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オオカミ少女に気をつけろ!

2021.02.02 公開 ポスト

「無症状から容態が急変し死亡」に戦慄する前に知っておきたい2、3の現実泉美木蘭

小学生の頃、台風で暴風警報が発令されて学校が休みになると、私はその「非日常感」にやたらと興奮していた。いつもなら学校で勉強している時間に、家でテレビを見ながら、びゅんびゅんと風雨のふきつける音を聞いている。ただそれだけのことで気分が高揚していた。

新型コロナで大騒ぎする社会も、その興奮・高揚に似た心理が巣くっているように感じる。

(写真:iStock.com/roibu)
 

テレビに登場する医師やタレントは、新型コロナに感染した経験を「人生で一番つらかった」と興奮気味に話している。人生って、1~2週間で治る病気と天秤にかけられるほど軽い出来事ばかりなのだろうか。私の人生には、もっとつらいことがたくさんあったけどなあと思えて、なんだか白けてしまう。それに、表現できないほどのつらさを抱える病気は、ほかにたくさんあると思う。

毎日の感染者数、死者数「急増」の報道にも飽き飽きだ。「エビデンスはあるのか?」という言葉で、科学的な絶対の解以外は語ってはならないような風潮が作られているが、「真冬は寒いし、感染して発病する人は当然増えるよね」という常識は、そんなにおかしなことだろうか。

直接死だけで約3,000人、間接死も含めると約10,000人の死者を出してきたインフルエンザは、例年1月~2月に患者が指数関数的に急増していた。データにも出ているが、自分の肌感覚でも、子どものいる家庭を中心に、あちこちからインフルエンザで寝込んだ話を聞くから実感もあった。

図1 インフルエンザの定点当たり報告数推移(2016年36週~2019年20週)
出展:国立感染症研究所感染症疫学センター インフルエンザ流行レベルマップ

過去のニュース映像を確認すると、2019年12月20日には「1週間で50万人以上増え、流行が急速に拡大」(ANN NEWS)、2016年2月19日には「1週間で報告されたインフルエンザの患者数は全国推計約205万人」(同)、さらに新型インフルエンザが流行した2009年11月28日には「累計患者数が1000万人を超えました」(同)と報じられている。

この数字は、高熱を出すなどして病院を受診し、医師の判断で簡易的な抗原検査を行って感染が判明した人数のみで、無症状者や軽症者はカウントされていない。

一方、新型コロナの感染者は、PCR検査で無症状者や軽症者まで探し出してきたが、それでも陽性者は、一番多かった今年1月8日で7,844人だ。この週(1月4日~10日)の全国の陽性者数を計算してみると、合計42,882人だった。インフルエンザの「150万人」「205万人」という数字にはまったく届かない。

死者は、インフルエンザでは、例年やはり1月~2月に突出していた。

 月別のインフルエンザ死者数(直接死のみ)
出典:厚生労働省「人口動態統計月報」

日本で最初の新型コロナ感染者が発見されてから、1月16日でちょうど1年だが、死者は5,360人(1月28日現在)。この数字は、PCR検査で陽性なら、死因に限らずカウントしているもので、インフルエンザでいう「間接死」も含めたものだ。やはり10,000人には達しない。

「感染対策」のために、国民に対してほぼ強制的に経済活動の自粛を強いて、非正規女性の実質的失業者90万人(1月26日野村総合研究発表)自殺者前年比750人増(1月22日警視庁・厚労省発表)という犠牲を出している。だが、日本における新型コロナが、その犠牲に目をつむってでも国をあげて対策をとるべき激烈な感染症だとは、まったく言えない。

「医療崩壊」としきりに言われるが、政府と厚労省が新型コロナを「2類相当(一部1類)の指定感染症」と指定するかぎり、病院はバイオテロ並みの防護で患者を扱わねばならず、医療者が感染すれば、症状がなくても一定期間働けなくなる。これでは受け入れられないから、季節性インフルエンザと同じ「5類」にダウングレードして、多少院内感染が増えたとしても、通常通りに診療できるようにするべきだと言っている医師はたくさんいるのだ。

だが、そういった声はほとんど無視で、メディアには両論併記というものがない。そして、政府は、1月31日に期日を迎える「指定感染症」の指定を、さらに1年間延長するようだ。

 

新型コロナの死者の情報も、かなり問題がある。

「指定感染症」のために全数報告されることにはなっているが、遺族の意向で詳細は伏せられているケースも多く、年齢も性別すらも伝えられないこともある。しかし、国民の自由に強い制限を科しているのだから、それに見合ったものなのかを検証できなければならないし、プライバシーには配慮しつつ、もっときちんと情報を公開しなければおかしいだろう。

自治体公表の情報から、かろうじて公開されている内容を見ると、こうだ。

「70 歳代/基礎疾患:呼吸器疾患 及び 悪性腫瘍(肺がん)」
「70歳代/基礎疾患:糖尿病、肝硬変、膠原病」
「80 歳代/基礎疾患:糖尿病、腎疾患、肝疾患 及び 高血圧」
「80 歳代/基礎疾患:脳梗塞後遺症、廃用症候群、腎がん」
「90歳代/基礎疾患:血液疾患」
「100歳代/基礎疾患:なし」

