
ブリトラって誰?──「半径5メートル以内の日常生活」を27年 唄い続けて
初めまして!
ブリーフ&トランクスという名前で音楽活動をしています伊藤多賀之と申します。
この度、この場所でエッセイを書かせていただくことになり、
第1回目ということで、簡単に自己紹介をさせてください!
僕は静岡県伊東市出身のミュージシャンです。
48歳、乙女座、独身、犬(ゴールデンレトリバーのメス5歳)と暮らしています。
1998年に「さなだ虫」という曲でメジャーデビューし、
「半径5メートル以内の日常生活」をテーマに身近なものを題材に沢山曲を作ってきまして、
今年デビュー27周年になります。
テレビでよく見るミュージシャンの方々に比べますと、僕の曲は大ヒットしたわけでもない中で、
ネット界隈やカラオケ界隈などで、長年かけて曲が広がって、
僕の顔やブリーフ&トランクス(ブリトラと呼ばれること多いので以下ブリトラと書きます)の名前を知らなくても、「曲は知ってる!」という方が多い不思議な現象が続いていて、令和の小学生も登下校中にブリトラの曲を口ずさんでいるという噂もたまに聞きますが、情熱的なファンの方々に応援してもらいながら、27年も音楽だけで生きているのは奇跡としか言いようがありません。
時代とともに変わる「コンビニ」と、あの頃の「コンビニ」
さてさて、そんな僕が作ってきた数々の楽曲の中でも特に「認知度高め」と言われているのが「コンビニ」という曲です。
この曲は1999年にリリースしてから、今でもライブで歌い続けているブリトラの代表曲となります。
でも正直言って、なぜここまで曲が広まって今でも愛されているのか、
作った僕自身が全くわかっていませんが(笑)、
記念すべき第1回目は、この「コンビニ」を掘り下げたいと思います。
ブリーフ&トランクス「コンビニ」
作詞・作曲:伊藤多賀之
時は遡って僕が18歳の時、西暦でいうと1995年くらい、
世間では「アムラー」や「コギャル」が大流行していた時代の話です。
都会の女子高生は全員短めのスカートにルーズソックス、
「チョベリバ」というような浮かれた若者言葉が飛び交っていた頃、
僕は大学受験に失敗して、高校卒業後に伊豆の実家で抜け殻のような毎日を送っていました。
人生初めての挫折に心折れて毎日家でボーっとしてた僕を見かねて、
母が「バイトでもしたらいいんじゃない?」と、
地元のコンビニのスタッフ募集のチラシを僕に持ってきてくれましてね。
家にいるよりは刺激になるかと、半年くらいコンビニでバイトをしていた時期があったんです。
そんなバイトでの経験を元に、「コンビニ」という曲を作ったのが20歳の頃でした。
つまり、僕が「コンビニ」を作ったのも歌っている時も、
頭の中でのイメージは1995〜1996年の頃の話なんですよね。
今や時代は「令和」となり、凄まじい速さでテクノロジーが進化し、コンビニも当時とはまるで違います。
曲の歌詞でも、今の若い世代が聞いても「え?どういうこと?」と思われる言葉や表現が多いのは、
僕の頭の中と、景色も時代も違うからなんですね。
エロ本読んでるオヤジと並んで雑誌読んでから
…なんて光景は、今は見ないですね。
立ち読み防止のために、本にはテープや袋がかけられてたりしますし、
何なら、エロ本自体もう置いてない店もあります。
あのオヤジ達は、今はどこでエロ本を見ているのか、
気軽に立ち読みできる場所を失って、途方に暮れているのか、
いやいや、今やスマホさえあれば充分かもしれませんね(笑)
おでんください(何にしますか?)
えーと えーと(何にしますか?)
えーと えーと(レジが混んできた)
えーと えーと(早く決めてくれ!)
曲のクライマックスでもある「おでん」のやり取り、
今ではほとんどの店がセルフサービスになってますよね。
それによって、おでんコーナーを試食サービスと勘違いしてその場で食べちゃう人とか、
おでんツンツンしちゃう迷惑行為があったとかニュースで聞いたこともありますが、
当時は店員がレジで1品ずつ器に入れていました。
あれ、店員側の意見を言わせていただくと、忙しい時の「おでん」はマジで地獄でしたね(笑)。
レジが2つならまだしも、1つしか開けてなく更に行列が出来ている時に「おでんください」と言われた時の絶望、想像できますでしょうか?
誰も悪くないんですよ、もちろん急ぎますし、丁寧にやりますし、ご注文ありがたいですよ、
でも心では泣いています(笑)。
そしてだいたいおでん注文する方はその場でおでんの湯気に包まれながら何を買おうか悩む訳です。
歌詞にもありますが「えーと、えーと」の不毛なやりとりが頻繁に出てくるのです。
たまごください(たまごみっつ)
中略
おいくらですか?(220円です)
非常に細かい部分ですが、現代を生きる方々には「たまご3つで220円ってどういう計算?」
という疑問も生まれるかもしれません。
確かに3で割り切れないし、謎ですよね。
曲を作った僕が算数ができないヤツだと思われてそうなので、
ここでしっかり説明させていただきたい!
