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一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第40回 柳広司『パンとペンの事件簿』
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章に関する依頼であれば、何でも引き受けます」
という看板を掲げる売文社の人たちだった。さ
らに社長の堺利彦さんを始め、この会社の人
間は皆が皆、世間が極悪人と呼ぶ社会主義者
だという。そんな怪しい集団を信じていいのか?
悩む“ぼく”だが、暗号解読や人身売買の阻止
など、社に持ち込まれる事件に彼らと立ち向か
うことになり―。
みなさんこんにちは。ピンポンも大好きなアルパカ内田です。
まったく先の見えない理不尽な世に、颯爽と「ペン」で立ち向かう。冒頭からラストに至るまで抜群のテンポで疾走する痛快な一冊。何よりもカラッとした人間味が最高だ。1910 年代の話であるのだが、まったく古びてはいない。デリケートな人間関係に悩む現代人にとって、熱量が高く密度の濃い人々の交流は新鮮に感じるであろう。
メインの登場人物は堺利彦をリーダーとする社会主義者たち。「大逆事件」の悪夢も冷めやらない時代のことだ。世間から極悪人呼ばわりをされ、まったく無実なのに入出獄を繰り返す彼らの居場所は限られている。やれることも「文章」を活かすことくらい。そんな極めて閉塞した境遇であっても、仲間を集めて工夫を凝らせば面白おかしく乗り切ることができるのである。
政治とカネ、貧困と暴力、過酷な労働環境、絶えない戦争など、ストーリーに登場するのは、世間を揺るがす数々の問題である。女性の社会進出といったポジティブな話題もある。とても100 年以上前が舞台とは思えない。極上のエンタメ作品であるだけではなく、この国のあり方を問う価値ある物語でもあるのだ。
時代の荒波と逆風を乗り越えるポイントは、確かな「知性」とみなぎる「勇気」と真っ直ぐな「志」、そして明るい「ユーモア」である。本書には混沌とした時代を生き抜くヒントが書かれている。過去から未来へとつながる普遍性もまた魅力のひとつ。世代を超えて読まれるべき一冊だ。
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アルパカ通信 幻冬舎部
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元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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