
余白は伝染する
本連載「余白をつくる練習」もいよいよ今回で最終回を迎えます。
昨年の9月、17年間のフィジー生活を終えて日本に帰国しました。振り返れば、フィジーでの暮らしはとても穏やかで余白あふれるものでした。日常の時間がゆっくりと流れていました。俗に言う「スローライフ」を満喫していたのだと思います。
僕がセカセカすることなく、のんびりとしていられたのは、まわりにいたフィジー人たちも、穏やかで余白に満ちていたから。ご近所さんもフィジー人、同僚もフィジー人、バスに乗ってもフィジー人だらけ。彼らの醸し出す余白感に影響を受けながら、自分も自然体のマイペースを保つことができていました。
しかし、日本に戻ると、その空気感は一変しました。
歩くスピードも速いですし、エスカレーターもダッシュで駆け上がる人を見かけます。タイパを求めてYouTubeも1.5倍速で見ることが当たり前。時間に激しく追われているかのように生きている人たちを見ると、自分のペースが崩され、そのスピード感に飲み込まれそうになります。
「幸せは人から人へ伝染する」と言われます。近しい知人が幸せなら、自分の幸福度も影響を受けて高まることが証明されています。余白も同じです。周囲が急ぎ足で動いていると、知らず知らずのうちに自分もそのリズムに引き込まれがちです。余白感が欲しければ、余白感のある人と一緒にいること大切になります。
スローが良いわけでも、ファストが悪いわけでもない
誤解してほしくないのは、スローライフが良くて、ファストライフが悪いと言いたいわけではないということです。ただ、そのときの自分に合っているかどうかです。
自分にとって、最適なスピード感は常に変化しているものでもあります。ゆっくり穏やかに過ごしたいときもあれば、睡眠時間を削りながらも全力で成長に邁進したいときもあるでしょう。重要なのは、どんなときもまわりのスピード感に流されず、自分のペースをコントロールできている感覚があるかどうかです。
僕自身、日本とフィジーを行き来する中で学んだ教訓の1つは、「緩急のバランス」です。「緩」なフィジーと「急」な日本(2つの極端な環境)を往復して、自分にとって最適なスピードを見つけてきました。例えるなら、熱いサウナと冷たい水風呂を行き来して「ととのう」感覚に近いかもしれません。
この連載を読んでくれている方は、人生のスピードを少し落としたいと思っている方が多いかと思います。減速するためにはまずは「余白」をつくること。余白泥棒にせっかくの自分時間を奪われないように注意してください。それが、ストレスを減らし、心に余裕を生み出してくれます。
忘れてはいけないのは、余白は必ずしも「何もしない時間」を意味するわけではないということ。むしろ、日本の方には「いつもと違う時間」のほうがフィットするように思います。ワーカホリックで仕事三昧の人にとっては、新しい趣味を始めたり、家族との団らんを楽しんだりするのが余白的な時間だということです。
自分に「最適な速度」を見つけるために
余白は目的ではなく、手段です。
どんなスピード感で生きていきたいのか、どんなライフスタイルが自分にとって理想的なのか、そんな本質的な問いに向き合う時間をぜひ自分自身に与えてあげてください。
時間のゆとりは人生の解像度を高め、多くの気づきを与えてくれます。アクセルを踏むだけでなく、ブレーキのかけ方を学び、両方のペダルをうまく使って、スローでもなく、ファストでもない、自分に「最適な速度」を見つけていきましょう。
大切なのは「自分には余白がある」と感じることができることです。他の記事でも、「余白」よりも「余白感」が大切だということをお伝えしてきました。さらに言えば、いま余白がなかったとしても、「余白をつくろうと思えば、いつでもつくり出せる力が自分にはある」と思えてさえいれば、それだけでいつでも自分を「最適な速度」に合わせていけるはずです。
本記事で連載は一旦、一区切りとなります。僕自身の今後のチャレンジとして4月23日から「Value Shiftの学校(価値観探究ランド)」というオンラインコミュニティーをスタートさせます。2つの幸福先進国「デンマーク」「フィジー」の価値観をインストールし、最新版の自分独自の価値観を形成していくプロセスをお届けできればと思います。引き続き、お付き合いいただける方は大歓迎です。
読者の皆様、貴重な余白時間で本連載にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。記事を通じて、少しでも余白を伝染させることができていたなら本望です。
余白をつくる練習

効率的に仕事をしても、それで空いた時間に別のことを入れて、一向にタスクが終わらないと感じたことがある人も多いはず。
私たちはいつになったらゆったりした時間を持てるのでしょうか。
世界100カ国を旅したあと、世界幸福度ランキング1位のフィジー共和国へ移住した著者が伝える、人生に自分時間を取り戻す「余白のつくり方」。
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