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15歳からのリーダー養成講座

2024.08.14 公開 ポスト

しずかちゃんに学ぶコミュニケーションの極意 「アサーティブ」な対話とは工藤勇一(横浜創英中学・高等学校前校長)

「いいリーダー」には誰でもなれます。生まれつきの才能はいりません。人気者でなくても大丈夫です。でも、リーダーになる人が必ず知っておかなくてはならない、とても大切なことがあります。それは……。数々の大胆な学校改革を実現し、各界からその手腕が注目される工藤勇一さん。生徒たちに自ら「リーダーシップの基本」を講義した特別授業を書籍化した『15歳からのリーダー養成講座』から一部を抜粋します。

相手の言い分をいったん受け入れる

リーダーになると、いろいろな人と対話をしないといけません。自分のことしか考えなかったり、自分と気が合う人だけを選んで対話したりしているようでは、リーダー失格です。

そこで今回、覚えてほしいコミュニケーションのコツがあります。これを知っているか知らないかで人生が大きく変わるくらい、とても重要なことです。

難しい言葉で「アサーション」とか「アサーティブ・コミュニケーション」、要は「相手の言い分をいったん受け入れてから、自分の言いたいことを伝える」ということです。これを癖にできると、対話の力が飛躍的に伸び、対人関係もよくなります。

みなさん、「ドラえもん」のしずかちゃんは知っていますよね。

ドラえもんに出てくるキャラクターは性格がはっきりしているので、心理学の世界でよくたとえとして使われます。ここではジャイアンとのび太としずかちゃんの3人を例に考えてみましょう。

 

まずジャイアンは、時代の変化なのか、最近は少し柔らかい性格に調整されている気がしますが、昔のジャイアンはものすごく自己中心的で攻撃的です。その対極にいるのがのび太です。いつもオドオドしていて、受け身で、上から強く何かを言われると断れません。

では、しずかちゃんの性格はどうかというと、自分の意見ははっきり言えるのですが、そうかといってとがっているわけではない。むしろ誰にでも優しい人です。

 

こんなシチュエーションを想定してみてください(以下は、「ドラえもん」の登場人物だったらこんな言い方をするのではないかという、想像に基づいたものです)

夏休みのある日、ジャイアンがのび太をプールに誘います。のび太は用事があるけれど、ジャイアンの誘いを断ったらあとが面倒なので、断れません。「嫌だなあ。行きたくないなぁ」と内心では思いながら、ついていくんですね。

 

そしてジャイアンはのび太を引き連れて、しずかちゃんを誘いに行きます。でもしずかちゃんはお稽古ごとがあるので行けません。

さて、みなさんならどう断るでしょうか。

しずかちゃんの答え方はシンプルですが、完璧です。

 

ジャイアンにプールに誘われたときのしずかちゃんの第一声は「いいわね、すてき!」です。

そして第二声ではしっかりと本音を伝えます。「でも、残念だけどお稽古ごとがあるから行けないの。また誘ってね」と。

 

もししずかちゃんが最初に「いいわね、すてき!」を言わずに、「残念だけどお稽古ごとがあるから行けないの」と答えたら、ジャイアンはどう感じると思いますか。

もしかすると、「あ、俺と行きたくないんだ」と思うかもしれませんよね。お稽古ごとがあるのは事実でも、相手には、それが誘いを断る言い訳のように聞こえてしまうことがあるわけです。

それを最初に「いいわね、すてき!」と伝えれば、相手の反応はまったく変わってきます。相手の主張に対してまずイエスと答えることで、相手が不快になったり傷ついたりするリスク、変に勘ぐったりするリスクを減らすことができるのです。

議論の場でも使える「アサーティブ・コミュニケーション」

この手は僕もよく使っていました。

まだ若かった頃、先輩教師から「今日、帰りにちょっとどう?」とお酒に誘われることがたびたびありました。仕事は忙しいし、行けば帰りがあまりにも遅くなるので、本音では行きたくない。でも断れば、「俺と飲みに行くのが嫌なんだろう」などと言われてしまう。困ってようやく思いついた方法が、まさにしずかちゃん話法だったのです。

