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大人ぼっちマニュアル

2025.02.03 公開 ポスト

おじさんの孤独を癒してくれるのはおじさんしかいないpha/よしたに(漫画家)

パーティーが終わって、中年が始まる』で「定職に就かず、家族を持たず、不完全なまま逃げ切りたい」と、自身の中年クライシスについて赤裸々に綴ったphaさんと、40代独身男子が知っておきたいあれこれを専門家に直撃取材してまとめた『大人ぼっちマニュアル 40代からの人生攻略を専門家に教えてもらいました』の漫画家のよしたにさん。ともに1978年生まれ、インターネット第1世代という共通項を持つ二人が「中年が孤独と不安をこじらせないために」をテーマに対談。後編では、独身としてこれからどうエッセイを書いていくか、おじさんの孤独問題、そしてパートナーについて等、多岐に渡る悩みを語り合っています。(前編はこちら)。

また、今回の対談の全編とphaさんの文章講座のアーカイブ動画も再販売します(視聴期限:3月3日17時)。こちらもぜひご活用ください。

構成:安次富 陽子

インターネット第1世代のふたり

よしたに 僕とphaさん、漫画家と著述家が並んでいるように見えるかもしれませんが、二人ともエッセイ畑出身です。

pha そこも共通点ですね。

よしたに エッセイを書くのは、後半になるほどキツくなる感じがしませんか?

pha 後半って人生の?

よしたに ライフスタイルに変化が乏しくなってから、と言いますか。僕は、エッセイ漫画の中で最も成功しているひとりが西原理恵子さんだと思っているのですが、西原さんのすごいところは、ライフスタイルが頻繁に変わるんですよ。

pha ああ。

よしたに 最初はちょっと生意気な若手キャラから入って。

pha『まあじゃんほうろうき』とかの時代ですね。

よしたに そして、危うい感じの人と付き合って、母ちゃんになって、今はパートナーが高須院長。エッセイ作家としての生き方が完成されているなと思うんです。一方、僕らはライフスタイルを変えないことを選んでエッセイを書いている。これって結構初の試みなのではないかと思うんです。

pha 西原さんのような人生はなかなか歩めないですからね。特別なことが起こらなくても、淡々と書いていくというのを、中年世代の僕らが切り開いていくしかないのかも。

よしたに そうです。インターネット第1世代の我々が。

pha 大学時代に初めてインターネットに触れて以来、ずっと何か書いたりしてきたけれど、昔は自分より上の世代にネットで食っていくと考える人も、そもそもネットで表現する人とかもいませんでしたよね。

よしたに 今でこそインフラになりましたけど、当時は「村」でしたよね。何千人かがいる村。2000年代の初めの頃には、こんなに面白い人がいるんだってワクワクしていたけれど、結局小さなコミュニティの中で全員の顔を知っているから面白く見えただけで。僕も多分、村の面白い人の末端のほうにいたから、その恩恵に与って本を出せたみたいなところがある。今の僕らはもう、インターネットとともに老いていく最初の世代なんだろうなと思います。

「あ、孤独かもしれない」と感じた瞬間

pha 今回のテーマは「中年の孤独と不安をこじらせない」なんだけど、もともと僕はそんなに不安とかを感じるタイプではなくて。「先がわからないのは当然なんだから、仕方ないよな」という感じでいたんです。だけど、最近はちょっと不安を感じているかもしれない。

よしたに 何かあったんですか?

pha 2019年にシェアハウスを解散してから、僕と猫で暮らしていたんですけど、その猫が2024年のはじめに亡くなったんです。『パーティーが終わって、中年が始まる』が出て、話題になって忙しくしていたから気が紛れていたんですけど、ひと段落した頃に「あ、孤独かもしれない」「自分の人間関係のやり方は全部間違っていたのかもしれない」みたいな気持ちになって。ちょっと最近、落ち込みがちです。「このままこれで続いていくのかな。どうやっていこう」みたいな。よしたにさんはどうですか?

よしたに 僕は2024年の4月に「炊くんの生きのびごはん」という連載が始まりまして。毎月32ページ描かなきゃいけないので、月の半分はずっと家にこもりきりで漫画を描いています。エッセイ以外の漫画を描くのが初挑戦なので、そういう意味ではすごく充実しています。だけど、常にYouTubeの生配信を流していないと孤独に耐えられない部分はあります。

pha リアルタイムじゃないとだめなんですね。

よしたに はい。生でどこかに繋がっている感覚がないと、すごく寂しく感じてしまいます。

pha 寂しさがあるんですね。それって、この年代になると人間関係がちょっとずつ減っていくのを感じるようになるからかもしれない。明らかに誘いが減るとか。嫌われているわけではないだろうけど、みんなおじさんのことが好きじゃないんだろうなと思ったりもするし。自分も自分で、昔だったらいろんな人に会ったけど、なんかもうあんまり知らないおじさんにわざわざ会いたくない。

よしたに でもやっぱり、おじさんの孤独を癒してくれるのはおじさんしかいないんですよ。僕は絵を描きながら漫画家仲間とDiscordで作業通話をよくするのですが、1人のときより、確実に早く時間が過ぎます。

pha 1対1の会話ではなく数人でするんですか?

よしたに はい。複数人いるとラクです。気が向いたときにだけ話せばいいので。

pha いいですね。羨ましいな。

よしたに 文章を書くときは難しいか。でもおじさん同士で「寝落ちもちもち」(註:通話しながら寝落ちしてしまうこと)はしたくないです(笑)

単機能パートナーでもいいのでは?

pha パートナーについてはどう考えていますか?

