1. Home
  2. 社会・教養
  3. あたらしい大麻入門
  4. 渋沢栄一も力を入れていた大麻栽培 今では...

あたらしい大麻入門

2025.02.22 公開 ポスト

渋沢栄一も力を入れていた大麻栽培 今では考えられない戦前の大麻のイメージ長吉秀夫

2024年12月の大麻取締法改正について、その経緯・詳細・改正内容をわかりやすく解説し、国内外の大麻最新事情をお伝えする幻冬舎新書『あたらしい大麻入門』(長吉秀夫・著)。

その「はじめに」を3回に分けてご紹介します。

健康を願い、子どもの名前に「麻」の字を使う

大麻は古来、日本文化と深い関わりがある。こう書くと、驚くひとも多いだろう。

有名人や学生たちによる所持や吸引などの大麻事件があるたびに、テレビや新聞で大きく報道される。大麻は、一度でも手を出したら人生を台無しにする恐ろしい麻薬だと、ほとんどの日本人は認識しているのではないか。

しかし、戦前までの大麻のイメージは、まったく違っていた。

「麻の中の蓬(よもぎ)」ということわざがある。曲がりやすい植物のヨモギも、まっすぐに伸びる大麻の中では曲がらずに育つことから、善良なひとと交われば自然と感化されて善人になるという喩(たと)えである。

生まれた子どもに麻柄の産着を着せ、健康にすくすくと育つことを願い、麻子や麻美など「麻」の字を使った名前を付ける。日本人にとって大麻とは、健康的で清潔なイメージを持つものだった。

また、大麻に由来する地名も日本には多い。神奈川県川崎市の麻生(あさお)区や、東京都港区の麻布(あざぶ)、北海道江別市の大麻(おおあさ)などがそれである。

1954年には約3万7000軒の大麻農家が存在し、全国各地に大麻畑があった。大麻畑は、日本の原風景の一部だったのである。

古代人も大麻を使っていた

福井県の鳥浜貝塚や青森県の三内丸山(さんないまるやま)遺跡からは、縄文時代の大麻繊維や炭化した麻(お)の実(大麻の種子)がみつかっている。また、福岡県の板付(いたづけ)遺跡からは、弥生時代の大麻織物が出土している。古代から日本人は、大麻繊維を布や袋や衣類、ロープなどの材料として使ってきたのだ。

炭化した麻の実は土器の中でもみつかっていることから、食用としていたとも考えられている。麻の実には、良質なタンパク質などの栄養素が豊富に含まれているのだ。

現在も食用としており、身近なところでは七味唐辛子の薬味の一つとして入っている。ときどき出てくる3ミリ程度の丸い粒は麻の実だ。

現代では、「麻子仁(ましにん)」という名で漢方薬としても使われており、便秘の改善や滋養強壮にも効果があるという。これは、麻の実に豊富に含まれるリノール酸やオレイン酸などの油脂成分によるものだ。

印度大麻煙草(ぜんそく煙草)の広告。1980年代後半

また、麻の実が実る花穂(かすい)には、鎮痛作用や精神を安定させる効果の成分がある。そのまま食べてもいいが、花穂を燃やして煙を吸飲することで強い効果を得ることができる。間接的な証拠からの推測ではあるが、古代人がこのような効果を薬や宗教的儀式に利用した可能性もある。
古代から重要な農作物だった大麻は、やがて稲と同様に神聖な植物として扱われるようになっていった。

大麻がなければ天皇に即位できない

大麻は神道でも重要な植物とされている。

大麻の紐は、結界を張るために使われる。麻紐の結界は、現存する日本最古の書物である『古事記』に書かれた日本神話の天岩戸(あめのいわと)伝説にも登場する。

太陽神・天照大神(あまてらすおおみかみ)が岩戸に隠れてしまったために世界が暗闇と化した。八百万(やおよろず)の神々が相談して策を練り、何とかして彼女を岩戸から連れ出そうとする。やがて出てきた天照大神が再び中に入らないように、麻の神様が岩戸に麻縄を張る場面がそれだ。

大麻繊維は、独特の製法で精麻(せいま)に加工され、神社の注連縄(しめなわ)や鈴緒(すずお)、お祓(はら)いの道具である幣(ぬさ)にも使われている。また、伊勢神宮の御札は「神宮大麻(じんぐうたいま)」と呼ばれていて、中には精麻が入っている。神道では、この精麻こそが、清めの象徴なのである。

