
撮影は朝9時半からで、スタジオを借りられるのは1時間のみということでした。(前編より続く)
どちらかと言えば夜型の私のエンジンがかかるのは午後からなので、朝は心身ともに非常に残念な感じです。冴えない。
目覚ましとむくみとりのためにシャワーは必須だし、慣れないお化粧とヘアセットに何度か失敗することを想定すると、5時半には起きなければなりません。
5時半前起床!
ダメ! 遅刻絶対ダメ!
と思うと、自分が信用できなさすぎて一睡もできず、予定通り5時半にベッドから出ました。
こういうとき、早寝早起きにシフトしなければと思います。
撮影用に持ってきてと言われた小道具たちと着替えをコロコロにぎゅうぎゅう詰めて、スタジオに向かいます。外は雨が降っていました。
撮影場所は大きなダンススクールの大きなスタジオらしいのに、看板もなく、目前にあったそのビルの前を通り過ぎること数回。ライターさんとカメラマンさんと私、唯一の地元民なのに道に迷ってしまい、数分遅れて到着。5時半起きの意味よ……。
スタジオ入り口ではライターのFさんが笑顔で迎えてくれました。カメラマンのYさんは古風な名前から想像していたよりお若い方で、おふたりとも堅苦しくなくフレンドリーで、でも礼儀正しくて、こういうときの力の抜き方、人を緊張させない接し方がプロフェッショナルだなぁと思いました。
スタジオは床も壁も天井も真っ白。反射で諸々すっ飛ばしてくれそうでナイスです。
少しストレッチをしてすぐに撮影を始めます。しかし、私の朝の頭はバーレッスンの動きを思い出せません。ロン・ド・ジャンブ・ア・テールなどしていると「もう少しこちらを向いて」「笑顔で」と声がかかります。
レッスン中に(楽しすぎて)無意識に微笑んでいることはあるけれど(怖い)、誰か(カメラ)に向かって笑顔を見せながら動くことはないので戸惑います。
途中、確認のために撮った写真を少し見せてもらいました。なんとなくあれこれ惜しいオレ。ゆっくり写真をチェックして動きを修正し、もう一度撮ってもらって、もう一度確認して、それから本番といきたいところですが、何せ時間がありません。何回直したところで、どこまで行ってもオレはオレ。連写されるなら奇跡の一瞬もあるにちがいないと、チェックはこの一回のみで、あとはカメラマンさんにお任せして撮影を続けました。
次はポワントを履いての撮影です。
バレエにほぼ接したことがないというFさん、Yさんと、スマホ越しにオンラインで見てくれている編集Kさんは、ポワントで立っただけで喜んでくれますが、久々すぎて身体がうまく上がりません。ルルベ、パッセとやってみるけれど、軸足の上に上体を正しくもっていくことができません。スマホ越しのKさんから「アンオーにして」と声がかかりやってみたら、なんだかシェーになったまま回る回る私の身体。
ポワントはちょっと得意だと思っていたのに、こんなにもできないとは。やはり、全身が適切に鍛えられていてこそ正しく立てるのだと再確認しました。ポワントレッスンも再開しなければ。
1時間で大急ぎで撮影を終えてカメラマンのYさんとはお別れし、今度は老舗カフェでライターのFさんから取材を受けます。これが超絶楽しかった!!
好きなことについて思う存分話すことができる。いや、話すことを求められる。すべてを熱心に、興味を持って聞いてもらえる。始めたきっかけ。バレエの魅力。続けている理由。小さなエピソード。なんでもかんでも耳を傾けてもらえる。要所要所でもっと話したくなるような絶妙な質問をはさみながら。オタクにとってこれ以上の喜びがありますか?(ない!)
もっとないですか?
○○についてはどうですか?
言い残したことはないですか?
ハア、ハア、
は、はい…… も、もうないです……。
(いや、正確に言うとまだまだあるけど、とりあえず今は思い出せないです……。今現在の限界です。)
2時間ほどでしょうか。息が切れるほどしゃべりたおしました。
楽しい。これまでにも取材を受けたことはありますが、仕事に関するものだったので、これほど楽しかった記憶はありません。
大人バレリーナ、やり切りました。
出し切りました。
翌日、チェック用に写真とページサンプルが送られてきました。
恐る恐るファイルを開くと……
ああ、とてもきれいに撮ってくださっています!
自虐ではありませんが、素人のおばちゃんのバレエ姿など特に撮りたいものでもないでしょうに、撮影してくださったYさんは、対象にあたたかい目を向けてくださる方でした。
ふと、学生のとき、似顔絵を描くアルバイトをしたときのことを思い出しました。
嘘ではない、誰が見ても本人が見てもそこに描かれているのは本人、だけど、ほんの少し可愛く描くことを心がけていました。それは大きなことではなく、最後にさぁっと頬に紅をさすといった程度のことなんだけど、描かれた自分を見てどの人もとても嬉しそうにして、他の人にも見せて、結果、私の前に行列ができたりしました。
それは愛情を持ってその人を見たことが伝わるから。そして、自分が(まだ)誰かの目にそんなふうに映るのだという喜びでもあったと思います。
私が描いた似顔絵を見て、嬉しそうにしてくれたあのときのおばちゃんやおじちゃん、おばあちゃんおじいちゃんの気持ち、わかるよ。今は。
ライターのFさんは、私がしゃべりたおした中から「ここが肝」ってところを取り出して、簡潔かつ美しい文章にまとめてくださっていました。プロのお仕事。感涙。
しかし、文章少なっ!
私の膨大な量のトークと誌面の文字の分量の格差に唖然としました。
喋りすぎたわー。
絶対しゃべりすぎてたわー。
ほんま、ごめん。
ていうか言うてよ。止めてよ。
だって、だって、あのときもっとありませんか? って言ったよね?
言ったよねぇぇぇぇぇ。
総じて、取材楽しい。取材最高。取材バンザイ!
以後、お待ちしております。
得意分野は大人バレエ、犬、推し、ですのでよろしく。
掲載雑誌リンク:「大人のおしゃれ手帖」
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大人バレエの世界

いくつになっても憧れる華やかなバレエの世界。アラフォーからバレエを始めた著者による、楽しく、たくましく、哀しくもおかしい“大人バレリーナ”の日常。
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