
絵本の中に入り込んだようなかわいらしいオビドスの街。家々の白壁が太陽の光りに反射して、一層白く目に飛び込んでくる。ぐるりと城塞に囲まれたオビドスは「谷間の真珠」と呼ばれており、城壁の中のこの小さな街に今も800人ほどの住人が暮らしているのだそう。
「昔、ポルトガルのディニス王がオビドスの街をとても気に入って、王妃イザベルにこの街を結婚のプレゼントとして贈ったんです。それ以来、オビドスは歴代の王妃に受け継がれていくことになったという歴史があるんですよ」
と、ガイドさん。
街がプレゼントってデカいな、などと思いつつ歩いていると「ポルタ・ダ・ヴィラ」に到着した。
「ポルタというのは門という意味で、ヴィラは村です」
かゆいところに手が届くガイドさんの説明に、一同、ふむふむ。
1380年に完成した街の南側の入り口であるポルタ・ダ・ヴィラ。かまぼこ型のベランダ的空間にびっしりと貼られたアズレージョ(ポルトガルのタイル)には、天使たちの絵が鮮やかな青色で描かれていた。
城塞の中でしばし自由時間。
名物のジンジーニャを売る店がそこここにある。ジンニーニャはサクランボの一種から作られるリキュールのことで、これを小さい小さいチョコレートのカップに入れて飲むのがオビドス流。
「ジンジーニャください」
お店の女性がチョコカップになみなみジンジーニャを注いでくれた。
「ちょっと飲んでから、パクッと食べて!」
彼女のジェスチャーどおりにやってみた。
ジンジーニャはまったりと甘く、ビターチョコとの組み合わせが絶妙。いわゆるチョコレートボンボンの味わいである。
え、コレ、お土産にしたい!
ジンジーニャとチョコカップのセットをいくつか購入。
観光地でお土産が買えると、ちょっと安心する。「もう、一生、来られないし」という焦燥感はしょうがない気がする。
正面に大きな古い教会が見えた。入ってみれば本屋さん。古い木の板やテーブルを本棚にしたシンプルな内装で、本の並べ方もしゃれている。アズレージョ柄の絵はがきやノートなど感じがいい土産物も並んでいた。
オビドスはどこをどう撮っても絵はがきのような街並で、こんなかわいい街が故郷だったらいいなと石畳の小道を歩く。小高い丘の上から見た太陽は、もう夏の顔をしていなかった。
土産に買ったジンジーニャとチョコカップ。
薄い薄いチョコカップを壊さずに日本に持ち帰れるかな?
心配だったが飛行機の揺れにも耐えてくれ、東京でジンジーニャに再会した。
つづく
うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。
イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。