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加藤千恵×岡本雄矢 歌人対談

2024.04.28 公開 ツイート

岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』×加藤千恵『あなたと食べたフィナンシェ』刊行記念対談【前編】

“マジで不幸を呼ぶ岡本雄矢さん”再び!?加藤千恵さんとの“リベンジ対談”で、前回に続き、早々にやらかす… 岡本雄矢/加藤千恵

自らの不幸を短歌に詠む歌人芸人の岡本雄矢さんと、その岡本さんがずっと憧れている歌人で小説家の加藤千恵さんとの、リモート対談が行われたのは今から2年前。

2年前のその日、岡本さんはスマートフォンの画面がバキバキで、だったら……とパソコンで参加しようとしたところ、なぜかカメラが作動せず、シルエットさえわからない紗のかかった映像のまま対談に参加した。しかも機材トラブルのせいで対談開始時刻から30分の遅刻という、トリプル不幸。(当時の記事はコチラ

当時の失態を猛省し、そして加藤さんに宣言した「お詫びのアイスを奢る約束」を果たすため、今回は満を持して札幌から東京の幻冬舎へとやって来た岡本さんだった。

というのも、加藤さんと岡本さんはそれぞれ、近い時期にあなたと食べたフィナンシェ』『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるのを刊行。しかも、岡本さんの初めての文庫全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割に、加藤千恵さんが文庫解説を寄せてくさったという、奇跡のタイミング!

しかし対談当日、会社をぐるりと取り囲むように工事が行われており、直接建物へ入れない。「長年勤めているけれど、こんなの初めて」「なかなかのレアケース」と担当編集者たちも悲鳴を上げる事態。

さっそく“不幸を呼ぶ体質”を遺憾なく発揮した岡本さんだが、加藤さんは、女神のような笑顔で、軽やかに工事の柵を超えてきた。今回の対談は、無事に始まり、終えることができるのか!?


違います、僕のせいじゃないですよ!

加藤 幻冬舎がこんなに囲まれている状態を見たの、初めてでびっくりしました。

岡本 いやいや、僕のせいじゃないですよ! いやもう、前回はすいませんでした!

岡本担当編集S 前回は、じゃないですよ、今回も、ですよ。昨日だって、岡本さんと食事に行ったのですが、いつも開いている店がお休みで……。

岡本 違いますって、僕のせいじゃないですよ!

加藤 実はこの前、高千穂へ行ったんですけど、豪雨で近寄れもせずで……。これも岡本さんとの対談が決まったからだな、と……。なので、今日も幻冬舎が工事中だったのを目にしてすぐに、「さもありなん!」と思って。岡本さん、さすがだなと思います。

岡本 いやいや、加藤さんのスケジュールまで知らないですから! ところでこれ、お土産なんですが……。

加藤 わあ「美冬」! これ美味しいんですよね。中がミルフィーユで。

岡本 北海道なので、らしいお菓子を……ということであなたと食べたフィナンシェ、読んで来ました!

加藤 ありがとうございます。付箋がたくさんついてますね……あ、これってダメ出し用ですか?

岡本 違いますよ! 気に入ったやつに貼ってるんですよ(汗)! ……これって幻冬舎plusに掲載されたお話もありますよね。

加藤 そうです。どういった方向性で行こうかと担当のHさんと話して、読者の反応がわからないので、何回か連載したんです。

岡本 これは短編集ですけど、こんなに多くの設定って、どうやって出してるんですか?

次にいつ会えるかなんてわからない
いま笑い合ったのを忘れない(加藤)

加藤 ほとんどは夜に書いてるんです。まず、食べたいものから選んで。

岡本 ええっ!

加藤 だいたいお腹減って、あれ食べたいな、というのを選んでましたね。あとはお店の前を通りかかったときに「これ書けそう」となることもありました。水泳を諦める女の子の話の「蒸し鶏とワカメのおにぎり──この瞬間を」は、コンビニでおにぎりを見て「そういえばチキンって、アスリートの方が食べるよなぁ」みたいなイメージでそこからつなげて……という感じで。なので、ご飯や料理が先ですね。

あきらめるのにも勇気が必要で
体のどこかが点滅してる(加藤)

岡本 ご飯が先!?(笑) 話ができてからご飯を選んでいるのかなと。

加藤 そんな感じで、全体をどうしようというのを決めなかったから、今作では、結果として人の生き死にの話が多めになりました。

岡本 付き合っている人が浮気ばかりしてる女性のお話って……何でしたっけ?

加藤「唐揚げ──もう増えない」ですね。

こんな結末を望んだわけじゃない
正解はずっとわからないまま(加藤)

岡本 これは衝撃でした! あと僕、「いももち──しずばあのこと」が最初のビックリで。加藤さんは恋愛小説のイメージが強かったので、こういうのも書かれるだと思って。

二度と聞くことのできない
柔らかな声が頭の中で響いて(加藤)

加藤 怖い話ですよね。

岡本 一番最後の「ツナマヨ丼──ふたりぼっち」もすごいラストで! これ、小説の順番はどう決めたんですか? 書いた順ですか?

