『パーティーが終わって、中年が始まる』で「定職に就かず、家族を持たず、不完全なまま逃げ切りたい」と、自身の中年クライシスについて赤裸々に綴ったphaさんと、40代独身男子が知っておきたいあれこれを専門家に直撃取材してまとめた『大人ぼっちマニュアル 40代からの人生攻略を専門家に教えてもらいました』の漫画家のよしたにさん。ともに1978年生まれ、インターネット第1世代という共通項を持つ二人が「中年が孤独と不安をこじらせないために」をテーマに語り合いました。当日のイベントの様子を前後編に分けてお届けします。
また、今回の対談全編とphaさんの文章講座のアーカイブ動画も再販売します(視聴期限:3月3日17時)。こちらもぜひご活用ください。
構成:安次富 陽子
あなたの中年のはじまりはどこから?
pha よしたにさんと僕は今日初対面ですが、よしたにさんのことは割と昔から知っていて、同じ世代の人が頑張っているなと感じていました。
よしたに 僕もphaさんのことは前から知っていました。サードプレイスという言葉がはやる前からコミュニティを作って、シェアハウスをしている様子を見て「友達が多そうで羨ましいな……」と思っていました(笑)。
pha 僕がシェアハウスをやり始めたのが28歳とかその頃で。南町田に「ギークハウス」を作って、同居人はTwitterで募っていました。「ギーク」は、コンピューターオタクみたいな意味なんですけど、「文字でコミュニケーションをするのが好きな人たち」で集まって暮らしていました。
よしたに それが本当に眩しくて。20代くらいだと、友達がなんぼいても足りないと思ってしまうじゃないですか。当時の僕に友達が全然いなかったわけではありませんが、phaさんは毎日気の合う仲間に囲まれていいなと思っていました。
pha 当時はそうですね。それが「パーティー」だったわけですが、それはもう終わりました。今は、もういいかなという気持ちです。当時も友達が多いように見えて、あまり気の合わない人もいましたし。いろいろと経て、少数の信頼できる人だけいればいいと思うようになりました。
よしたに 全員と仲が良かったわけではないんですね。
pha 別に仲が悪いとまではいかないけど。シェアハウスで暮らしていた頃は、「同居人」という感じで、「友達」とは別ジャンルというか。一緒に生活してはいるけれど、距離感もそれぞれで「仲が良い=一緒に暮らす」ではありませんでした。
よしたに へぇぇ! 気の合わない人とも一緒に暮らすのは、僕にはちょっと耐えられないかも。
pha 僕も今は耐えられないかな。
よしたに 何がきっかけで「もういいかな」に変わったんですか?
pha なんとなく、年齢を重ねる中でうるさいのが苦手になってきたとか。昔は毎日誰かが入れ替わり立ち替わりやってきて、ワーワー騒いでいるのが楽しかったんですけど。40歳の手前くらいから、ちょっと疲れるなという感じになってきて……。自分より15歳くらい年下の人とかが増えてくると、明らかな世代の違いも感じたし。自分はもはや第一線にはいないんだなとわかって、その辺から中年を意識するようになったんですよね。よしたにさんはどうですか?
よしたに 僕は、やっぱり前頭部の反射係数の向上(笑)。お風呂から上がって、わしゃわしゃと頭を拭いてパッと顔を上げると、鏡に映る自分の前頭部が知らない角度で光っているんです。
pha あぁ、わかる。髪、薄くなってくる。
よしたに 最初は否定していたんですよ。ところが現実を見ないようにしていても、排水溝付近に髪が群生しているのが目に入り……。だんだん受容モードになって、AGAの薬を飲み始めた。そこが中年を認めたところでした。
こっちの自分が好きだから
pha 力強く頷いている方が会場にいますね。
よしたに めっちゃ心強いです!(笑)
pha 薬は自発的に飲み始めたんですか?
よしたに はい。AGAの薬は、毛根が残っているほどいいそうなので。だから、素早い決断が大事というのを知って、早めに決断しました。
pha 僕もAGAの薬を飲んでみたことがあるんですけど、体調が悪くなってしまってやめました。だからもういいハゲになろうと考えています。
よしたに 40歳までフサフサでいてくれてありがたいと感謝に切り替えるか、まだ戦うべきか微妙なラインです。
pha どのみち撤退戦じゃないですか?