よしたにパートナー……は、募集中です。積極的に「募集してます!」と呼び込みはしていないけれど、いつ来ても大丈夫ですよってのれんを掲げておくようにしているというか。

pha 僕も最近寂しさのせいか、パートナーがいるといいのかなと思う瞬間があります。相手がどういう人でもうまくいかない自信があるので、もう諦めていますけど。

よしたに 僕としては、近所に住んでいる人で「何かあったときにだけ連絡しようぜ」というのでも、十分パートナーになりうると思うんですよね。

pha ああ。それはいいですね。もう少し歳をとったら、そういうのが切実になる気がする。ただ健康に関する数値は悪くなっているけれど、とはいえまだ40半ばだからなという気持ちもあります。

よしたに もちろん、気が許せて、話も合う、全部乗せのパートナーを作れたら理想的だなと思います。でも、全部を満たそうとすると大変なので、単機能のパートナーをたくさん作るのが現実的ではないかと最近は思います。

pha 確かにそうですね。よしたにさんの本にも出てきますよね。助け合える友達をたくさん作ることはソーシャルサポートだと。

よしたに そうです。そう考えると、一人のパートナーに依存するリスクも見えてくるので、たくさんの人と少しずつ依存しあえるといいですよね。

交流より独白の時代があった

pha ”男性”は助けを求めたり、感情を吐き出すのが苦手と言われたりすることもありますが、そのあたりはどう思いますか?

よしたに 我々、インターネット第1世代じゃないですか。あの頃、ネットでコミュニケーションするよりも先に独白の時代がありましたよね。当時は「顔出しなんてそんな恐ろしいことをしてはいけない!」という風潮もあって、匿名・ハンドルネームが基本。素性を隠した状態だから、内面のドロドロを書いて、出しやすいっていう文化だったと思うんです。

pha ありましたね。

よしたに それを経験しているので、弱さを吐露する効用みたいなものがわかっていて、感情を話すことにあまり抵抗がないのかなと思います。

pha 確かに。あの時代のネットで身につけたのかもしれない。今の若い人たちは僕らほど自分のことを書かないですよね。かえって僕らのことを「あの世代の人たち、なんでネットになんでも書くんだろう」と思って見ているかもしれない。

よしたに ああー。

pha 僕の知り合いで、感情を吐き出すのが苦手な人は、たいていSNSが苦手で「何を書いたらいいのかわからない」と言うんです。でも僕には、何を書いたらいいかわからないというのがわからない。自慢より弱音のほうがネットには書きやすいんだろうなとは思うけれど。

よしたに 僕も自慢するのはちょっと怖いです。インターネットが村だった時代、リア充っぽいとかで攻撃されましたよね。

pha わかる。ブログに広告を貼るのも、怖くて絶対できなかった。話を戻しますが、よしたにさんを見ていると、感情を素直に出せる人は大丈夫そうだなという安心感があります。

よしたに 僕、サラリーマン時代に彼女に振られた話を漫画にしたんですよ。冷静に考えると、ただのサラリーマンが自分の失恋話をドラマチックに漫画にするってちょっと怖いんですけど。自分の弱いところをわざと晒して、笑ってもらうみたいな文化が昔はあったから、リアクションをもらえることに酔っていたんだろうなと思います。

pha 今のXでは弱音を吐いたら、誰かに揚げ足取られそうで怖いですよね。今インターネットを頑張っても、内面の吐露よりも別の方向に行ってしまう感じがします。ところで、その失恋のエピソードは好評だったんですか?

よしたに サイン会に来てくれた人はニコニコしていたので、好評だった……はずです。最近、懐かしさより、インターネットでブレークしていたあの日々は、もはや現実ではなく夢だったのではないかと思うこともあります(笑)

(完)

アーカイブ動画販売のお知らせ

下記のアーカイブ動画を再販売いたします。視聴期限は3月3日(月)17時です。ぜひこの機会にぜひご活用ください。

pha×よしたに「中年が孤独と不安をこじらせないために」(2024年11月29日開催)

       「phaさんはなぜ自分のことを正直に書けるのか?」(2024年9月28日開催)  

関連書籍

よしたに『大人ぼっちマニュアル 40代からの人生攻略を専門家に教えてもらいました』

著書累計220万部突破!『ぼく、オタリーマン』のよしたにが贈る、 40代ひとり暮らし必読のライフハックエッセイ。 そろそろ先が見えてきた仕事のこと、不安しかないお金や投資、 一生ひとりかもしれない場合に備えての家事の底上げ、右肩下がりの健康事情をどうするか、 これからの婚活や人間関係の保ち方について等々、40代独身男子が(男子じゃなくても) 知っておきたいあれこれを著者が直撃取材! この1冊で身も心も守れます。

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pha

1978年生まれ。大阪府出身。京都大学卒業後、就職したものの働きたくなくて社内ニートになる。2007年に退職して上京。定職につかず「ニート」を名乗りつつ、ネットの仲間を集めてシェアハウスを作る。2019年にシェアハウスを解散して、一人暮らしに。著書は『持たない幸福論』『がんばらない練習』『どこでもいいからどこかへ行きたい』(いずれも幻冬舎)、『しないことリスト』(大和書房)、『人生の土台となる読書 』(ダイヤモンド社)など多数。現在は、文筆活動を行いながら、東京・高円寺の書店、蟹ブックスでスタッフとして勤務している。Xアカウント:@pha

 

よしたに 漫画家

元システムエンジニア、現在は漫画家。長野県出身。東京の西側在住。1978年生まれのおひつじ座。『ぼく、オタリーマン。』『理系の人々』シリーズ(KADOKAWA)、『ぼくの体はツーアウト』『いつかモテるかな』(集英社)など、著書は累計発行部数220万部突破。現在はCOMIC OGYAAA!!にて「炊くんの生きのびごはん」連載中。

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