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日本の歴史はエロだらけ

2016.04.17 公開 ポスト

日本に実在したセックス宗教下川耿史

古来、日本人は性をおおらかに楽しんできました。歴史をひもとけば、国が生まれたのは神様の性交の結果で(そしてそれは後背位でした)、奈良時代の女帝は秘具を詰まらせて崩御。豊臣秀吉が遊郭を作り、日露戦争では官製エロ写真が配られていたのです。――幻冬舎新書『エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話』(下川耿史・著)では、歴史を彩るこうしたHな話を丹念に蒐集し、性の通史としていたって真面目に論じてゆきます。

今回は第4章「戦乱の世を癒すエロ 鎌倉~安土桃山時代」より、第5話「セックス宗教立川流が大人気」の一部を試し読みとしてお楽しみください。鎌倉時代に実在した、驚愕のエログロ教義とは!?

第5話 セックス宗教立川流が大人気

セックスで悟りを開く

弘法大師(空海)が中国からもたらしたさまざまな経典の中に『理趣経』と呼ばれるお経があった。仏教の教えでは性交は不淫戒によって禁じられているが、『理趣経』は性交を通して即身成仏にいたると説いている点が大きな特徴だった。即身成仏とは人間が生身のまま究極の悟りを開き、仏になることを意味する。つまり『理趣経』とはセックス至上主義の経典といってよい。

鎌倉時代にはそのセックス至上主義を教義の中心に据えた宗派が生まれた。それが立川流である。立川流は真言宗の僧の最高位である阿闍梨にまで上り詰めた仁寛によって開かれ、京都・醍醐寺三宝院の僧だった文観によって大成されたとされている。仁寛は武蔵立川(現東京都立川市)に住んでいた陰陽師のグループに教えを伝授した。そこから広がったところから、こう呼ばれる。この時仁寛は、性の教義とともに醍醐寺の塔頭である三宝院の修験道の教義も彼らに教授したが、三宝院の僧だった文観は、その縁で立川流を知ったと推測されている。

ところで立川流は『理趣経』の中にある「十七清浄句」といわれる教えを基本の教義としていた。これは、

「妙適」男女の交わりによって起こる快楽。

「欲箭」弓矢のようにすばやく欲望を起こすこと。

「触」男女が触れ合う抱擁。

「愛縛」男女の間に離れられない気持ちが生じて、互いに縛られること。

さらに欲望をもって異性を見た時、美しいと感じる心、男女の交合の実感とその歓びなど17に及ぶ交合の効用を表している。

これだけならセックス至上主義といっても、ほかの宗派でも暗黙のうちに容認していたところだが、1270(文永7)年、越前(現福井県)豊原寺の僧・誓願房正定が立川流の内実を暴露した『受法用心集』を著わして立川流を攻撃した。その結果、立川流が秘密にしていた教義が露わになったのである。

暴露された秘密のエログロ教義

そのポイントは2つあった。先ず立川流では性液は「渧」という言葉で表され、男の性液は白、女の性液は赤色とされる。この場合、女の性液とはいわゆる愛液のことだが、男の性液にはわれわれが知る精液のほかに、男も性交中に愛液を出すという考えがあったようだ。こうして男女二根の冥合(性交のこと)と赤白二渧の秘儀こそ教義の中心とされた。赤白二渧の秘儀については後で触れる。

第2のポイントは各自が本尊を造ることだが、本尊は人間の頭の骨で造った「髑髏仏」と定められていたことである。さらに髑髏仏には10種類の形があったといい、『受法用心集』には次のように説明されている。

「一には智者(智識人)、二には行者(仏教修行者)、三には国王、四には将軍、五には大臣、六には長者、七には父、八には母、九には千頂、十には法界髏」

こういう人の髑髏を入手して本尊とするのが望ましいというわけである。ちなみに千頂とは1000人分の髑髏の頂上部分を集めて細かく砕き、練ったもの。頭蓋骨の頂上は人黄(どのようなものかは不明)を含む骨のエッセンスだから良質なのだという。法界髏は重陽の節句に死体が葬られた山や墓地に入って拾い集めた髑髏を指す。

骨集めが終わると、いよいよ本尊造りにかかるわけだが、これも大頭本尊、小頭本尊、月輪形 本尊の3つのパターンに分けられていた。したがって信者は30種類の髑髏仏の中から、自分はどの形を本尊とするかを決めることが必要であった。

その大頭本尊、小頭本尊、月輪形本尊の違いだが、ここでは真鍋俊照の『邪教・立川流』(筑摩書房)から大頭本尊についてだけ紹介する。その理由はすべてに触れることは煩雑であること、それぞれがいささかグロテスクなので、詳しい描写は避けたいという筆者の思いに基づく。

同書には大頭本尊のことが、こう記述されている。

「大頭は生身の頭部を再現するように作るもので、口の部分には舌をつけ、歯を入れ、頭部も漆を塗り重ねて丸味を出す。これに女性と性交した時に出る和合水(愛液のこと)を120回塗ること」

この和合水を塗る作業が赤白二渧の秘儀というわけである。この作業は後で金銀箔を顔面に塗り、曼荼羅を描くための下準備といい、和合水には血液と同じ意味があるという。それにしても人間の頭の大きさをした髑髏全体に120回も愛液を塗り付けるためには、どれくらいの量が必要で、それは何回の性交によって得られるのだろう?

そう考えると、セックス至上主義も地上の楽園というわけにはいかないようだ。ちなみに立川流における曼荼羅とは男女が交合する姿を描いたものである。

こうして完成した本尊と曼荼羅を飾り、山海の珍味を供えて8年にわたりお祈りすれば、本尊造りの難易度に応じて霊験がもたらされるというのが、立川流の説くところであった。しかもその霊験たるや、下品に成就した者にはあらゆる望みをかなえさせ、中品には夢でお告げを与え、上品には言葉を発して三世(過去・現在・未来)のことを語るという、最高の現世のご利益であった。

関連書籍

下川耿史『エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話』

日本の歴史にはエロが溢れている。国が生まれたのは神様の性交の結果で(そしてそれは後背位だった)、 奈良時代の女帝は秘具を詰まらせて亡くなった。 豊臣秀吉が遊郭を作り、日露戦争では官製エロ写真が配られた。 ――本書ではこの国の歴史を彩るHな話を丹念に蒐集し、性の通史としていたって真面目に論じてゆく。 「鳥居は女の大股開き」「秘具の通販は江戸時代からあった」など驚きの説が明かされ、 性を謳歌し続けてきたニッポン民族の本質が丸裸になる!

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日本の歴史はエロだらけ

乱交、夜這い、混浴、春画、秘具……。イザナギの時代から昭和ごろまで、日本の歴史に散らばるHなエピソードを蒐集した新書『エロティック日本史 古代から昭和まで、ふしだらな35話』(下川耿史・著)。ここでは内容の紹介や無料での試し読みをお届けします。

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下川耿史

1942年、福岡県生まれ。著述家、風俗史家。著書に『日本残酷写真史』『盆踊り 乱交の民俗学』(ともに作品社)、『混浴と日本史』、林宏樹との共著『遊郭をみる』(ともに筑摩書房)、『死体と戦争』『日本エロ写真史』(ともにちくま文庫)、編著に『性風俗史年表(明治編/大正・昭和戦前編/昭和戦後編)』(河出書房新社)ほか多数。

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