今までを思い出しても
これからを考えててもかなしくなった(加藤)

加藤 順番は変えましたね。まず食べ物があまり被らないように、お菓子ばっかりにならないようにとか、それこそ生き死にばっかりにならないようにと並べ替えて、「やっぱりちょっとこれ、重なってる、出だしが似てるから、ちょっと変えます」みたいにやりながら……です。今またやり直したら、違う順番になる気がします(笑)。最初の「アンキモ──知らない食べ物」は順番通りで、最初に書いた小説です。

いつ来るかわからないけどいつか来る
その日まで大人になっていく(加藤)

岡本 ご自分で並べたんですか?

加藤 はい、付箋に「失恋」とか内容をザックリ書いて、全部に貼っていって。「あ、これじゃ、重なっちゃうな」とかそういう感じで。

岡本 うわあ。

加藤 岡本さんのセンチメンタルに効くクスリも恋愛パートと芸人さんパートなどありますけど、順番とどおりじゃないですもんね?

岡本 そうですね。僕のは担当編集のSさんが並べてくれて…。

加藤 へえーっ。順番はSさんが? 甘やかしてもらってるんですね、いいな(笑)。

岡本 甘やかされてるんですかね、やっぱり(笑)。でも本を出すのは初めてだったので、どこまで自分がやるんだろう、って思ったから…

加藤 他で仕事できないようにするための、Sさんの策略かも……(笑)

岡本 ……。

関連書籍

加藤千恵『あなたと食べたフィナンシェ』

家を出るお父さんが教えてくれたアンキモの味。引っ越す友達と分け合ったグミ。仕事を辞めて久しぶりに作るキュウリのサラダ。恋人に別れを告げられ、目の前で冷めていくビスマルクピザ。子どもと食べる初めてのフライドポテト。恋、仕事、親との別れ――人生の忘れられない場面には必ず食べものの記憶があった。珠玉のショートストーリー+短歌集。

岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』

今日も世界の片隅で、ひとり膝を抱える僕とあなたのために。 不幸に愛された、トホホ名人……歌人芸人が身を切って綴る、“せつなさとおかしみ”、“短歌とエッセイ”のマリアージュ。 恋でも、仕事でも、その辺にいるときも。あのときも、今も、どうせ明日も。 傷づいたり落ち込んだり。顔では笑っているけど、心は砂漠。 僕の日々は小さな不幸の連続です。トホホな出来事がよく起きて、センチメンタルに殺されそうな日々です。 でも、不幸があると短歌ができます。その短歌を読んで誰かがクスリと笑ってくれます。そうすると僕の小さな不幸は成仏されるのです。 短歌があればトホホも友達です。もしあなたに今、憂鬱なことがあるのなら、僕と一緒にトホホを小さな笑に変えてみませんか。 □すすきのを3周したのにあのホスト僕の原付にまだ座ってる □注意するほどじゃないけどないんだけど新人さん少し休憩長い □帰ろうと言い出す前の沈黙を作りたいのにずっと喋るね □自転車で豪快にこけてやっぱりか この夏初の半ズボンの日 □ワンテンポ隣の席が早いのでコース料理次々とネタバレ □節約のために水筒持ち歩き パチンコでむちゃくちゃ負けている □もうこれで最後だの感じ出したのに3日後に会う機会があった □短歌とか少しも興味のない君に届かせたくて詠んでる短歌                   …ほか、トホホ短歌に、トホホエピソードを添えて。

岡本雄矢『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』

昨日もトホホ、今日もトホホ。憂鬱だらけの毎日も、短歌に詠めば何かが変わる!「あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです」「さっきまで順調だったレジの列 急にもたつきだす僕の前」「ものすごい数のハトが集まっているおじさんに人は集まらない」他、105首の短歌とエッセイで綴る、ほろ苦さとおかしみに満ちた愛すべき日々。

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加藤千恵×岡本雄矢 歌人対談

短歌を詠みつつ、小説やエッセイを書くふたりの対談。創作秘話から、作品と真逆の素顔、まさかの「不幸」勃発まで目が離せない展開です。締めくくりには因縁のおもてなしエピソードも。

バックナンバー

岡本雄矢 主に“トホホ短歌”を詠む「日本に(たぶん)ただ1人の歌人芸人」

詠み始めるとなんでも”トホホ短歌””不幸短歌”になってしまうという特徴を持つ、「日本にただ1人の歌人芸人」。1984年北海道生まれ。吉本興業所属。コンビ「スキンヘッドカメラ」で活動中。YouTubeで「芸人歌会」を開催。北海道新聞等で連載も。

短歌とエッセイを収録した初の著書『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』には、俵万智さん、穂村弘さん、板尾創路さんからアツい推薦文が寄せられた。

最新刊は『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』。

加藤千恵 歌人・小説家

1983年、北海道生まれ。短歌集『ハッピーアイスクリーム』で高校生歌人としてデビューした後、2009年、『ハニー ビター ハニー』で小説家としてもデビュー。以降、小説、詩、エッセイなど様々な分野で活躍。近刊に『マッチング!』『一万回話しても、彼女に伝わらなかったこと』などがある。最新刊は『あなたと食べたフィナンシェ』。

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