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第二の人生

2024.07.19 公開 ポスト

日本はブラジルになぜ勝てた? 当時キャプテンの前園が振り返る「マイアミの奇跡」前園真聖

元人気プロサッカー選手で、現在は解説者やタレントとしても活躍している前園真聖さん。しかし一見、順風満帆に見える前園さんにも、かつてある挫折がありました。著書『第二の人生』は、世間を騒がせた「あの事件」から、執筆当時までの思いを正直に告白したエッセイ。意外な素顔が垣間見える本書から、一部を抜粋してお届けします。

ブラジル相手に日本が勝利した「マイアミの奇跡」

アジア地区予選で2位となり、アトランタ五輪の本番へこまを進めた僕たちサッカー日本代表は、D組に入ってグループリーグを戦うことになりました。その初戦の相手が、ブラジルでした。1996年7月21日、場所はフロリダ州マイアミのマイアミ・オレンジボウルです。

ここで「マイアミの奇跡」を起こして世界最強のブラジルに勝てたのも、基本的にはサウジアラビア戦と同じで強い気持ちで戦っていたからだと思います。

マイアミ・オレンジボウル(2007年撮影 ※球場は2008年に閉場 Totenkopf, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

日本代表とブラジル代表の間には、選手一人ひとりのプレーにも、チーム力にも、明らかに実力差がありましたが、それでも僕らは最後まで諦めませんでした。サウジ戦で学んだように、全力で戦えば勝利できると信じていたからです。

最初から「どうせ負けるだろう」と思っていたら、勝てる相手にも勝てません。ブラジルくらいの実力があれば、たぶん0-5とか0-7といったスコアでコテンパンにやられたと思います。でも「なんとかしてやろう」という気持ちでみんなが一丸となったから、奇跡が起こったのです。

 

対戦相手は、いつも僕らがテレビで観ている選手、世界のビッグクラブの第一線でプレーしているスターばかりです。

「こいつらと果たして互角に戦えるのか」という不安があった半面、同世代の世界のトップと戦える喜びも感じましたし、どれくらい通用するのだろうという興味も湧いてきました。

もちろん勝ちたい気持ちも強かったのですが、個人的には自分が世界基準でどれくらいのポジションにいるのかを測る絶好のチャンスだと思いました。テレビを観て感じる強さ、うまさ、速さと、真剣勝負のフィールドで身体で感じる強さ、うまさ、速さはまったく別物ですから、自分のなかでは彼らと戦うのがとても楽しみでした。

僕だけではなく、ヒデや城といった他の選手たちも「彼らを相手に何かやってやりたい」という思いは持っていたと思います。

なんとか前半を0-0で抑え、流れは少しずつ日本に

試合前、こういう展開で点を取って勝つ、というゲームプランは僕の頭にはありませんでした。たとえ綿密なプランを立てたとしても、相手が強すぎますから、自分たちのゲームプラン通りにやらせてくれるわけがないからです。

ただなんとか前半を0-0でいけたら、もしかしたら僕らにも勝つチャンスがあると思っていました。早い段階で点を決められると気持ちが折れて防戦一方で苦しくなりますから、何が何でも前半は無得点に抑えようと必死に身体を張りました。

 

それでもやはりブラジル人選手たちは強くて、うまくて、速かった

フラビオ・コンセイソンをワンタッチでかわして「よし! 抜けた!」と思ったら、身体をぶつけられて僕が逆にファウルを取られたり、完全にかわしてドリブルのトップスピードに乗ったと思ったら、後ろから追いつかれてボールを奪われたりしたこともありました。

 

それでも前半をなんとか0-0でしのぎました。こうなるとブラジル代表には、日本相手なら大量得点で圧勝するべきというプレッシャーがかかってきます。

僕らは失うものは何もありませんでしたから、そういう展開になると勝負の運というか流れが徐々にこちらに傾いてきました。ブラジル側は後半になるとプレッシャーがかかり、明らかにミスも多くなってきました。

日本は後半に挙げた1点を守って勝利しましたが、あの得点シーンも向こうのミスが発端です。

 

僕がウィングバックのみちりゆう選手にパスを出し、路木選手がディフェンスラインの裏のスペースにボールを放り込みました。

1トップの城がそこへ反応しようとした瞬間、ボールを慌てて処理しようとしたセンターバックのアウダイールとゴールキーパーのジーダが正面衝突します。無人になったゴールに、ボランチの位置から飛び出してきた伊東輝悦選手がインサイドキックでボールを冷静に流し込みました。

あんなミスはブラジルにはあり得ないことですが、ブラジルにかかっていた目に見えないプレッシャーがミスを誘発したのです。あと何回戦っても恐らく勝てない相手ですが、あのときは初戦でブラジルのコンディションが不安定な部分もあり、奇跡が起きたのです。

 

試合には勝ちましたが、内容では完全に負けていました。向こうにはシュートを28本も打たれていますが、日本代表は4本しか打てていません。それでも勝てたのは、プレーのうまさ以外の要素が何か働いていたと考えるしかないのです。

あのときは日本国民の誰一人として、日本代表がブラジルに勝てるとは思っていなかったでしょう。でも、不可能と思えることができるのがサッカーであり、ラグビーであり、そしてスポーツ。その奇跡の原動力になっているのは、勝ちたいという気持ちの強さであり、情熱の熱量の大きさなのです。

*   *   *

この続きは書籍『第二の人生』でお楽しみください。

関連書籍

前園真聖『第二の人生』

弱い心を認めて、自分にダメ出し。失敗するからこそ、学べることがある。“強面”キャラを捨て、素の自分になれた。――ゼロから再出発するための、58の心得。「あの事件」から今日までの思いを、正直に告白したエッセイ。

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第二の人生

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前園真聖

1973年鹿児島県生まれ。92年、鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。96年、U-23日本代表主将としてアトランタオリンピックに出場、ブラジルを破る「マイアミの奇跡」などを演出。その後、ヴェルディ川崎、サントスFC、仁川ユナイテッドFCなど、国内外のチームを渡り歩き、2005年現役引退を表明。現在はサッカー解説やメディア出演のほか、「ZONOサッカースクール」を主催し、子どもたちへのサッカーの普及活動などで活躍。

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