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なにもない部屋をひとつ借り、「1日にひとつだけものを増やしていい」というルールで始めた、100日間のチャレンジ。
不便な生活は、工夫という喜びがあることを知った藤岡さん。どんどん覚醒している…!?
藤岡みなみさんの、文庫新刊『ふやすミニマリスト 所持品ゼロから1日1つだけモノをふやす生活』より。
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13日目 お箸
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鍋を手に入れたはいいが「うわっ箸がない」とショックを受けたので、翌日に早速調達した。
調理にも食事にも使える。思えば、これまで箸という道具のよさについてしみじみ考えたことがなかった。空気、とか、重力、ぐらい当たり前の存在だった。箸があれば、触れないくらい熱いものに今すぐアクセスできる。つまんだり混ぜたり、細やかな動作ができる。
昨日苦労して手でやっていたことを、今日は箸でやる。恐ろしく便利。人類として一歩進化した。
14日目 包丁
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やっぱり包丁がないと、料理をしている感じがしない。ひとつひとつ確実にキッチンを攻めていく。しかし包丁があってもまな板がないと始まらないことに気づく。
せっかく包丁を手に入れたんだからなんか使いたい、と思い台所に立って宙でりんごの皮をむいた。うーん。りんごはいざとなったら皮ごとかじれるから感動が薄いな。皮が途切れないように集中して作業していると、ひらめきがやってきた。牛乳パックを開いてまな板にしよう。十分使える。焼くと油が出るし塩いらずなベーコンを切ろう。
不便さは工夫を生む。工夫こそが人間のエネルギーの結晶なのだとしたら、便利な生活にはその輝きを放つ機会が少ないということになる。不便だと毎日が新鮮でいいな。
そう思いながら、サバ味噌缶でトマトチーズ煮込みを作った。少ない道具で料理っぽいことができたので満足だ。これからしばらくは、調味料を使わなくてもできる料理を考える必要がある。
というか普通にお皿もほしい。不便さが……工夫が……結晶が……とかそんなこと、お腹が空いている今はどうでもいいので、普通にお皿がほしいと思った。
あと、鍋がひとつしかないから、こんなに白米に合いそうなおかずなのに同時に食べられなかった。時間差で米を炊き、サバ味噌チーズの記憶でご飯を食べた。
15日目 冷蔵庫
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徐々に料理ができるようになってきて、食材を保存する必要に迫られた。洗濯機に続く大物の登場だ。キッチンの大御所、冷蔵庫。あれれ、なんだかすごく特別な日みたい。ケーキ食べて祝いたい。少なくとも平日とは思えない。
これで、買ってきたアイスを溶ける前に急いで食べなくてもいい。消費期限が当日のお肉を冷凍庫に入れて延命することもできるようになった。
とにかく、未来の自分のためにやってあげられることが増えた。ひとつの家電で生活時間のスケール感が一気に広がった。もう、その日暮らしじゃない。そうか、冷蔵庫はタイムマシンだったのか。まだ持ち物は20個もないけれど、ちょっと無敵の気分。
(つづく)
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ふやすミニマリスト 所持品ゼロから、1日1つだけモノをふやす生活
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シンプルライフとはほど遠い生活をしていた著者が部屋を借り、所持品ほぼゼロの状態から、「1日1つ道具をふやす」という100日間のチャレンジを始める。1日目に敷布団、7日目に爪切り。スマホは果たして何日目!? 電子レンジは不要、タオルと毛布は心の必需品、大切なものの“普段使い”で幸福感が増す……など、生活の本質に迫る画期的な一冊。