提供:株式会社MISSION ROMANTIC
電車の中で、カフェで、自分と同じ本を読んでいる人を見かけて気になってしまう。話しかけてみれば、見ず知らずの相手でも本の内容について会話が弾み、気がついたら次に会う約束をしていた――。
本を媒介にして、そんなドラマのような出会いを演出するマッチングサービスが今、話題を呼んでいる。
「初対面の人と話すとき、なにを話題にすればいいか困ってしまうことがありますよね。けれど同じ本を読んでいるなら『あの本、面白かったですね』など、スムーズに会話を始められます。それが好きな本であるならなおさら、話は盛り上がるでしょう。好きなものについて話しているとき、人はとても自然体でいられますから」
そう話すのは、マッチングサービス「チャプターズ」創設者で、運営会社のミッション ロマンチック代表取締役の森本萌乃さん。
このサービスは、毎月「チャプターズ」が選書する4冊の本の中から会員が1冊を選び、同じ本を選んだ異性とビデオチャットで本の感想を20分間語り合うというもの。この際、前半10分は顔が見えないというのも特徴的だ。
「人間の顔は、情報量が多く、いきなり画面にバーンと現れると驚いてしまうことも。ですから最初は純粋に相手と本について語りあってもらって、徐々に顔が見えてくるという設定にしています」
話が盛り上がれば連絡先の交換は自由。そこからは「チャプターズ」の介入はなく、本好きのふたりの関係が始まる。
このマッチングサービス、現在アクティブユーザーは約1,200人、主に20~30代の登録者が多く、男女比は女性が6割。そのマッチング方法はいたってシンプルだ。会員は、本を決めた時点で、ビデオチャットが可能な候補日を伝える。「どの本を選んだか」「いつビデオチャットができるか」という条件に加え、歳の差7歳までの異性とのペアマッチが多く生まれるよう工夫されている。また、女性同士や3人でのマッチが組まれる場合もあるというので、恋愛に止まらない広義な出会いという点も、始めやすさの理由と言えるだろう。プロフィール写真や、異性とのメッセージ機能はなく、見た目や肩書きで相手を選ぶことはできない。
「チャプターズでは、このビデオチャットのことを『アペロ』と呼んでいます。フランス語の『アペリティフ』の略で、食前酒という意味があるのですが、出会いの前の0次会といった意味が込められています。見た目や職業で相手を選ぶのではなく、純粋に同じ本を選んだという共通点から、このアペロを始めて、出会ってほしいのです。
そもそも最初は『チャプターズ』は、男女関係なく純粋に読書仲間を見つけるために設立しました。けれどリアルイベントを開催していくなかで、多くの方が本を通した男女の出会いを求めていたことがわかったんです。いわゆるお見合いパーティでは、何を話していいかわからないけれど、本という共通の話題があれば、自然と盛り上がれる。本は、出会いたいという本音を優しくラッピングできる力があるのだと、参加者のみなさんを見て気がつきました」
オンラインの出会いに加え、試験的に始めたこのリアルイベントも今後は定番化させ、新たな収益の柱に据えていきたいと森本さんは話す。
「参加者は30人。スライドにトークテーマを出し、それに沿った会話を隣の異性と10分間していただきます。何度か席替えを行いますので最終的に4名ほどの異性と話すことができるようになっています。会場の電気を少し暗くしたり、グリーンを意識的に置いて目線が遮られるようにしたり、回数を重ねて居心地のいいリアルイベントのあり方を試行錯誤しました。私がお客様だったら、こういうイベントに参加するのって参加直前にものすごく緊張すると思うんです。お客様と同じ目線をスタッフが全員持っていることが、オンラインもイベントも、チャプターズの魅力の一つかもしれません」
その日初めて会った相手でも、実は数ヶ月間同じ本を読んでいた。出会う前から、本でつながっている、そんな運命まで感じられるのがこのリアルイベントの醍醐味。そんなチャプターズだが、今年の春頃にはオフィスを兼ねたブックカフェもオープン予定だという。チャプターズが運営するカフェで本を読んでいたら、ふと出会いが訪れる、そんなこともあるのかもしれない。
出会いは毎月1~4回。
あえてスローなインターネットを楽しむ余裕
毎月チャプターズが選書するのは小説を中心とした「誰かと語り合いたくなるような」内容の4冊。出版社や、書店員、チャプターズスタッフなどさまざまな人が選書に携わる。
「久しぶりに本を読んでみたいと書店に行っても、何を選んでいいかわからず立ち尽くすこともありますよね。そういうとき、プロが選んだ4冊があれば、スムーズに読書をはじめられます。チャプターズで月1冊、1年間読書を続けているだけだけで、日本人の平均読書量といわれる年間6冊を優に超えるんですよ」
「時短」「効率化」を多くの人が求める今の世の中。映画を2倍速で見たり、マッチングサービスをかけもちして1日に数人とデートをする人も多い。一方で「チャプターズ」は月1冊、じっくり本を読み、出会えるのは月1~4回。
「あえて、今の時代にスローなインターネットのサービスを提供したかったんです。本を読んでその先に出会えたらいいな、そんなユルさと余裕の中で楽しめる人たちは、なんとなく同じ価値観を共有している気がしますし、だからこそマッチングしやすくなると思うのです。
これは私の個人的な考えですが、ドラマや映画は最初の3話や、最初の30分がつまらなくても、だんだん面白くなる、ということがあります。けれど本は、最初の100ページほど読めば、好きかどうか、面白いかどうかわかる気がするのです。その判断は実は本の方が時間はかからないと思っているのですよ」
読書体験で、自分の「好きのスイッチ」を言語化しておく
まだ見ぬ誰かと会うために、本のページをめくる。その時間を経て出会ったふたりは、どんな話をしてお互いを知っていくのだろう。
「オンラインで話す際、ほとんどの方が本の話をしていて、お互いの仕事や生活の話はしないんだそうです。その後、連絡先を交換し個人的に会って、だんだん本以外の話をしてお互いを知っていくようです」
「チャプターズ」は、選書をし、その先に出会いを用意するのみ。だからカップル成立率や、成婚率などのデータは追わない。「アペロ」以降は大人として、自分たちで関係を築いていくのだ。けれどあえて、森本さんに、「出会ったあとのふたり」へのアドバイスをもらった。
「自分の好きのスイッチを知っておいてください。たとえば、『料理ができる人が好き』とか『背が高い人が好き』とか、具体的であればなんでもいいです。もしチャプターズで出会った人がこれに当てはまったら、逃してはいけないですよね。マッチングサービスや読書サービスの中では少し異色なチャプターズを継続利用している時点で、ベースの価値観のすり合わせはうっすら終わっていると思うので(笑)。
自分がなにを大切にしたいのか、どんな人に惹かれるのか、それを解像度高く言語化できていれば、いい人に出会えたとき、グスグスせずに突き進めるはず。そのためにも読書はとても役立ちますよ」
いつの間にか、見た目や肩書きを通してでしか人を判断できなくなってしまった大人たち。そんな自分に、そんな世の中に、うんざりしている人も多いだろう。そんな今こそ、本を通して新しい誰か、そして新しい自分に出会ってみてほしい。
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