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加藤千恵×岡本雄矢 歌人対談

2024.04.28 公開 ツイート

岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』×加藤千恵『あなたと食べたフィナンシェ』刊行記念対談【前編】

“マジで不幸を呼ぶ岡本雄矢さん”再び!?加藤千恵さんとの“リベンジ対談”で、前回に続き、早々にやらかす… 岡本雄矢/加藤千恵


甘やかされる二人

岡本 ところで、タイトルってどうやって決めたんですか? 

加藤 3つか4つ候補を出したんですけど、装丁をやってくださった名久井直子さんが最終的に決めてくれました。

岡本 へえーっ!

加藤 名久井さんって装丁が素晴らしいのはもちろんなんですけど、テキスト的なことも決めてくださることがあって。私、『ハニー ビター ハニー』という小説を出してるんですけど、あれも名付けてくれたの、名久井さんなんです。

岡本 ええーっ!

加藤「ハニー」と「ビター」をどう並べるかって担当編集者が名久井さんと相談していて、小花美穂さんの漫画に『Honey Bitter』っていう作品もあったのでどうしようとなったときに、「3つ並べたら?」っておっしゃってくださったみたいで、それで決まったんです。私は名久井さんに甘やかしてもらいましたね(笑)。

岡本 なるほど、甘やかされてるのは一緒なんですね(笑)。 

加藤 それで素晴らしい装丁にしてもらっちゃいました。じゃあ今回の『センチメンタルに効くクスリ』の装丁もSさんにお任せで?

岡本 そうです。なので、あんまり本を出した感覚がないんですよね。毎週送った短歌や原稿が本になってくれたっていうだけで。

岡本担当者S こちらは、デザイナーの鈴木千佳子さんに、お任せでした。表紙がコアラぽくなったのも、本書の中から、この短歌が岡本さんぽい、この作品ぽい、ということで、鈴木さんが考えてくださって。

加藤 そういえば全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』が文庫になるのも、なんか担当者からサラっと告げられた、みたいことを(文庫版あとがきの中で)書いてましたよね?

岡本 はい、ご飯食べてるときにSさんから「文庫にしますから」って言われて。

加藤 本当に知らない所で決まってた! 頭上でくす玉を割ってほしかったくらい? (笑)

岡本 そうですね(笑)。

加藤 ところで、新刊の『センチメンタルに効くクスリ』の芸人さんパートで思ったんですけど、世の中のほとんどの人は芸人さんになってないから知らないはずなのに、なんかわかるし、共感してしまって。そこのすくい方がすごいなと思いました。

岡本「いろはす」の話ですね(笑)。

出囃子に知らない洋楽が流れ いろはすだらけの舞台袖にいる(岡本)

加藤 そうそう、場面が浮かぶんですよね。そういう面白い場面を切り取るところがすごいなと思います。短歌って悲しくなりがちですけど、岡本さんのは悲哀も伝わってくるんですけど、やっぱりおかしみがあるというか。

岡本 なんでなんですかね? ……なんでなんですかね、っていうのも変な話ですけど(笑)。

加藤 前回リモート対談したときに、マンネリとかスランプのことおっしゃってましたよね。「書くことがなくなるんじゃないか」って心配していると。でも、いくらでも書くことありそうですよね?

岡本 短歌はいっぱいあるんですけど、エッセイになるかどうかっていうのがありますね。でも、一週間前に無理だと思っても、今週はなんか書けそうだっていうのがあったりして、自分でも不思議です。

加藤 短歌のストックは結構あるんですか?

岡本 短歌のストックはめちゃくちゃあるんですよ。毎週ストックの短歌を見返して、エッセイを書けそうなものを拾ってるんですよね。それこそ歌人の山田航先生に見てもらって、OKもらった短歌を出してる感じなんですが。でもいつか書くことがなくなるんじゃないか、という怖さはずっとあります。

加藤 でも読む限り、あともう15冊くらい出せそうですよね? (笑)

岡本 いや、僕だって加藤さんに同じこと思いますよ。これだけ小説の設定を考えられたら!

