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なにもない部屋をひとつ借り、「1日にひとつだけものを増やしていい」というルールで始めた、100日間のチャレンジ。
ついに1週間が経ちます…。爪が伸びた絶望と、本を手にしただけで手に入る希望が、ほぼ同時にやってきた!
藤岡みなみさんの、文庫新刊『ふやすミニマリスト 所持品ゼロから1日1つだけモノをふやす生活』より。
* * *
7日目 爪切り
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深夜のまぬけな事故だった。枕はなくてもいけるなあ、なんて余裕ぶっていたけれど、夜ふと目覚めた時、無意識のうちに手探りで枕を探している。頭上で手を振り回した後、あっそうだシンプルライフだった、と気づいてまた頭を平らにして眠る。
そんな動作を何度か繰り返しているうちについに手が壁に激突。親指の爪がちょっと割れた。見た目は非常に地味、でも当人にとっては無視できない、嫌~な感じの痛み。
穂村弘さんの、
「髪の毛がいっぽん口に飛び込んだだけで世界はこんなにも嫌」
(※出典:穂村弘『ぼくの短歌ノート』〈講談社〉)
という短歌を思い出す。爪が割れるとか靴擦れするとかそういう小さなことでいとも簡単に絶望して、そんなことで絶望する自分にまた絶望する。
まだ日付が変わって間もないのに今日のアイテムは爪切り、と決まってしまった。ぐぬぬ……いろんなことができるスマホも1と数えるのに、爪切りなんかで1……。悔しい気がしたけれど、10日に1回切るとしたら100日で10回も使うのか。足も合わせたら20回。20回はすごい。手と足をばらばらに数える必要があるのかはわからない。
8日目 毛布
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えっ、急に寒いじゃん。秋なめてた。不可抗力で毛布。昨日に続き、必要に駆られてアイテムを取り出すことになってしまった。
でも毛布はいい。あたたかいし手触りはとぅるとぅるだし、1枚あると心が落ち着く。しかもこれは洗濯機で丸洗いできるやつ。
洗濯機はまだないけれど。
100日間で100アイテムしか手に入れられないということは、こんなふうに不可欠なものをぎりぎり取り出していくだけで精一杯なのではないかと不安になった。
9日目 本『読書の日記』
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阿久津隆『読書の日記』〈NUMABOOKS〉。
やった。いいのかな、と思いつつやってやった。鍋もシャンプーも洗濯機もないけれど、本をゲットした。爪が折れたから爪切り、寒すぎるから毛布と、自由に選べない日が2日間続いた反動もある。100アイテムという上限がある以上、そう何冊も取り出せないなと思ったのでとにかく分厚い本にした。1100ページ、枕にもなる厚さ。しないけど。この状況で、改めて自分にとって読書とはどんなものかということも考えたい。
本がないと落ち着かないとは思っていたけれど、実際この生活で初めて本を手に入れた時の喜びは期待をはるかに上回るものだった。ちょっとびっくりした。
日中、2歳の子どもと過ごす時。例えば彼が65ピースのパズルに集中した瞬間とか、全部のトミカを裏返しに並べている間、本を開く。最高だ。心の窓を開けて、そこからいい風が入ってくるような心地。1日中向き合いすぎるとお互い疲れちゃうから、たまに一息つけるとちょうどいい。ほんの5分でも楽になる。スマホ・テレビのない夜の膨大なフリータイムも、これで無の修行ではなくなった。
(つづく)
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ふやすミニマリスト 所持品ゼロから、1日1つだけモノをふやす生活
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シンプルライフとはほど遠い生活をしていた著者が部屋を借り、所持品ほぼゼロの状態から、「1日1つ道具をふやす」という100日間のチャレンジを始める。1日目に敷布団、7日目に爪切り。スマホは果たして何日目!? 電子レンジは不要、タオルと毛布は心の必需品、大切なものの“普段使い”で幸福感が増す……など、生活の本質に迫る画期的な一冊。