相撲の横綱も大麻繊維で作られている。大麻繊維を晒(さらし)で巻き、紐状にしたものを大勢の力士が綱により合わせていく。力を込めて大麻の綱を作ることで、横綱の神聖性を高めるのだろう。

また、天皇即位に伴う儀式である大嘗祭(だいじようさい)でも、「あらたえ」と呼ばれる大麻の布が、なくてはならない重要な道具として使われる。天皇に即位する者は、この布を媒介として神とつながり、天皇となるのだ。この儀式は一般に公開されない秘儀のため、どのような使われ方をするのかは、明らかにされていない。

大麻を宗教的儀礼に使うケースは世界各国にもある。そのほとんどが薬効成分による変性意識状態を引き起こす使い方で、神道のように繊維そのものを神聖化するのは珍しいといわれている。

日本政府は国力をあげるために大麻栽培を奨励した

大麻繊維は、布だけではなく畳表の縦糸や下駄の鼻緒、蚊帳(かや)、漁網、釣り糸、物干し綱など、さまざまな生活必需品の原材料としても広く使用されてきた。

江戸時代以前、大麻織物は武家の装束などに多くの需要が見込まれ、美濃布、木曽麻、岡地苧(おかちお)、鹿沼麻(野州麻)、雫石麻、上州苧など、全国各地に優れた大麻製品が特産品として存在した。

明治維新後、日本政府は国力を高めるために、繊維産業に力を注いでいく。

北海道を開拓し、西洋式農法の導入が奨励され、大麦からビールを造り、甜菜(てんさい)から砂糖を作るとともに、大麻や亜麻から繊維を作る官営事業が推し進められていった。

大麻繊維は丈夫で水にも強いため、当時は、軍服や軍艦の舫(もやい)ロープなどの軍需物資としても国家レベルで研究されていた。そして1907年、渋沢栄一や安田善次郎、大倉喜八郎などによって帝国製麻株式会社が設立され、大麻は日本の軍需産業の中心を担っていく。

その後も第二次世界大戦で需要が伸び、大麻繊維産業は重要なものとなっていった。

*   *   *

この続きは幻冬舎新書『あたらしい大麻入門』でお楽しみください。

著者・長吉秀夫さん出演の3/2開催イベント「リレートーク:大麻新時代」セミナーもお見逃しなく!

関連書籍

長吉秀夫『あたらしい大麻入門』

多くの日本人は、大麻は一度でも手を出したら人生を台無しにすると認識し、政府も厳格に規制してきた。だが、欧米では大麻の研究が進み、重篤な依存性や有毒性がないどころか、多くの疾病に対する薬効成分があることも解明されている。 日本でも大麻取締法が全面改正され、2024年、医療大麻が解禁。他方、新たに使用罪が適用され厳罰化されたのは、国際的な規制緩和の潮流に逆行している。 いったい大麻の何がダメなのか?  改正法のポイントを解説しながら日本の大麻政策に異議を唱え、大麻の有用性を説く最新大麻読本。

長吉秀夫『大麻入門』

戦後、GHQ主導による新憲法の下で初めて規制された大麻は、遥か太古から、衣食住はもちろん医療や建築、神事など、日本人の生活になくてはならないものだった。1948年に施行された大麻取締法は、当時の政府が大麻産業を奨励していたためか、立法目的が明記されないまま現在に至っている。一方で、欧米諸国では所持・使用の非犯罪化が進み、医療やバイオ・エネルギーなど様々な分野での研究が盛んだ。国内外の知られざる大麻草の真実とは?

長吉秀夫『不思議旅行案内 マリファナ・ミステリー・ツアー』

ゴアのビーチでLSDを一服し、神の草・大麻で宇宙空間を体験、そしてキノコの精霊と交わした会話。ある一つのポイントを境にして向こう側に存在する、もう一つのリアルワールドとは、いったいなんなのか? ドラッグ、音楽、舞踏など、あらゆる神秘に隠された、究極の癒しを求めて宇宙空間を旅する、エネルギッシュなトリップ・エッセイ!

{ この記事をシェアする }

あたらしい大麻入門

バックナンバー

長吉秀夫

1961年、東京都生まれ。幼少より江戸葛西囃子を習得し、祭り文化への造詣を深める。明治大学政治経済学部在学中から舞台制作者として全国をツアーする傍ら、精神世界やストリート・カルチャーなどを中心にした執筆活動をおこなっている。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP