睡眠不足から不眠症、夜ふかし、いびきまで、まさに現代病ともいえる睡眠のトラブル。スタンフォード大学医学部教授・西野精治さんの『スタンフォードの眠れる教室』は、そんなあなたのお悩みを科学的エビデンスをもとに解決へ導いてくれる一冊。睡眠の誤った常識をくつがえし、眠りの研究の最前線がわかる本書から、内容の一部をご紹介します。
窒息しながら眠っているのと同じ
お酒にはリラックス効果もありますし、寝つきも早くなるので目の敵にすることはないですが、睡眠薬代わりに使うというのはちょっと問題です。睡眠の研究者ではなく医師として発言するなら、「大いに飲みなさい!」と言うことはできません。
ほろ酔いになり、リラックスし、入眠できるという意味ではメリットですが、睡眠の質が悪くなるというデメリットを忘れてはいけません。
また、お酒も脳内のGABAの作用を増強して睡眠やリラックスに導きますので、鎮静型の睡眠薬と同様の副作用があります。すなわち、飲まないと寝られなくなり、常飲し、量が増えるという危険性です。
お酒を飲んで寝ると、「黄金の90分」となる深いノンレム睡眠は出ませんし、夢見のレム睡眠も抑えられます。眠りの質が悪ければ疲れは取れないし、脳と体のメンテナンスも行われないので、目覚めても疲れたまま。
お酒には脱水・利尿作用があるため、トイレに行きたくなるなど中途覚醒にもつながります。まして飲み過ぎで気分が悪くて目が覚める、翌日も二日酔いで起きられないとなったら、デメリットでしかありません。
お酒ではリラックスできても疲れは取れないと断言して良いでしょう。
強いお酒を急激に飲んで眠るのは、眠るというより昏睡に近いものもあるので、余計に注意が必要です。
過去に、学生のコンパ等で、急性アルコール中毒での死亡事故がありましたが、多量の飲酒では呼吸が止まってしまうのです。そういう意味では、昔、自殺によく用いられたバルビタール系の睡眠薬と作用が似ています。バルビタール系の睡眠薬もGABAに作動するのですが、ベンゾジアゼピンよりはるかに作用が強力で呼吸抑制も強いので、現在は呼吸管理下での麻酔薬としてのみ使用されます。
恐ろしいのは依存性
睡眠薬とお酒は似たところがあるので、「圧倒的にお酒が悪い」と言うつもりはありません。しかしお酒には習慣性があり、徐々に飲む量も増えるものです。入眠目的のちょっと一杯のはずが、二杯、三杯と量が多くなり、毎日飲まずにはいられなくなるなど、依存性が増す危険も考慮しましょう。
悪い影響を最小限にし、単純に入眠のために飲酒をしたいなら、強いお酒をほんの少量飲むこと。「だらだらとたくさん飲む」というのは禁物です。それで、過緊張・過覚醒をオフにできるのであれば、私は睡眠研究者としては、無理にやめなさいとは言いません。
OECDによる「世界主要国のアルコール消費量」のデータ(2021年発表)を見ると、一人あたりのアルコール消費量第1位はラトビアで、2位オーストラリア、3位チェコと続き、日本は31位でした。
これはどんな場面で飲むかを考慮していないデータですが、2021年秋の日本の調査では、今後のお酒の楽しみ方について「一人で自宅で飲む」と回答している人が51.4%と最多だったそうです(クロス・マーケティング調べ、日経新聞掲載)。
自宅で一人で飲む場合、会話もありませんしストップをかけてくれる人もいません。つい量が増える可能性も依存性を高めるリスクもかなりあります。入眠のためのお酒であるなら、「強いものをほんの少し」を習慣づけることをお勧めします。
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スタンフォードの眠れる教室
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