加藤 私、自分で書いたことを結構忘れちゃうから、設定が被ってたりしてないかなって心配になることがあって(笑)。岡本さんは「これ、以前にも書いてたな?」とか思うことないですか?

岡本 似てるのはありますね。エレベーター乗れなかったみたいな話、2つくらい同じ本に入ってますからね。でも自分でも忘れてるくらいだったら、読者はそんなに覚えてないだろう、みたいな。それは芸人のときも思うんですよね。「このネタ、1年前にやったけど、もしあのとき見たお客さんがここにいても、自分でもあんまり覚えてないんだから大丈夫だろう」と思ったり。そこはちょっと麻痺させてるというか(笑)。

加藤 そもそも、ウケたネタって、鉄板ネタになりますもんね。


自分の話を書くのは恥ずかしい?

加藤 ところで岡本さん、恋愛経験が全然ないみたいなことを書いているけど……めっちゃ恋愛のこと書いてらっしゃいますよね?

岡本 え……いやいや……。あの、同じ方の話とか……。恋はしてるけど、恋愛はそんなしてない自信あるんです!

加藤 でも、喧嘩したら彼女が芳香剤を飲んでやると言われた、結構ハードな短歌ありましたよね? 普通飲まないですよね、芳香剤は(笑)。そういうエピソードがいっぱいあるじゃないですか。だからめちゃめちゃ恋愛してる人みたいなイメージありますよ。

芳香剤飲んでやるって騒ぐから芳香剤は二度と置かない(岡本)

岡本 全然恋愛はしてないんですけどね……してないことはないですけど、うまくいかなかった的な話は結構あって、片思いっぽいのとかも、いっぱい……(汗)。あ、ところで加藤さん、エッセイは書かれないんですか?

加藤 もちろんお話頂いたら頑張るんですけど……なんか自分の話を書くのが恥ずかしくて(笑)。

岡本 小説は?

加藤 もう完全に創作なんです。友達の話とか、人に聞いた話を元にしていても、エッセンスだけ残して設定を丸ごと変えちゃったり、年齢変えちゃったり、性別変えちゃったりとか。どこかしらで自分が思ってることだったり、自分とちょっと似てるところを書いてはいますね。まったく知らないことだと書けないので。だから、エッセイすごいなぁと思って。……恥ずかしいなって思うことってありません? 変な質問ですけど(笑)。

岡本 それはあんまりないかもしれないですね。昔はちょっとカッコつけたりとかあったと思うんですよ。でもそういうところで頑張っても無理だから、自分の切り売りじゃないけど、自分のダメなところを出していった方がまだ認められることの方が多いんじゃないか、ってどこかで思ったのかもしれないです。エッセイの方が僕は真っ直ぐ行けるんですよ。逆に小説は、話をいろいろ変えていく作業があるから、手間って言うと、言い方悪いですけど。

加藤 私は基本、「想像」してるんですよね。昔からなんですけど、「北参道に生まれ育ったらどうなったんだろう」とか。旅先でもそういうことを考えてますね。

岡本 じゃあ、尽きることないんじゃないですか?

加藤 だから書いていると、アウトプットしたのかどうかわかんなくなるんです。「これ、書いたんだっけ?」って。あと短歌も、人の短歌なのか、自分の短歌なのかわかんなくなることもあります(笑)。

岡本 加藤さんの短歌は、誰でも使うシンプルな言葉がめっちゃ多いからじゃないですか? 僕の短歌は、「実家の麦茶まずそう」みたいに他の人がしてない経験を言ってるから、被ってるとかってあんまり考えないですね。だからこそ、加藤さんの短歌ってすごいなと思うんですよ! シンプルな言葉で、ここだけの世界を作るから。

