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夢みるかかとにご飯つぶ

2024.09.19 公開 ポスト

【夢ごは日誌】ドラマにならない恋をした清繭子

夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

坂口健太郎似の元カレ、通称「鴨」がいたことはすでに本に書いた
鴨とは通算2度別れたのだが、その最初の別れ話をしたときのこと。

そこは夜の公園だった。
オレンジの街灯ひとつに照らされた2つ並びのブランコに私たちは座って、ほんとにもうお別れなんだよねぇ……と確認し合っていた。

なんだかドラマみたいなシチュエーションで、どこか嘘っぽくて、だからこの別れ話も覆せる余地がまだあるような気がして、ぐずぐずと喋っていた。

一度で彼の心を引き戻すような会心の一撃のセリフを探して、口を開きかけたとき、鴨が私のその口を指さして、言った。

「繭子、ヒゲ」

私には上唇の左上に、なぜかいつも生えてくる太い一本のヒゲがあった。生えてくるたび、毛抜きで抜くのだが、遺伝子自体のエラーであるのか、抜いても抜いてもまた同じところに逞しく生えてくるのだ。人が指摘しにくいそれを、教えてくれる係が鴨だった。だけどもさ。

「それ、今、言う!?」

二人で笑いあったその瞬間、すとんと別れが腑に落ちた。

私たちの恋は、ドラマでも漫画でもなくて、本物だったんだなと思った。だからこの終わりも、本物なんだろう。

ちなみに、真剣に鴨が話していたとき、その奥をGがサササッと横切ったのを私は黙っていた。

少しだけ繕って、私たちの恋は終わった。

関連書籍

清繭子『夢みるかかとにご飯つぶ』

母になっても、四十になっても、 まだ「何者か」になりたいんだ 私に期待していたいんだ 二児の母、会社をやめ、小説家を目指す。無謀かつ明るい生活。 「好書好日」(朝日新聞ブックサイト)の連載、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題のライターが、エッセイストになるまでのお話。

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夢みるかかとにご飯つぶ

好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。

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清繭子

エッセイスト。1982年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒。

出版社で雑誌、まんが、絵本等の編集に携わったのち、小説家を目指して、フリーのエディター、ライターに。ブックサイト「好書好日」にて、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。連載のスピンオフとして綴っていたnoteの記事「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」が話題に。本作「夢みるかかとにご飯つぶ」でエッセイストデビュー。

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