
先日、あるセミナー会場で、レジェンド歌手の男性がおっしゃっていた言葉が印象でした。
「歌は上手い下手じゃない。金になる声か金にならない声、感動させる声か感動させない声。例えば岩崎宏美は金になる声。いっぽう、アイドル出身のTは響かないし、金にならない。歌は響くか響かないの差が大切だ」
なんでも生成AIが作ってしまう今、技術はすぐ真似されますが、響くか響かないか、というところは人間のこめた思いやエネルギーが関係しているように思います。心を込めてプロンプトを書いた人もいるかもしれないですが……。
歌だけでなく絵にも言えることだと思います。心に響く絵やアニメーションを創作し続けていた久里洋二先生。
1928年に生まれ、2024年11月に惜しまれながら天に召されました。アニメーション作家、イラストレーター、一コマ漫画家、画家などさまざまな分野で活躍していました。今思えば、AIになかなかまねできない作風だったと思います。
その「クリヨウジ ハローお別れの会」が、アートスペースキムラ ASK? で行なわれました。
「当日、お手持ちのクリヨウジ作品をご持参ください」と書かれていたので、2013年に久里先生の個展で購入いたしました「湖水から星が生まれる」というタイトルの絵をお持ちしました。すごく小さいサイズですが、山のふもとの湖から星が生まれている素敵な風景が細かいけれどしっかりしたタッチで描かれています。描かれたときすでに80代後半だったと思うと、この筆使いに驚かされます。96歳の時点でも精力的に創作活動されていました。

このお別れの会に終わり間際ですが参列させていただきました。往年の関係者の方々が集い、思い出を語ったりこの1日のために集まってきた作品を眺めたりしていました。このギャラリーでそういえばいつも久里先生はパイプをくわえて皆のことをニコニコしながら見ていたことが思い出されました。この場に来ていたかもしれません。
久里先生の伝説のアニメーションも上映されました。早すぎるプロジェクションマッピング作品に驚きました。モノクロの時代、半裸の女性の体にアニメーションを投影していたとは。裸体に富士山や人物やストライプの柄などが映されていて、今見ても斬新でした。
久里先生の祭壇にはお釜の写真が添えられていました。そのお釜には「お互に食うためにがんばろうや」というメッセージが。久里先生の息子さんによると、先生は戦後もなんとお釜一つだけ持って上京してきたそうです。マドンナが、35ドルを手に握りしめてニューヨークに来た、というエピソードに匹敵する立身出世物語。お米の産地である福井県出身だからこそ、まずはお米だけ食べてがんばろう、という思いになったのでしょうか。「◯◯で飯を食う」という表現を実際に体現されています。以降成功されて道を極められ、そのお釜の写真はもはや御神体のような佇まいでした。お金がなくてキャベツだけ食べた、というエピソードもたまに聞きますが、日本人ならお米がマストなのかもしれません。今はかなり値上がりしてしまいましたが……。
久里先生の息子さんは初対面でしたが「ドイツに行かれるんですよね」といきなり言われて、知人に「ドイツに行くんですか?」と言われ、全くそんな話はないのに自然にドイツに行く流れになりそうでした。呼ばれているのでしょうか?
久里先生はフットワークが軽くて、ベルリンの壁が壊されるニュースを見て「明日ドイツに行くぞ!」と家族に言って皆でドイツに集合したそうです。
会がお開きになり、レジェンド的参列者が「久里さん万歳!」と感無量で叫んでいました。皆に愛され、尊敬されていた久里先生。「現代思想+」の久里洋二さん特集にちょっと寄稿させていただき、その中に久里さんが、死んだら天国よりも地獄に行ったほうがおもしろい、と話していたエピソードなど入れさせていただきました。久里先生なら地獄に遊びに行っても鬼や罪人にも好かれてムードメーカーになりそうです。

次元上昇日記

「次元上昇」とは? それは「アセンション」のこと。では、「アセンション」とは何か……。いろいろな意味があるので、ネットを検索してみて下さい。しかし、辛酸なめ子さんにとって、それは日々、功徳を積んで善行マイレージを貯め、それがある閾値に達すると得られる高い次元のこと。この連載は、その善行マイレージを貯め次元上昇をめざす一人の女性の抱腹絶倒、試行錯誤の記録です。
この連載が電子書籍になりました!『次元上昇日記 ベストセレクション50』
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