『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。
今、動けないあなたへ
お手紙ありがとうございました。今日は眠れましたか。そうだといいなと思いながら、これを書いています。
努力を重ねて進学し就職し、みんなから憧れられる輝かしい道を歩いてきたあなた。
病によって家の中に閉じ込められ、持てる力を発揮できず、どれほど悔しいことでしょう。でも目の前の子どもは守らなければいけない。重たい体を引きずって自分の回復は後回しで、あなたはずっとずっと頑張ってきました。
洗濯物の山があっても洗い物の山があっても、そんなの関係ない。あなたの子どもがあなたを拠りどころにして、泣きついたり笑ったり暴れたりしているのなら、あなたはもう頑張っている。偉大なことをやっている。
子どもと暮らす者の代表として、私はあなたを讃えます。確認するまでもなく、みんなも同じ意見です。
手紙の中で、あなたは「母になれて幸せ」と書いていました。出産をきっかけに病気になったあなたが、「母になれて幸せ」だと、当たり前のように書いてありました。そう思わなかった日もきっとある。子どもを恨んだことだってあるかもしれない。私だったらそうだから。でもあなたの結論は「母になれて幸せ」。いつもそこに還ってくるのだということに、私はとても感動しました。
ありがとう、と言いたいです。あなたが母になってくれて、本当によかった。
あなたは夢を打ち明けてくれました。苦しみの中で自分と向き合い、夢を思い出したこと。夢があなたを支えてくれたこと。その夢に体調や子どもの世話で向かえないこと。けれどいつか、と思い続けていること。
とてもとても嬉しかった。あなたは手紙の中で、ちっとも諦めていなかった。いつか、いつか、と希望を持っていた。強敵現る、と思いました。あなたのいつか書くものを、私はすでにこんなにも読みたい。あなたはきっと、あなたにしか書けないものを書いて、あなたにしか救えない人を救う。
あなたの手紙が届いた日は、エッセイの企画が一つダメになった日でした。
エッセイストになれたけど、エッセイストであり続けるのは難しい。
そんな時にあなたの手紙が届いたのです。友だちや家族以外からもらう、はじめての直筆のファンレターでした。
思い出しました。DMやSNSや文学フリマで「夢をみていいんだと思いました」「世界が明るく見えました」と伝えてくださった方々。
私の書くものを待っている人がいる。
今年もエッセイを書けるように、私もっと足掻きます。
ほらね、あなたの書いたものはすでに私という人間を救いました。
風邪が大流行中ですね。あなたとあなたの家族が健やかでありますように。今夜ぐっすり眠れますように。
あなたの夢を楽しみにしています。
清繭子
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夢みるかかとにご飯つぶ
好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
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