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『「うつ」は病気か甘えか。』刊行記念 村松太郎×斎藤環対談

2014.05.16 公開 ポスト

『「うつ」は病気か甘えか。』(幻冬舎)刊行記念 村松太郎×斎藤環対談

後編 「うつは薬で治る」は幻想!?村松太郎/斎藤環

 2008年にとうとう100万人突破!! 10年で2.4倍に増えたうつ病。あなたの周りの「うつ」、それホント? ウソ? 大学病院の現役医師がこの禁断の問いに挑んだ問題の書「『うつ』は病気か甘えか。」。その刊行を記念して、「うつは甘え」派の医師と「うつは病気」派の医師が、徹底論戦(!?)しました。


死語となっている?「内因性」

斎藤 その「内因性」という概念が、非常に大切ですよね。村松先生は臨床の教育にも関わっておられますが、現在、臨床教育の中で「内因性」という言葉をどれだけ使いますか? ほとんど死語になっているような気もするのですが。

村松 それが死語になると、精神医学は崩壊しますね。私は非常によく使います。私個人だけでなく、私の大学ではそういう教育をしています。うつ病の話をするときは、それが内因性かどうかを必ず問題にしますよ。
斎藤 ああ、それは良かった。私も「内因性概念を生かすべし」という立場なんです。しかし、内因性をほとんど死語扱いしている立場の方もおられますよね。私がちょっと関わっている別の研究室の精神科医たちは、まず内因性なんて言葉は使わない。臨床の現場じゃないと、言ってもわかってもらえないこともあるんでしょうけど。
村松 いや先生、そういう人にぜひ内因性を教えてくださいよ(笑)。それをゴッチャにして話が進むと、大変なことになる。

斎藤 DSMがその概念を捨ててしまったものだから、世の中ではどんどんゴッチャになっていますよね。内因性概念抜きでまともな診断ができるわけがないと私は思いますが、若いドクターは平然と内因性抜きで臨床をやっています。本当に困ったことですよ。診断の構えとしては、まず器質性かどうかをCTやMRIなどで診て、その次に内因性かどうかを考え、その2つを除外して残ったものを心因性とするのが診断のイロハ。しかし内因性という考え方は、診断学に乗っかりにくい面もあるんですよね。内因性疾患に関するエビデンスは集められると思いますか?
村松 内因性は証明できないんですよ。そこが最大の弱点。
斎藤 ドクターの職業的な勘しかないんですよね。これは大事なところで、たとえば引きこもり問題にしても、患者が統合失調症かどうかは内因性に対するセンサーの持ち主でないとわかりません。僕自身、国際学会で「絶対に誤診してる」と言われました。「大した病気もないのに10年も引きこもるなんてあり得ない」と言われて、統合失調症だと決めつけられてしまうんです。でも経過を見ていくと、やはり統合失調症とはまったく違うとしか言いようがない。ただ、それを言語化するのは難しいですね。症状レベルで「統合失調症とは違う」と記述できないことはありませんが、統合失調症という診断に100%の反論はなかなかできない。これはもう、「内因性じゃないから統合失調症ではない」としか言いようがないんです。そういう引きこもりの存在がまったく受け入れられなくなると、統合失調症人口が急に70万人も増えることになってしまうんですが。
村松 統合失調症には昔から「プレコックス感」というのがあって、幻覚や妄想の有無を確かめなくても、その「病気らしさ」を医師が感じることで、ある程度は統合失調症だろうと察しがつく場合があるんですよね。内因性のうつ病にも、何かストレスがあって落ち込んでいるのとは違う感触のようなものがある。「内因性の香り」と呼ぶ人もいますけど。しかしこれは科学的な話ではないので、理解されにくいんです。
斎藤 でも、そうとしか言いようがない病気なんですよ、これは。そういう病気がどんどん駆逐されているので、村松先生のような立場の方に内因性の重要性を大々的におっしゃっていただけるのはありがたい。
村松 内因性を認めないと、「うつなんて甘えだ」という意見が強くなっちゃうんですよね。内因性の病気を甘えと一緒にするのは非常にまずい。「内因性うつ病は病気」ということをしっかりおさえた上で、では内因性ではない人について、それも病気の範疇と考えるか、それとも甘えと考えるかは、社会が決めることであって、医者が決めることじゃないというのが私の考えです。

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『「うつ」は病気か甘えか。』刊行記念 村松太郎×斎藤環対談

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村松太郎/斎藤環

村松太郎(むらまつ・たろう)
1958年、東京都生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神・神経科准教授。医学博士。日本精神神経学会精神科専門医。日本医師会認定産業医。刑事・民事事件精神鑑定なども行なう。主な著書に『認知症ハンドブック」(共著、医学書院)、『統合失調症という事実(ケースファイルで知る)』(監修、 保健同人社)、『名作マンガで精神医学』(監修、中外医学社)、『現代精神医学事典』(共著、弘文堂)、『道徳脳とは何か』(訳、創造出版)、『思春期臨床の考え方・すすめ方 前頭葉機能からみた思春期の病理』(共著、金剛出版)、『臨床神経学・高次脳機能障害学 -言語聴覚士のための基礎知識』(共著、医学書院)、『レザック神経心理学的検査集成』(監訳、創造出版)、『よくわかるうつ病のすべて』(共著、永井書店)など多数。

斎藤環(さいとう・たまき)
1961年、岩手県生まれ。筑波大学医学研究科博士課程修了。医学博士。爽風会佐々木病院等を経て、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」問題の治療・支援ならびに啓蒙。漫画・映画・サブカルチャー全般に通じ、新書から本格的な文芸・美術評論まで幅広く執筆。日本文化に遍在するヤンキー・テイストを分析した『世界が土曜の夜の夢なら』にて第11回角川財団学芸賞を受賞。著書に『社会的ひきこもり―終わらない思春期』 (PHP新書)、『生き延びるためのラカン』 (ちくま文庫)、『関係する女 所有する男』 (講談社現代新書) 、『思春期ポストモダン―成熟はいかにして可能か』 (幻冬舎新書)、『承認をめぐる病』(日本評論社)など多数。

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