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人はどこで人生を間違えるのか

2025.04.25 公開 ポスト

なぜ人は「認めてもらいたい」とばかり思ってしまうのか? 承認欲求の裏側にあるものをひもとく加藤諦三(社会心理学者)

「テレフォン人生相談」の回答者としても広く知られる、加藤諦三さんの新刊『人はどこで人生を間違えるのか』が好評発売中です。本書から一部を再編集してご紹介します。

*   *   *

認められない自分を認められない人

もっと認められたい。しかし、自分は期待した通りには認めてもらえない。認めてもらえなくて、自分が自分自身に不満である。
時には「認めてもらいたい」という欲求から「認めてもらわなければならない」という必要性にまでなる。
「認めてもらわなければならない」のに、認めてもらえなければ焦る。思うようにならない自分を自分が憎む。

自分は、自分が望むほどの業績を上げられない人間である。しかし、そのことを認められない。自分はよく働く人間でない。なのにそのことを認められない。
自分は自分で事業を始められない。でもそれを認められない。そうなるとその証拠を出さなければならない。そこで「わがままな部下」とか「妻」とか「息子」とか「娘」とか、色々な原因を見つけなければならない。その時にその原因となる人たちに、自分の心の中のものを外化する。

自分の中のわがままな気持ちを自分の部下に外化して、部下がわがままだと言う。要するに、業績を上げられない自分を憎んでいるのだが、わがままな部下がいるから自分は業績を上げられないとなる。

まずは自分の失敗を認めるところから

自分の中に自分に対する敵意がある。それを相手に外化する。相手の心に敵意があると思う。事実は、相手はこちらに好意がある人かもしれない。しかし、そういう人を次第に敵にしていってしまう。

精神科医のカレン・ホルナイは、外化をすると他人が重要になりすぎると言う(*1)。なくてはならない人にしてしまう。
外化をした他人を恐れている、そして敵意を持っている。それにもかかわらず相手を必要としている。

つまり、多くの場合「あいつさえいなければ」と思っているのは、自己憎悪の合理化である。
望むようにことが運んでいない。イライラする。その原因は「あいつだ」と非難することで、自分の心のバランスを回復する。

要するに非難する他人がいなければ、心のバランスを回復できない。心のバランスを維持するためには、どうしても非難する他人が必要になる。
敵対しながらも、その人が必要である。

相手を敵視する。でもその人なしには自分のイライラを収められない。安心して生きられない。
外化する人々は、自分の失敗を認めず、他者がその困難の原因だと考え、激しく非難する(*2)。

順応活動ができなくなり胸騒ぎを適切な行為に切りかえることができなくなる。そこで動機と行動との間に「投射」の機制が介入する。事態を全部外在化する。自省を拒み、自分の心を全面的に外界のせいだと考える。自身内部の破壊的衝動に苦しむと、誰か他人の側にその衝動があるとみる(*3)。

このような態度は、親子関係においても見られる。自分の不幸を子どもに責任転嫁し、子どもが勤勉でない、優秀でないから自分が不幸だと思う。自分の失敗や騙されたことを認めることができず、その原因を他者に押し付ける。

このような責任転嫁は、最終的に現実否認を引き起こし、次第に妄想の世界に入っていくことになる。「人が自分を助けてくれないから私は幸せになれない」と言いながら、他人を憎んでいる。自分自身に対して怒りを抱えた人は、他人を非難しながらも、自分自身に対する怒りは周囲には見せないことが多い。自己非難は周囲には見えないため、その人の内面的な葛藤が他人には理解されないのである。

外化とは、自分が感じていることを他人を通して感じること

外化と一見似ているようで、実は異なる心の動きとして、「抑圧」と「投影」がある。くわしくは第2章で述べていくので、外化と、抑圧、投影のちがいについて、ここでは簡単に触れておく。

敵意を抑圧している人は、「あなたはそうして人に意地悪をする」とか、「あなたは何で人をいつも非難するのだ」とか、「あなたは攻撃的な人間だ」とか、「あなたは嫉妬深い人間だ」とか、相手を非難する。

実はその人自身が嫉妬深いのだが、嫉妬深いということを認められなくて、相手を非難する。これを「投影」という。
外化は、自分では気がついていない自分自身の感情を外へと向けることである。
抑圧の場合には、心の奥底では自分の感情を知っている。しかし、外化の場合にはそれを知らない。

つまり認めないのではなく、最初から気がついていない。
敵意を外化した人は、周囲の人が自分に敵意を持っていると思う。誰も自分を信じてくれないと思う。だから怯えて、ビクビクしている。自分こそが周囲に敵意を持っているということに気がついていない。

投影の場合は、相手を非難する。外化の場合、感情はそれに気がついていない。外化は、相手を非難するのが目的ではない。自分を守ることが目的である。
外化とは、自分が感じていることを他人を通して感じることである。それには二通りある。
自分への不満を相手を通して感じる。

1、自分が「相手」に不満を持つ。
2、「相手」が自分に不満である。

自分が自分自身を憎む。自分への憎しみを相手を通して感じる。

1、自分が「相手」を憎む。
2、「相手」が自分を憎む。

自分の感情の原因を外部に求める。そこが投影と違う。
自分が誰かを憎んでいる時に、一度「私は本当にあの人を憎んでいるのだろうか?」と自分に問いかけてみることである。
もしかすると、その人を憎むことで自分の中の憎しみの感情を処理しているのかもしれない。

例えば、あなたが憎んでいる相手が佐藤という名前なら、「私は本当に佐藤を憎んでいるのだろうか?」と、自分に問う。
自分が自分自身を軽蔑している。自分の蔑視を相手を通して感じる。

1、自分が「相手」を軽蔑している。
2、「相手」が自分を軽蔑している。

自分が誰かを軽蔑している時に、一度「私は本当にあの人を軽蔑しているのだろうか?」と反省してみることである。

註)
*1 Karen Horney, Neurosis and Human Growth, W. W. Norton & Company, 1950, p.297.
*2 Karen Horney, Our Inner Conflicts, W. W. Norton & Company, 1945, p.116.
*3 Gordon W. Allport, The Nature of Prejudice, A Doubleday Anchor Book, 1958. 原谷達夫・野村昭 共訳、『偏見の心理』下巻、培風館、1961、125頁

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加藤諦三 社会心理学者

1938年、東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修了。元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員。早稲田大学名誉教授。ニッポン放送「テレフォン人生相談」のパーソナリティを半世紀以上にわたり務めている。『「人生、こんなはずじゃなかった」の嘆き』『他人と比較しないだけで幸せになれる』(ともに幻冬舎新書)のほか、著書多数。

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