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衰えません、死ぬまでは。

2025.01.31 公開 ポスト

第23話 体脂肪率の悲しみについて 前半

中性脂肪は半減したのに、体脂肪率が3%も増えている!明らかに、私の肉体は衰えている!?宮田珠己

ついに、独自で”サステナブル筋トレ”なる方法…すなわち、ハードルをかなり下げ、たいした量じゃないにもかかわらず「やった感」が出る筋トレ方法を見つけた見つけた宮田さん(※前回参照)。さて、その後どうなっているでしょうか…?

*   *   *

もうかれこれ3カ月、筋トレが続いている。

といってもサステナブルな筋トレなので量は少ないが、それでもなんとなくお腹が凹んできたような気がする。もちろん体重計に乗ってみると、たいして変化はなく、体脂肪率も変化はない。

 

これが実際に目に見えて効果が出てくるまでにはまだまだ時間はかかるだろう。あるいは永遠に目に見えてこない可能性もある。

しかし、肝腎なことは、体脂肪率ではなく、運気である。

このところパッとしない人生の運気を盛り返そうというのが筋トレを始めた理由で、そこが核心だった。まだ3カ月だし、運気に変化ないな、いや、それどころか、突風で飛んできた他所の家の倉庫の屋根によって、わが家の外壁に頭が入るぐらいの穴が開いたりして、運気は下がる一方だ、とボヤいていたところ、そんなことはない、と妻が力強く否定してきた。

それどころか、壁に穴が開いてよかった、運が向いてきた、と断言する。

(写真:宮田珠己)

何それ。鳥の糞が頭に落ちてきて運がついた、みたいな、壁にモノが当たって大当たりって話? そんなのは言葉上の遊びだろ。

と思ったら、彼女いわく、

「穴が内壁まで貫通して、キッチンの壁にヒビが入ったうえ、窓枠まで壊れたおかげで、キッチンとリビングの壁まで一部改修しなければならなくなった。キッチンの壁は長年の油で汚れ、リビングの壁も少しずつ黒ずんできていた。それが損害保険でタダで修復できる。ラッキーだ」

とのこと。たしかにこの家に住んで15年、あちこち薄汚れはじめていたのは知っていた。リビングの内壁はところどころイスが当たって剥がれていたり、よく触るスイッチ周辺が手垢で黒ずんできたりしている。それがまるごと一新されるのはありがたい。

ただ、保険金がおりるのは壊れた側の面だけで、そこだけきれいになっても、4面あるリビングの壁の残る3面は汚れたままである。それでは、かえって残る3面の汚れが際立つのではないか。

と言いたいところだが、実は保険金は修復にかかる費用以外に、見舞い金というのがおりて、 20万円も余計にお金が振り込まれたのであった。この見舞い金を使えば、残る3面もあわせて壁紙を張り替えることができる。それだけでなく、残ったお金で調子が悪かった換気扇のファンも交換できそうなのである。これはラッキー以外の何ものでもあるまい、と妻は言う。

一理ある。というか、まったくその通りである。外壁に開いた穴を見たときには頭を抱えたが、そのおかげで見舞い金が舞い込んできたのは、思わぬ幸運と言うしかない。

おお、実は、運気はあがっていたのだ。

ついに筋トレ効果が!

(写真:宮田珠己)

まあ細かいことを言えば、もろもろの手配は面倒くさかったし、壁紙を張り替えるにあたっては重い本棚を動かす手間がかかるわけだが、何もなければ重い腰もあがらなかったところを強制的に修理するしかなくなって、よかったとも言える。

人間万事塞翁が馬とはこのことか。

妻の言う通り、うまい話と言えなくもなさそうであった。ただ、うまい話ではあったけれど、人生が変わるような話ではない。もうちょっとこう、なんというか、どーんと運気がよくならないものであろうか。引き続き期待しつつサステナブル筋トレを続けていこうと思う。

それでふと、久しぶりにジムに行ってみようかと考えた。

毎日の自重筋トレに飽きてきたこともあるし、ジムには体組成を測定してくれる体重計がある。

自宅の体重計にも体脂肪率を計測できる機能がついていて、それによれば最近は13~14%の間で収まっている。娘によると、体重計が計算した体脂肪率はいい加減だから、ちゃんとMRIで調べた数値でないと当てにならないというのだが、1年半前にジムの体重計で測ってもらったときは、体脂肪率15・4%という数値だったから、減っているんじゃないだろうか。そこで同じ機器で計測してみて、変化を実感しようと思ったのだった。厳密に正しい数値でなかったとしても、変化はわかるのではないか。

なんといっても血液検査で中性脂肪が半減していた私だ。体脂肪も激減しているにちがいない。

期待しつつ、久々に訪ねたジムは、大勢の人で賑わっていた。以前来ていた頃より人が増えた気がする。若い女性も多く、いったい何が起こったのかという感じだ。

以前はまだコロナの影響があったから人が減っていただけで、今の状況が本来の姿なのかもしれない。

なんとなく華やかな気分になり、久しぶりに階段上りマシンを10分やる。前回どのぐらいの負荷でやっていたのか思い出せなかったけれど、いつも歩いているだけあって、そこそこいけた。さらにラットプル、チェストプレス、アームカールなどを順次こなしていくと、家で自重でやっている筋トレよりいろいろな部位を鍛えられ、なんだかうれしい。以前来たときは、つらいだけだったジムも、サステナブル筋トレ並みに、ちょっとだけやって帰ると思えば、楽しい。一度金を払って入場した以上は、元を取って帰らなければいけない、最低でも1時間半ぐらいはやらなきゃ、というプレッシャーが心の負担になっていたが、そんなに自分を追い詰めることはなかったのかもしれない。

そうしてひと通り体を動かしたら、スタッフに頼んで体組成測定をやってもらったのである。裸足になって体重計に乗り、両手にバナナみたいな形の機器を持たされて、しばらく待つと、プリンターから結果が出てきた。

どれどれ体脂肪率は減ったかな?

数値を見て私は、目を疑った。

(写真:宮田珠己)

18・3%……。

ん?

嘘だろ? なんでそうなる。

中性脂肪が半減したんだぞ。体脂肪率も減って当然ではないか。それなのに、3%も増えている。

混乱した。何かの間違いでは?

そのほか、水分量、筋肉量、骨量のどれもが減っていて、数字上は明らかに私の肉体は衰えている。

呆然となった。脂肪が減って、ナイスな体になっているはずではなかったのか……。

ショック過ぎる。楽勝で受かると思っていた受験に落ちた気分だ。華やかな気持ちは一瞬で消し飛び、この場にいたくなくなった。もう少しトレーニングしてから帰るつもりだったが、瞬く間に気持ちが萎えて、そのまま帰ってきた。

(後半へつづく)

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

旅と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。著書は『ときどき意味もなくずんずん歩く』『ニッポン47都道府県 正直観光案内』『いい感じの石ころを拾いに』『四次元温泉日記』『だいたい四国八十八ヶ所』『のぞく図鑑 穴 気になるコレクション』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』など、ユルくて変な本ばかり多数。東洋奇譚をもとにした初の小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』で、新境地を開いた。

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