まだ10代の頃だっただろうか。
海に囲まれた島でのロケ。
この時代は映画での地方ロケがとにかく多くて、私は東京での撮影の方が緊張してしまうというくらい、地方ロケばかりしていた。
学生もので、私は陸上部のマネージャー役。
出番はそんなに多くなく、暇な時間の方が多かった。
みんな毎日大変そうななか、私は島で唯一のカラオケに1人で行ったり、ふらふらと図書館に行ったり。っというのは一回くらいで、ほとんどが島を歩き回って写真を撮りながらお散歩をしていた。
ある日、坂を登って、丘の上に向かったと記憶している。帰り道、小さなトラックが通りがかった。
麦わら帽子をかぶったおじいさんが運転していた。
私の横に並走するように徐行した小さなトラック。
おじさんは私に声をかけてくれた。
詳しい内容は覚えていないけれど、辺鄙な場所で若い子が迷っていると思って声をかけてくれたのだろうか。
私は助手席に乗せてもらい、泊まっていた場所の近くまで連れて行ってもらった。
その出来事をスタッフさんに話したところ、
「誰か知らない人の車になんて乗っちゃだめだよ!危ないから!それに女優は助手席にも乗っちゃダメ!違う意味で危ないから!」
と言われた。
地方ロケにマネージャーさんが付かないことはほとんどだったので、預かっている身の大人からしたら、危機管理という意味でごもっともな意見だったのだろう。
島のおじいさんの優しさということで、私はほっこりしていたのだが、もうひとつの、助手席に乗っちゃダメの意味がよくわからないと思っていた。
時が経った。
とある作品でロケ中のこと。移動の時間。
ロケバスの助手席が空いていた。マイクロと呼ばれるこの車は最大20人以上乗れるであろう大きなバス。
その助手席は大抵の場合、助監督やAPさんが座っている。私はいつも羨ましくて、いつか座ってみたいと思っていた。
空いてるってことは座ってもいいかなっとプロデューサーに聞いてみた。
「ダメダメ。俳優は助手席になんて座っちゃダメだよ。1番危ない席なんだから」
そうか。事故の確率が高くて危ないってこと?それで、乗っちゃダメってことなのか?
という訳で、その日から私の淡い願望はしまってきた。
そんな憧れの助手席。マイクロの助手席。
この日は乗る人数が少なくて、ゆったりだった。片付けが続くなか、人数のリサーチをする私。更に、助監督さんも別の車両と判明。
「助手席座ってもいいかなぁ〜怒られるかなぁ?」とふとメイクさんに話すと
「え、全然いいんじゃない?」
「え!いいの⁉︎怒られない??」
と、まさかの回答に驚きつつ、それならと座ってみることにした。
運転手さんに、お邪魔じゃないですか?と聞くと
「全然いいけど、山道だから木とかギリギリで迫力あるかもよ」
「わー!最高です!そういうのが好きなんです‼︎」
みんなの準備が整い、プロデューサーが車内にスケジュールの確認で来た。
「え、助手席座る俳優初めてみたよ、そこでいいの?」
「え、いいですか?前からずっと座ってみたかったんです」
「別にいいけど、面白いね〜」
ダメじゃなかった。怒られなかった。
びっくり‼︎
過去に2回、ダメと言われていたから、みんなダメっていう認識なんだと思っていた。
プロデューサーのOKが出たなら安心だってことで。
わくわく乗車スタート。
何故憧れていたかというと、とにかく乗り物が好きでそこから見える景色の変化が好きだからで。
車も助手席が好きだけど、マイクロとなるともっと楽しそうっと想像していた。
長年の憧れ。
ついについに。憧れのマイクロの助手席。
座ってみると、想像通り目の前の窓が大きいのはもちろん、横の足元も窓になっている。
完全にアトラクションだ。アトラクションに乗っているような気分だ。
流れる景色を前から横まで、たっぷり体感出来てしまった。夜マイクロに乗るとなると、みんな疲れているし、運転手さんも運転しやすいように電気が消されて真っ暗になる。
その点、助手席は外の世界からの光が輝き、わくわく景色を楽しめてしまう。
なんとも快適でなんとも楽しい時間で、疲れなど吹っ飛んでいったような時間だった。
真っ暗な中でじっとしているより、私にとっては遥かに最高なご褒美のような時間。
憧れはずっと憧れなんだとしまっていたけど、思い込まずにひょっこり行動してみると、意外な結果をもらえたりするのかも。うん。それって、生きていくうえで結構、いや、かなり大事なことかも。
長年の夢があっさり叶った、そんな日でした。
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いつまで自分でせいいっぱい?
自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。