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なにもない部屋をひとつ借り、「1日にひとつだけものを増やしていい」というルールで始めた、100日間のチャレンジ。(電気、ガス、水道といったライフラインや、食料、最低限の衣類などは初期装備)
1日目に持ち込んだものは、いったい何!?
藤岡みなみさんの、文庫新刊『ふやすミニマリスト 所持品ゼロから1日1つだけモノをふやす生活』より。
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1日目 敷布団
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ついにこの日がやってきた。やろう、と決めた時は軽い気持ちだったけれど、実際にチャレンジのために用意した新しい部屋に移動してみると、その何もなさに怖気(おじけ)付いた。本当に何もないじゃん。こんなところで暮らせるのか。思わずこぼれた「えっ、どうしよう」という言葉が部屋中に反響する。
1日目には敷布団を選ぶことにした。ある意味、私の人生で一番大切なものは敷布団なのだとわかった瞬間だ。床にじかに座り続けると半日でおしりが死ぬ。このまま夜が来たら絶対に睡眠が休息にならないと思った。敷布団は折り畳むとソファにもなる。何もない部屋に敷布団。なんだか独房感がすごいけれど結果的には大満足のチョイスだった。これで、座ったり眠ったりすることがちゃんと休養になる。
しかし仕事や家事を終えて自由時間になってもすることがない。時計がないので今何時なのかということがずっと気になる。そういう修行をする寺に来たみたいだ。
1日目はほしいものが多すぎた。何をするにも道具が要る。特にいろんな用途を兼ねていたスマホがないと手持ち無沙汰の極み。スマホ、ほしすぎる。でもすぐにスマホを手に入れたらこの修行の真骨頂が見えてこない気もする。モノがない自分は空っぽだな、と感じる。
2日目 歯ブラシ
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もしここが無人島だったら、ふたつ目のアイテムに歯ブラシは選ばなかったかもしれない。でも無人島じゃなくて社会に生きているし、歯ブラシがないと口の中だけじゃなくて気分もモヤモヤする。歯を磨かないで生活する自分を許せない。
1日ぶりに歯ブラシを手に入れてみたら、歯磨きタイムのテンションの上がり方がすごかった。「私は! 今から! 歯を磨くという権利を! 行使する!」と鼻息荒く洗面台に向かう。ご飯を食べた後「もしかして!? 歯磨きチャーンス! キラリーン!」と毎回なる。
3日目 白いスニーカー
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今日は絶対タオルがほしかったけれど、朝起きるやいなや家族から「大きい公園に行こう!」と言われたため、やむを得ずスニーカーを選択。まあ遅かれ早かれ必要だったものだ。白いスニーカーはどんな服とでも相性60点以上は保証してくれる。
大きい公園に行ったらどんぐりをどんどん持たされた。所持品はほぼないけれど、どんぐりならいっぱい持っている状態だ。3日目にして縄文人になった。公園に行けたのは靴を手に入れたからだ。靴がないと世界が家だけになる。
しかしタオルがないのがずっとつらい。お風呂上がり、ジャンプして水を切ったり、犬みたいにぶるぶるーっとやったりしている。髪が短いのが救いだけれど、どんなに絞っても何滴か背中にツーっと垂れて気持ち悪い。あと洗顔後すぐに顔を拭けないとみじめな気分になる。顔が濡れて力が出ない。とはいえ今は9月中旬。比較的すぐ乾く季節でよかった。
スマホも娯楽もない部屋にいると、1時間くらいで悟りが開けそうになってくる。寝るしかない。
(つづく)
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ふやすミニマリスト 所持品ゼロから、1日1つだけモノをふやす生活
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シンプルライフとはほど遠い生活をしていた著者が部屋を借り、所持品ほぼゼロの状態から、「1日1つ道具をふやす」という100日間のチャレンジを始める。1日目に敷布団、7日目に爪切り。スマホは果たして何日目!? 電子レンジは不要、タオルと毛布は心の必需品、大切なものの“普段使い”で幸福感が増す……など、生活の本質に迫る画期的な一冊。