
全国のスーパーマーケットを探索している女性に取材した。別れ際、「よかったらどうぞ」と手渡されたのは、マキシマムという宮崎のご当地調味料だ。都城市の歴史ある食肉加工会社が、自社の肉をおいしく食べてもらうために開発した粉末の万能スパイスである。
原材料を見ると、醤油、オニオン、カツオエキス、ガーリック粉末、ナツメグ、パプリカ、クミン、ローレルとある。なるほど、見るからに旨そうだ。
緑のラベルに「マキシマム」とカタカナで大書きされたロゴ、赤いキャップの無骨なデザインに素朴さが漂う。「マキシマム(最大級の意)」というネーミングも直球の昭和風味で惹かれる。
「肉野菜炒め、ステーキはもちろん、チャーハンや中華スープ、なんでもひと振りするとおいしくなるので、宮崎に行くとスーパーでまとめ買いしてお土産にしているんですよ」と彼女は言った。
10年ほど前の話で、当時の彼女は、飲食店のレビューサイトに関わる仕事が本職だった。地方出張が多く、用事が終わると地元のスーパーを物色しては、そこでしか買えない地元民に愛される調味料や食品を買うのが何よりの楽しみとのこと。
今でこそマキシマムは東京のスーパーでも簡単に手に入り、ゆず味、わさび味など商品展開も多様になっているが、いただいたときは、東京では限られた店でしか買えなかった。
風味豊かなミックススパイスはたしかに便利で、以来我が家の台所でも切らしたことがない。
私は彼女から、新しい視点を学んだ。“旅先の地元のスーパーで、ご当地調味料を土産にする”という楽しみである。
駅や空港や土産物屋さんで買う観光客向けの名産品より、地元の人たちの暮らしの気配が伝わって、粋な選択だなと思った。菓子や酒の嗜好品と違い、料理をする相手であれば、調味料はよほど風変わりなものでない限り役立つ。
そのようなことがきっかけで、私は国内外問わず、旅先のスーパーマーケットが大好きになった。そこを目的にはしないが、ちょっとしたすきま時間、あるいは帰りがけに必ず寄る。
九州では甘いフンドーキンの醤油。京都ではポン酢。仙台でラー油……。土産用ではなく、「地元の人がよく買っている」ものは、スーパーの陳列や人さまの買い物カゴからもわかるし、ネットでも調べられる。私はホテルのスタッフやレンタカーの受付の人に聞くこともある。
そのうち、多少保存の聞きそうな食品にも目が行くようになった。たとえば福岡の高菜炒めや京都のちりめん山椒、沖縄の豚味噌などは、土産仕様の商品もあるが、スーパーの安いパック詰めやプラスチックカップに入ったふだん用で十分おいしい。
ベトナムに、伝統的な緑豆菓子がある。バイン・ダウ・サインという。
ほろほろと口の中で溶けるらくがんのような食感で、ほんのりした甘さがあとをひく。カラフルな個包装の箱に入っており、空港の免税店には土産物としてずらりと各社のバイン・ダウ・サインが並んでいる。
ハノイに滞在した際、スーパーの片隅でそれを見つけた。素朴な紙質の包装でそっけないデザイン。値段は空港の半分以下だ。思わず土産と自分用にまとめ買いをした。
メーカーごとに微妙に甘さが変わったり、きなこ味、ココナツ味、たろいも味などフレーバーが違っていたりする。どれも遜色なくおいしかった。ベトナムの人たちはこういうおやつを食べているんだなあと、彼(か)の地の食卓を想像し、旅の余韻を味わった。
土産は、ブランドや立派なパッケージや華やかさ、見栄えはあまり関係ないなあと、最近しみじみ思う。
有名でなくても、もういい。誰もが知るあの味より、地元民の食卓に長年寄り添ってきた小さなメーカーのソウルフードが楽しい。
長く愛されてきたものには必ずおいしい理由がある。広く流通できないからこそありがたみも増す。スーパーにお宝多し、である。

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ある日、逗子へアジフライを食べに ~おとなのこたび~

早朝の喫茶店や、思い立って日帰りで出かけた海のまち、器を求めて少し遠くまで足を延ばした日曜日。「いつも」のちょっと外に出かけることは、人生を豊かにしてくれる。そんな記憶を綴った珠玉の旅エッセイ。