 

実際にはどうしていたのか。「今日、帰りにちょっとどう?」と誘われると、僕はまず「ビールですか。いいっすねー! 最高っすねー!」と即答します。そしてそのあとに、「でも、仕事終わってないんすよー。余裕ができたら、また誘ってください」と続けるのです。

「最高っすねー!」のあとに変な間を空けると、「じゃあ行こうぜ」と言われてしまうので、間を空けないのがコツです(笑)

ワンクッションをはさむだけのことですが、良好な人間関係を保つのに、とても役立ちます。全員と仲良しになる必要はありませんが、わざわざ敵を増やす必要はありませんよね。

 

しずかちゃんのように、相手の発言を肯定的に受け入れてから自分の主張を伝えることを、「アサーティブ・コミュニケーション」と言うのに対して、ジャイアンのように一方的に自分の主張を伝えることを「アグレッシブ・コミュニケーション」、のび太のように自分の主張を言えないことを「ノンアサーティブ・コミュニケーション」と言います。

アサーションとは、もともとは日本語で「自己主張」という意味の言葉です。自分の主張をしたいときは自分のことを考えつつも、相手への配慮も忘れないというバランスが大事になります。

 

アサーティブな話し方は、友人関係、職場の人間関係、親子関係、先輩後輩関係など、ありとあらゆる場面で有効です。

そして日常会話だけではなく、議論をするときにもぜひ使ってみてほしいのです。たとえば自分とはまったく反対の意見が出たときに、イラッとして直球で反論を試みても、まずうまくいきません。感情的な対立を生むだけです。

 

自分の主張を聞いてほしいのであれば、相手の発言もリスペクトしないといけません。「なるほど。おっしゃる通りですね」といったん受け入れてから、「でもこういう考え方もできませんか? 」と自分の意見を表明すると、建設的な議論がしやすくなります。

もしくは、話の流れでどうしても相手の問題点をいろいろ指摘しないといけないのであれば、指摘すること以上の量の賛美の言葉をまず相手に伝えましょう。そのあと指摘に入っていけば、相手もこちらの言葉にちゃんと耳を貸してくれます。

ぜひ日頃から意識して練習してみてください。

関連書籍

工藤勇一『改革のカリスマ直伝! 15歳からのリーダー養成講座』

結果を出せるリーダーになるための「基本の〈き〉」を身に付ける。 初めて部下を持つ人・チームを率いる人必読! 数々の大胆な学校改革を実現し、教育関係者だけでなく、経営者やビジネスパーソンからもその手腕が注目されるカリスマ校長・工藤勇一氏。工藤校長が、生徒たちに自ら「リーダーシップの基本」を講義した全8回の特別授業がついに本になりました。

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15歳からのリーダー養成講座

初めて部下を持つ人・チームを率いる人必読!
人はどうしたら動いてくれるのか。
迷ったときは、どう決断したらいいのか。
メンバーの対立はどう解消したらいいのか。
言いたいことはどうしたら伝わるのか。

数々の大胆な学校改革を実現し、教育関係者だけでなく、経営者やビジネスパーソンからもその手腕が注目されるカリスマ校長・工藤勇一氏。工藤校長が、生徒たちに自ら「リーダーシップの基本」を講義した全8回の特別授業を公開します!

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工藤勇一 横浜創英中学・高等学校前校長

横浜創英中学・高等学校前校長。1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校長(~2020年3月)。教育再生実行会議委員、内閣府規制改革推進会議専門委員、経済産業省産業構造審議会臨時委員など公職を歴任。麹町中学校では、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行し、教育関係者だけでなく、経営者・ビジネスパーソンの間でも注目を集める。初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部を超えるベストセラーに。他に『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』(SB新書)、『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』 (鴻上尚史氏との共著/講談社現代新書)、『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』(苫野一徳氏との共著/あさま社)など。

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