初合コンで言われた第一印象は「実家の麦茶まずそう」でした(岡本)

関連書籍

加藤千恵『あなたと食べたフィナンシェ』

家を出るお父さんが教えてくれたアンキモの味。引っ越す友達と分け合ったグミ。仕事を辞めて久しぶりに作るキュウリのサラダ。恋人に別れを告げられ、目の前で冷めていくビスマルクピザ。子どもと食べる初めてのフライドポテト。恋、仕事、親との別れ――人生の忘れられない場面には必ず食べものの記憶があった。珠玉のショートストーリー+短歌集。

岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』

今日も世界の片隅で、ひとり膝を抱える僕とあなたのために。 不幸に愛された、トホホ名人……歌人芸人が身を切って綴る、“せつなさとおかしみ”、“短歌とエッセイ”のマリアージュ。 恋でも、仕事でも、その辺にいるときも。あのときも、今も、どうせ明日も。 傷づいたり落ち込んだり。顔では笑っているけど、心は砂漠。 僕の日々は小さな不幸の連続です。トホホな出来事がよく起きて、センチメンタルに殺されそうな日々です。 でも、不幸があると短歌ができます。その短歌を読んで誰かがクスリと笑ってくれます。そうすると僕の小さな不幸は成仏されるのです。 短歌があればトホホも友達です。もしあなたに今、憂鬱なことがあるのなら、僕と一緒にトホホを小さな笑に変えてみませんか。 □すすきのを3周したのにあのホスト僕の原付にまだ座ってる □注意するほどじゃないけどないんだけど新人さん少し休憩長い □帰ろうと言い出す前の沈黙を作りたいのにずっと喋るね □自転車で豪快にこけてやっぱりか この夏初の半ズボンの日 □ワンテンポ隣の席が早いのでコース料理次々とネタバレ □節約のために水筒持ち歩き パチンコでむちゃくちゃ負けている □もうこれで最後だの感じ出したのに3日後に会う機会があった □短歌とか少しも興味のない君に届かせたくて詠んでる短歌                   …ほか、トホホ短歌に、トホホエピソードを添えて。

岡本雄矢『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』

昨日もトホホ、今日もトホホ。憂鬱だらけの毎日も、短歌に詠めば何かが変わる!「あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです」「さっきまで順調だったレジの列 急にもたつきだす僕の前」「ものすごい数のハトが集まっているおじさんに人は集まらない」他、105首の短歌とエッセイで綴る、ほろ苦さとおかしみに満ちた愛すべき日々。

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加藤千恵×岡本雄矢 歌人対談

短歌を詠みつつ、小説やエッセイを書くふたりの対談。創作秘話から、作品と真逆の素顔、まさかの「不幸」勃発まで目が離せない展開です。締めくくりには因縁のおもてなしエピソードも。

バックナンバー

岡本雄矢 主に“トホホ短歌”を詠む「日本に(たぶん)ただ1人の歌人芸人」

詠み始めるとなんでも”トホホ短歌””不幸短歌”になってしまうという特徴を持つ、「日本にただ1人の歌人芸人」。1984年北海道生まれ。吉本興業所属。コンビ「スキンヘッドカメラ」で活動中。YouTubeで「芸人歌会」を開催。北海道新聞等で連載も。

短歌とエッセイを収録した初の著書『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』には、俵万智さん、穂村弘さん、板尾創路さんからアツい推薦文が寄せられた。

最新刊は『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』。

加藤千恵 歌人・小説家

1983年、北海道生まれ。短歌集『ハッピーアイスクリーム』で高校生歌人としてデビューした後、2009年、『ハニー ビター ハニー』で小説家としてもデビュー。以降、小説、詩、エッセイなど様々な分野で活躍。近刊に『マッチング!』『一万回話しても、彼女に伝わらなかったこと』などがある。最新刊は『あなたと食べたフィナンシェ』。

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