
TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」出演で話題! 世界133ヵ国を裁判傍聴しながら旅した女性弁護士による、唯一無二の紀行集『ぶらり世界裁判放浪記』(小社刊)。現在も旅を続けている彼女の紀行をお届けする本連載。本日は「トーゴ編(前編)」をお届けします。
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トーゴの首都ロメで、ブードゥー教の市場へ行ってきた。トーゴには世界最大級のブードゥー教の市場があるのだと聞いていたからだった。
トーゴはガーナの東隣である。川辺の村・トーゴ村の名前がもととなっているという。そもそもドイツが保護領化したトーゴランドと呼ばれる地域が、東西で英仏に分割され、西はガーナに吸収合併された(その際にガーナとは帰属をめぐるトラブルになっていたという)。残った東側がフランスから独立したのが今の「トーゴ共和国」である。
西アフリカの海岸線はつながっている。といっても海岸線がつながっているのは当然か。それが「国」単位で区切られているという方が人為的なのである。
さて、ブードゥー教はもともとヴォドゥンという民間信仰で、トーゴの隣ベナンで生まれて西アフリカに広がり、奴隷として連れ去られた彼らがハイチなどのカリブ海やアメリカ、中南米に広めたという民間信仰である。奴隷時代の人々は信仰を守るためにキリスト教と習合させたという話もある。
発祥した西アフリカでは今も「オリジナル」のヴォドゥンを信じている人は多く、トーゴの東隣の国ベナンでは国教になっているくらいだ。トーゴではブードゥーを含む「伝統宗教」を信じる人々が人口の3~4割いるとされている。
黒魔術のイメージも強く、それは確かにそうなのだが、「民間医療」的な役割もあり、同時に「民間裁判」のようなこともある。
呪術を馬鹿にしてはいけない。アフリカではトラブルを解決するときに裁判所だけではなく村長や民族の首長、長老などの力で収めることが多いが、それは彼らが権威を持っており、当事者が彼らの言うことに(少なくとも仕組み上は)納得する(ことになっている)からなのである(もちろん個々のケースで納得できないことはあるだろう。裁判官の判決に納得できないのと同じように)。
だから宗教リーダーもトラブルの解決に大きな役割を果たす。家庭の問題、結婚や離婚、別居、財産分与や相続といった問題は、まず教会の長に話したり、モスクの長に話したりする。国の法律で最終決着するのはその後だ。
法律というのは、「国民のみんなが納得して信じるルール」というものを仮置きして、それを守りましょうというものだ。民族ルールである「慣習法」も、信者たちの「宗教的慣習」も、「国民国家」における「国民みんな」ではないが、仕組みは近い。。
東アフリカでは、村の中で紛争が起こると、「呪い」を家畜の肉などにかけ(呪物と呼ぶ)、それを両当事者が飲み込んで、どちらに効いてくるかを待つことによって、トラブルの解決を図るという民族もいるのだという研究がされている。「時間をかけて紛争を解決する」ための、ひとつの装置が呪術なのだという。(石田慎一郎『人を知る法、待つことを知る正義: 東アフリカ農村からの法人類学』)。
続・ぶらり世界裁判放浪記

ある日、法律事務所を辞め、世界各国放浪の旅に出た原口弁護士。アジア・アフリカ・中南米・大洋州を中心に旅した国はなんと133カ国。その目的の一つが、各地での裁判傍聴でした。そんな唯一無二の旅を描いた『ぶらり世界裁判放浪記』の後も続く、彼女の旅をお届けします。