もはや終末期で、「寿命を迎えた」としか言いようのない後期高齢者が多い。

だが、「寿命」という言葉もすっかり忘れ去られたかのようだ。「新型コロナで自宅療養中の90代男性が死亡」(2021年1月25日 NHK)、「<新型コロナ>東京都内で施設療養の男女4人死亡 100歳代女性は入院先の調整中に」(2021年1月25日 東京新聞)など、90歳代、100歳代の死亡までがテレビや新聞の見出しとして躍り出ている始末だ。

そして、50代、60代の死者が登場すれば、たちまちのうちに大ニュースになってしまう。全体のデータを眺めると、かなりのレアケースなのに、だ。

年齢別の新型コロナ陽性者数

日本人の死因は、新型コロナだけではない。日本では、毎年約140万人がいろんな理由で死んでいる。50代でも20代でも子どもでも、「まさか」の死を遂げる人はいる。人は死ぬのだ。そんな単純なことすら、わからなくなってしまったのだろうか。やはり、私には異様な興奮状態にしか見えない。

 

そんななか、最近よく聞こえてくるのが、「自宅療養中に容態が急変」「無症状から急変して死亡」という言葉だ。先ほど紹介した東京新聞の記事には、こうある。

グループホームに入所していた100歳代の女性は、13日に陽性が判明。無症状だったが、都が入院先を調整したものの決まらないまま、22日に容体が急変し死亡した。特別養護老人ホームの入所者の80代女性は21日に陽性と判明。軽症のため施設で療養中、24日に容体が急変し死亡した。80代女性と90代男性はそれぞれ、家族が施設での療養を希望。療養中に容体が悪化して亡くなった。

年齢を見ただけで「天寿をまっとうされたんですね」と思うのだが、そもそも高齢になると、肺炎などの病気にかかっても、あまり症状が出ないということがすっかり忘れられているようだ。

肺炎と言えば、高熱が出て、悪寒があってというイメージがあるが、それはあくまでも健康で、体力がある人の話である。熱というのは、体に侵入した病原体に対して、免疫機能を活性化させるために脳が指令して出すものだ。悪寒も、筋肉を震えさせて発熱させる仕組みと考えられており、大きなエネルギーを必要とする。

したがって、高齢になって免疫機能が落ち、エネルギーも低下していると、そもそも熱を出すだけのパワーがなく、肺炎にかかっているのに、検温しても熱がないということが多い。

咳や痰も同じだ。高齢者ほど症状は出にくく、そのために本人も周囲の人間も気が付きにくいのである。わかった時にはすでに重症化しており、「容態が急変する」というのが当たり前。「無症状」というよりは、「自覚症状がない」のだ。

だから、介護のアドバイスとして「いつもより元気がないなと思ったり、食欲がなさそうだったら、すぐに肺炎かもしれないと疑ったほうがいい」ともよく言われる。高齢者と一緒に暮らす世帯も減ってしまい、こういった「おばあちゃんの知恵袋」的な話は忘れ去られてしまったのかもしれないが。

メディアに登場する専門家のなかには「パルスオキシメーターを配って、酸素飽和度を自分でチェックしてもらえるようにしたほうがいい」と言っている人もいるが、そんなことは、これまで年間10万人の肺炎死者にも、年間4万人の誤嚥性肺炎死者にもやってこなかった。

なぜ、新型コロナの肺炎だけをそこまで特別扱いするのか? 新型コロナがいまメディアで注目株だから、ブームに乗ってそんな発言をしているだけではないのか? 平たく言えば、張り切りすぎではないのか?

本当にモヤモヤする。「肺炎なのに自覚症状がない、つまり“無症状に見える”ことは、高齢者なら当たり前」ということを認めたほうがいい。

 

さらに、東京新聞の記事は「グループホームに入所している高齢者」という部分もまったく理解できていないまま書かれていると思う。

グループホームとは、「認知症対応型共同生活介護」とされるもので、つまりは、認知症で要支援・要介護の診断を受けている人々が暮らす施設ということだ。認知症の人が、病気やケガなどに対して自覚症状がなかったり、症状を訴えたりしないことがあるのは、経験のある人なら知っていることだろう。

95歳の私の祖母は、いまグループホームで生活しているが、以前、転んであごを切り、着ていた服まで血まみれになるほどの大出血をしたことがあったが、本人はそれにまったく気がついておらず、切れていることを伝えてもまだ、痛みも感じない様子でニコニコしていた。

同じ施設で暮らす80代の男性も、ある日、歩き方が変だったので、施設職員があわてて引き止め、医者に診せたところ、足の骨が折れていたということがあった。本人にはなんの自覚症状もなかった。これでは、肺炎になっても、いよいよ症状が末期に及んで容態が急変するまで、「無症状だったのに」と思われてしまうのもわかる。

メディアの人間は、高齢者のことも認知症のことも、なにも知りもせずに、ただ「無症状から容態が急変!」というショッキングな単語だけを報じて、緊迫感を醸し出そうとしているのだろう。そんな無知で、よく「高齢者の命を守ろう」なんてメッセージを流せるものだ。偽善もはなはだしいし、浮足立って言葉だけを空回りさせ、社会を混乱させている最悪のやり方だと思う。

そして、こんな状態のなかで、日々、大勢の健康で働きたい現役世代の人々が犠牲になりつづけ、まさに「人生で一番つらい」時代に陥れられている。追いつめられた自殺者も、廃業した店舗もよみがえらない。

興奮・高揚した社会が冷静になるということは、この莫大な犠牲を受け止めるということだ。特にメディアには、きっちりと責任をとってもらいたい。新型コロナよりも、そのほうがよっぽど怖いはずだ。

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オオカミ少女に気をつけろ!

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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