二酸化炭素を排出しています。体内の酸素と栄養を結びつけてエネルギーを生み出した結果、代謝物として生じるのが二酸化炭素と水。息を吐き出す際に、その二酸化炭素を体外へ放出しているわけです。
この「体から排出するもの」というイメージが強いせいか、なかには二酸化炭素を「体にはまったく必要のないもの」「ゴミと同じように棄すてるべきもの」「体にとって害悪をもたらすもの」と見ている人も多いようです。
しかし、これは大きな誤解です。
二酸化炭素は「体にとって不必要なもの」などではありません。それどころか「絶対になくてはならないもの」であり、「体にとって非常に大切な役割を果たしているもの」なのです。私などは、ある意味、酸素よりも二酸化炭素のほうがずっと重要な存在だとさえ思っています。
では、いったい二酸化炭素の何がそんなに重要なのか。
それは、二酸化炭素が体内の「酸性/アルカリ性」のバランスを保つ調整役となっている点です。
少しくわしくご説明しましょう。
そもそもわたしたちの体のコンディションはしょっちゅう変動をしていて、ちょっと無理をすると、すぐにバランスを崩してしまうような状態になっています。みなさんも、不順な天候が続いていたり、徹夜を続けていたり、偏食を続けていたりすれば、てきめんに体調がダウンしますよね。大きくバランスを崩しでもしたら、病気やトラブルにつながる可能性もあるでしょう。
ただ、人間の体には「体の状態を一定に保ち続けるバランスシステム」(恒常性維持機能:これは「ホメオスタシス」と呼ばれています)が搭載されていて、このシステムが体内の恒常性を保とうとがんばっているおかげで、わたしたちは体調やコンディションを大きく崩すこともなく日々を送ることができているのです。
そして、そのバランスシステムの中でもとりわけ重要なのが、体内の「酸性/アルカリ性」のバランスを一定に保つことであり、その微細なバランス調整を行なっているのが二酸化炭素なのです。
そもそも、体内の「酸性/アルカリ性」のバランスは、二酸化炭素が多いと酸性に傾き、二酸化炭素が少ないとアルカリ性に傾くようになっています。
また、人の体内はだいたいpH7.4の弱アルカリ性(pH7.0が中性)に保たれているのがよいとされ、酸性に傾き過ぎても、アルカリ性に傾き過ぎても、不調や病気などのトラブルが起こることが知られています。
たとえば、体内がアルカリ性に偏ると起こりやすくなるトラブルで、もっとも有名なのが過換気症候群です。
これは二酸化炭素が排出され過ぎて体がアルカリ性に偏っていき、息苦しさ、呼吸困難、頭痛、めまいなどを訴えるようになる病気。この病気にはストレスや不安傾向も大きく関係していますが、過換気発作の引き金になるのは体内の二酸化炭素量の不足です。
その証拠に、かつては発作時に「ビニール袋などに自分の息を吐いて、その息を再び吸うようにするといい」(自分ひとりで行なうのは窒息などの危険があり、いまでは避けたほうがよいとされています)とされていたのも、自分の息から二酸化炭素を摂取して酸性とアルカリ性の体内バランスを正常に戻していく必要があるから。
このことからも分かるように、二酸化炭素の量は、わたしたちの体内のバランスやコンディションを維持するカギとなっているわけです。
人間の体内では、二酸化炭素の量が適切に保たれているかどうかが常にモニターされていて、それに応じて呼吸の調節が行なわれています。すなわち、二酸化炭素が多くなり過ぎたら多めに吐き、二酸化炭素が少なくなってきたら少なく吐くといったように自動的に調節が行なわれているのです。
とにかく、この二酸化炭素の調節システムが働いているからこそ、わたしたちは体内の恒常性バランスを保っていられるわけで、その点から見れば、二酸化炭素がわたしたちの体を守っていると言っても過言ではないわけです。二酸化炭素がなぜ重要なのかがお分かりいただけたでしょうか。
なお、二酸化炭素は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスのひとつだとされています。工場などで石油や石炭などの化石燃料をバンバン燃やした結果、大量の二酸化炭素が大気中に放たれ、それが温室効果を加速させる一因となっているというわけです。
いまや世界中の国でCO2削減目標なども設けられ、二酸化炭素はすっかり“悪者扱い”されてしまっています。
しかし、先ほど述べたように、医学的・生理学的に見れば、二酸化炭素そのものは決して悪くはありません。私はむしろ、人間を含め、動植物すべての生き物の生命活動を陰で支えている立役者のような存在だと思っています。
わたしたちは生きている限り呼吸をし、二酸化炭素を生み出し続けているわけですが、それは、地球上で生きていくために必要だからこそ生み出し続けているのです。
ですからみなさんも、二酸化炭素の悪い面だけを取り上げて目の敵にするのではなく、二酸化炭素のよい面にも光を当てていくようにしてください。酸素と同様、二酸化炭素があるからこそ、わたしたちは日々呼吸をして生きていられるのです。
すべての不調は呼吸が原因
1日に2万回も空気を出し入れしているのに、当たり前すぎて普段意識することが少ない「呼吸」。呼吸は老化や衰えのスピードといった体調に影響しているだけではなく、人間の感情にも影響しているとおっしゃるのは、書籍『すべての不調は呼吸が原因』の著者・本間生夫さん。普段見過ごしがちな呼吸に注目し呼吸の力を鍛えることで、体と心をより良い方向へコントロールしていく方法を解説している本書から、抜粋してご紹介します。