よしたに あはは。確かに。半ばを過ぎたら撤退戦なところはありますね。だけど、やっぱり薬を飲むか飲まないかでいうと「ハゲてる自分より残ってる自分のほうが好き」って思うので毎朝続けています。
pha わかる。僕も副作用がひどくなかったら、続けていたと思います。まだちょっと若くみられたいというか。
よしたに モテたいから飲んでいる部分がないとは言わないですけど、自分を好きでいたいからAGAの薬を飲むんですからね。我々、中年男性は。
サードプレイス、むずいっす問題
pha 感情や身体に変化を感じる中年世代に、よしたにさんの『大人ぼっちマニュアル』はすごくいいですよね。健康、仕事、老後、お金、人間関係……気になることが全部ある。書かれていることをちゃんと実践できたら完璧なんだろうなと思います。
よしたに ありがとうございます。本書の内容的には「完璧にはできないけど、50点を60点に、60点を70点にすることを目指しましょう」という本です。なので、できるところから始めてもらえたらいいなと思います。
pha よしたにさんも、全部できているわけではない?
よしたに はい。人間関係……特に恋愛関係は全然できていないです。
pha 人間関係の話になると、たいていサードプレイス作りを提案されますが、これって結構難しくないですか? 一人で近所の居酒屋に行って、友人を作ろうって。確かにそれぐらいしか思いつかないけれど、実際は……。
よしたに 難しいです。勇気を出して、飲み屋さんに一人で行ったんですよ。ハムカツ一皿が200円とかのお店に。けど、誰とも喋らないままひとり酒して帰ってきました。
pha そうなりますよね(苦笑)
よしたに ひとり飲みが得意な友人は、「それでいい」と言うんですよね。一回で何か成果を得ようとして行くからがっかりしてしまうのであって。その場にいて、それなりの自分の時間の過ごし方を持って楽しんで通っているうちに、自然と顔見知りができていく、というのが上級者だと。辛抱が足りないんだと思います。僕は。
pha 初めて入るお店で、初対面の人と一気に仲良くなるって、逆に胡散臭いですよね。
よしたに それができたら、違う人生になっていたでしょうね。なので僕は裏方的にコミュニティに参加するようにしています。友達の麻雀大会のサポートとか。そちらのほうが性に合う感じ。phaさんは、どんなコミュニティに参加していますか?
pha 僕は最近、高円寺の「蟹ブックス」で週に1回か2回店員をしています。それと同年代の人たちとしているバンドでもたまに集まって。コミュニティというとそれくらいかな。あとは仲のいい友人たちと1対1で会うことが多いです。
よしたに 新しいコミュニティがなくても、参加しているところがあったり、友人がいるだけで全然いいですよね。昔は新しい友達を作ることが大事だと思っていたけれど、今は切らさないことのほうがより大事だと感じています。
pha つながりを切らないよう、どんなことに気をつけていますか?
よしたに 若い頃の独身男性特有のノリからの脱却です。ちょっと汚い言葉を使ってお互いを傷つけ合うことで、互いの信頼の強さを確認しますみたいなコミュニケーションの取り方ってあるじゃないですか。あれを40代同士がやると本当にお互い傷つくんです。40代のおじさんに優しくしてくれるのは、40代のおじさんしかいないというのに!
pha あはは!
よしたに それでお互い傷つける言葉はやめようという話になって。今では「風邪ひいた」と連絡が来ると「大丈夫? 何か持って行こうか?」と返すようになりました。以前は「寝ろ!!」って一言だけで済ませていたんですけど。
「もう40」と「まだ40」
pha『パーティーが終わって、中年が始まる』はどう読みましたか?
よしたに これまでの人生の一つの区切りが書かれた本だなと思いました。冒頭で、「楽しいことがいっぱいあったけれど、そんなに楽しくなくなってきた。この先の下り坂の長さに怯んでいる」というようなことが書いてあったので、どんな恐ろしいことが……!? と思いながら読みました。だけど正直、そこまで弱ってはいないじゃないですか。若い頃と比べると、確かに衰えは感じるけれど。
pha そうですね。まだヨボヨボではない。
よしたに だから、そういう喪失感や衰えに対して鈍感な自分が能天気すぎるように感じて「イベントでphaさんと並んでも大丈夫か?」と思った部分があります。2冊並べて、もう40とまだ40の本だと感じたし、phaさんとは生き方が真逆なんだなと思います。
pha 僕も危機感を強く感じているというより、「もう駄目だ」と言っているのが好きだからこういう風に書いているところがあります。なので、よしたにさんの本と僕の本ってそんなに変わらないというか。やっぱり同世代の話だなと思います。
よしたに 僕の本は「空元気を出してなんとかやって行こうよ!」という本で、phaさんの本は素直に、「衰えが来たけど生きていく」という感じ。穏やかな筆致も心地よかったです。
pha同世代の人がこうして書いていてくれるのは心強い感じがします。よしたにさんには、こういう感じで50代、60代と書き続けて欲しいです。そしていつか「老後ぼっちマニュアル」を。
よしたに ろ、老後もぼっち前提!? そこはね、「老後わいわいマニュアル」とかをね、描いていけたらいいなと思います(笑)。phaさんのこれからも楽しみです。お互い書いてさえいれば知ることができるので。pha そうですね。お互い、書き続けましょう。
(後編へ続く)
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