これは、当時たまご1個が70円でした。3つで210円です。
そして消費税が5%だったので、210×1.05で220円、ということなんです。
今は消費税10%なので、どう計算しても220円にならない訳です。
何気ない歌詞に、あの時代のリアルな物価と税制が含まれている訳です。
今となっては当時を知るための歴史的資料になっている訳ですから、
重要文化財として登録される可能性があるかもしれ……いや、それは絶対にないです。
おでん地獄スーパーロング版
ここで、ちょっと一緒に1995年にタイムスリップしていただいて、妄想タイムお願いします。
平日昼12時10分。
コンビニ前の公衆電話には汗を拭きながら取引先に電話しているサラリーマン。
ミニスカートのコギャルたちが90年代のヒット曲を口ずさみながらコンビニに入ってくる。近所のオフィスからは昼休憩のOLたちが財布を片手に次々とコンビニに入ってくる。
自動ドアが壊れそうな勢いで開閉し続け、入店チャイムがひっきりなしに鳴り続けている…。
レジは2つ開けて2名体制、それでもおにぎりやお弁当を持ったお客さんが行列を作っている。
当時は弁当のあたためは店員の役目。袋詰めもある。現代と違ってほぼ現金での会計。
そんな時に片方のレジでは、宅急便の受付をやっている。レジのところで伝票に住所を書くお客さん。
荷物の重さとサイズを計る店員。その光景を見た他のお客さんは「あ、こっち時間かかるな」と、
もう一方のレジに集まり始める。そして行列が増えていく……と、そんな時!
お客さん「おでんください」(←この時点で絶望感50%)
店員「かしこまりました。小さい器と大きい器ありますがどちらにしますか?」
お客さん「じゃあ、大きい方で」(←絶望感60%)
店員「かしこまりました。どちらにしましょう?」
お客さん「えーっと、大根ひとつ、えーっと、たまご、えーっと、ひとつ、あ、やっぱりふたつ、
あとは、ねえパパ〜パパ〜他なんかいる?」
(結構遠いアイス売り場にいるパパに呼びかけている)(←絶望感70%)
お客さん「えーっとえーっと…牛すじと…」
店員「あ、牛すじさっき入れたばかりなので、まだ固いので出せません」
お客さん「あらそうなの、じゃあ、この厚揚げと…」
店員「あ、こちら厚揚げでなくて、さつま揚げですがよろしいですか?」
お客さん「うーん、どうしようかな、えーっと、じゃあ、こっちの、えーっとえーっと…」
(なんやかんやあって)
お客さん「以上でいいわ。からし多めにくれますか?」
(ちょうどストック切れてしまい、裏にカラシを取りに行く)(←絶望感80%)
店員「お待たせしました」
(急いでおでんに蓋をして、こぼれないようにテープで止める)
お客さん「あ、そうだ、タケシ〜!タケシ〜!肉まん食べる?」
(お菓子売り場にいる子供を呼んでいる)
お客さん「やっぱりあと、肉まん2つと、あんまん2つください」(←絶望感90%)
店員「かしこまりました。お会計810円になります」
お客さん「はい、1万円札でいい?」(←絶望感99%)
店員「かしこまりました。1万円入りまーす」
(お釣りの千円札の枚数をお客さんと一緒に確認中)
他のお客さん「すみませーん!コピー用紙切れちゃったんですけどー!」(←ここで絶望感100%で気絶)
…と、こんなやりとりが当たり前でした。
これ、店員側からすると、体感時間、映画「タイタニック」をフルで観た時並みですよ。
3時間半くらいに感じますね(笑)。
そんなやりとりをイメージして曲にしたのがそう、ブリトラの「コンビニ」です。
曲はその店員側の焦る気持ちや緊迫感を表現しようと、
畳み掛けてどんどん迫ってくるような雰囲気にしました。
先ほども言いましたが、
決しておでんを注文する方々が悪い訳ではありません。
システムなのです。コンビニにいろんなサービスを入れ過ぎなのです。
昔より今の店員さんは覚えること多くて大変でしょうね。
でも、その便利さが僕たちを救ってくれる訳で、
僕たちにとって24時間年中無休のオアシスな訳で、
全てに感謝しながら、これからもレッツゴートゥーコンビニエンスストアーなのです。
※歌詞は全てブリーフ&トランクス「コンビニ」より引用
* * *
◆最新ライブ情報
「ブリトラハモり極み祭り2025」
“黄金スペシャル2012~2022+α”
【日時】2025年5月10日(土)
【場所】SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
【チケット】
・指定席:¥6,600(税込・ドリンク代別)
・VIP指定席(前方5列以内・メモリアルプレゼント付き):¥8,800(税込・ドリンク代別)
【チケット一般発売】 2月22日(土)10:00~4月20日(日)23:59
https://tiget.net/events/379188
◆リリース&ライブ情報
アルバム「ブリトラリニューアルビッグミニ」(2024年9月)
ライブ「ブリトラ完全リニューアル祭り2024」(2024年9月)
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変わるコンビニ、変わらない青のり

新生ブリーフ&トランクスとして再始動した伊藤多賀之が
自身の楽曲や歌詞を手がかりに、“あの頃”と“いま”の違い、そして変わらずそこにあり続ける日常の断片を綴ります。
「青のり」「コンビニ」など、ブリトラ楽曲に登場した身近な風景を見つめつつ、
移ろいゆく時代の中でも変わらない“青のり”的な何かを探しながら、
「半径5メートル以内の日常生活」を描き出していくエッセイ連載です。
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