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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2024.06.30 公開 ポスト

第226回「ひざにやさしく」いとうあさこ

6月20日木曜日19時、赤坂・草月ホールの幕が上がりました。年に一度、一回限りの単独ライブ。

いとうあさこお誕生日会『ホップ! ステップ! ステップ! ~ひざにやさしく~』

見に来てくれた仲間たちに「ひざに全然優しくなかったね」と言われましたが、うん、たしかに。ほら、ネタって1本ずつ作るじゃないですか。

 

最終的に出来上がったものたちを並べてみたら結果、ひざにやさしくする瞬間がほぼない120分となっていた。そんな感じです。

 

毎年2月末~3月あたまにタイトル決め、みたいなところから動き始めて。いつも大久保さんにもご出演いただく幕間のVTRは撮影が5月上旬とかなので一番最初に内容を考えて、必要なものがあれば買いに、又はレンタルしに行く。ちなみに今年のVTRは『お悩みザ・ベストテン』。懐かしい『ザ・ベストテン』の世界観の中で私と大久保さんが“お悩み”を第10位から語っていくのですが、司会の“黒柳さん”“久米さん”をマネキンにしようと。マネキンと言っても顔、大きさ、手足が動くかどうかなど、本当にいろんなものがあるので、ベストなものをネットで探して業者さんに連絡。いろいろ相談させていただき、選んだマネキン2体を倉庫に取りに参りました。一人で行ったもので皆さん、車に積むのも手伝ってくださりありがたし。

ネタそのものはだいたい3月中旬くらいから取り掛かるのですが、毎年本番直前まであーでもないこーでもない、の繰り返し。6月に入ったらなんかずっと追っかけられる夢を見るような精神状態に突入いたします。もう数日前なんか食欲もなくなっちゃったりなんかしちゃったりして。あさこったらデリケート。うふふ。当日は栄養のゼリーをチューチュー吸うのが精一杯なくらい。なのに私、痩せない。なんで? 以前ちょっと書きましたが“前世ラクダ説”が再び浮上。栄養の貯え方がすごいのか? 半年無人島で生活しても痩せなかった、という伝説の持ち主・あさこ。あ、しいて言えば今回、理由はわかりませんが足だけ痩せました。足、と言っても太ももとかふくらはぎ、とかじゃなくて足首より下の、足。要は靴がガパガパになる、という。謎の痩せ方。どうも、足から痩せるタイプです。

ま、そういう感じなのでライブ前の1週間なんてだいぶ心がキューキュー状態。ただ今年はそんな時、まるで天使のような子どもちゃんたちに救われたのです。しかも同じ日に二度。まずは朝、出がけのこと。マンションのエレベーターの扉が開くと、こちら向きにベビーカーに乗った女の子がママと乗っておりまして。私と目が合ったとたん、小さな手で私を招き入れる動きをしながら、めっちゃ笑顔で「どうぞぉ」と。「ありがとうございます。」そのあまりにも可愛らしく清らかな彼女のふるまいに、自然にお礼の言葉が出る。もうそれだけで十二分の幸せいただいたのに、その母娘さんの方が先に降りたのですがその瞬間、またホントにかわいい笑顔で私に向かって「バイバイ!」うん、バイバイ。そして扉が閉まる時、聞こえた優しいお声のお母さんの言葉。「ちゃんとバイバイ言えたね。」ああああああ!! 何ですか!? これ!! こんな“平和”がこの令和の世にも存在していたなんて!! もう頭の先から爪先まで浄化されてゆく!!

この世のものとは思えぬ至極清らかな出来事に癒されたところから始まったその一日。仕事を終え、またマンションに戻ってきた私。エレベーターを待っているとポーンという音と共に扉が開く。誰か降りてくるかも、と思い、端っこに寄っていると何故か髪の毛ビチョビチョの、小学校低学年くらいの男の子が♪ブリンバンバンブリンバンバンブリンバンバンボン、とCreepyNuts『Bling-Bang-Bang-Born』を本域で歌いながら、そして踊りながら出てきた。そのエレベーターには誰も乗っておらず、彼一人。別にイヤホンで曲を聞いているわけでもなさそうなので、おそらく鼻歌の感じで歌っていたら、どんどん楽しくなってしまって、気づいたら本域、みたいな感じでしょうかね。扉開いたら私が立っていたので、それまで“一人の世界”だったから一瞬我に返ってひるみましたが、「いや、僕は別に気にしてないし。こうやって生きてきたし」とでも言うかのように、“中くらいの本域”で続きを歌い踊りながら外に出て行った。何よこれ!! バカかわいいんですけどぉ!! そして何で髪の毛ビチョビチョだったのかわからないんですけどぉ!! そのたまらない一瞬の出来事に、ゆっくりニヤニヤクスクス。いやはや幸せだ、ホント。そんな朝も夜もマンションのエレベーターで癒されたおかげで、どれだけ心洗われたか。“どうぞちゃん”&“ブリンくん”、ありがとう。

さてさて、そんな癒しもいただきながら挑んだ今回のライブ。今年はパリオリンピックという事でフランス発祥のパルクールしている“風”のポーズをして、お客様にパルクールしている“風”の写真を撮っていただく、というネタで、そのポーズの研究中、どこにもぶつけていないのに手の甲がぷっくりアザになってしまったり。オープニング、後ろからライトが当たってかっこよいシルエットから始めるつもりだったのに、後からライブのVTR観たら足開いて立っていたせいでお股から後光が射しているスタートだった事が発覚したり。MV完コピで櫻坂46「何歳の頃に戻りたいのか?」を踊ったのですが、VTRに不具合が出てしまい、まさかの2回踊る羽目に。このMVの最初、トマトジュースを飲むんですね。つまり、2杯飲んで全力で踊る、という。ええ、ちゃんと気持ち悪くなりました。ま、そんなこんなで毎年いろんな事がありますが、結局幕が開いてお客席のパワーを全身で浴びると、辞められまへんなぁ、です。こんな“54歳なりたてあさこ”の全力の“生き様”を見届けに来てくださったお客様はもちろんのこと、お越しになれなかった方、ちょっとでも思いを馳せてくださった方、そしてこのライブに関わったすべての方々に心から感謝です。本当にありがとうございました。来年は55歳。ゴーゴーパーティ、かな? また1年、がんばるんば。

【本日の乾杯】毎年ライブが終わると大久保さんと仲良しのひみちゃんがお誕生日祝いをしてくださいまして。今年はお寿司屋さん。これ、“とろたく”です。もう海苔もご飯も見えないくらいたっぷり。あ、これ、私にとってはおつまみです。大好きな日本酒ロックで乾杯。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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