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DO YOU SPEAK FOOTBALL?

2023.03.13 公開 ポスト

レッドカードは「尻カード」ドイツのサッカー用語にユーモアと創造力が増殖中トム・ウィリアムズ/堀口容子

世界共通語だといわれるサッカー。でも、サッカーを語る言葉にはそれぞれの国の文化や歴史が反映されているのです。語学は仕事や資格のためのものだけではありません。サッカーを通じて、言語の多様さや深さに触れてみるのはいかがでしょうか? 『DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典』より、昨年ワールドカップカタール大会での日本対戦国の言葉を一部抜粋してご紹介。まずは一戦目、まさかの2対1で勝利したドイツから。

(写真:iStock.com/fotojog)

Germany ドイツ

ドイツのサッカー用語ではユーモアと創造力が増殖中だ。一部ラテン諸国で見られるようなテクニカルな細部への好みは、伝統的にあまりない。この国のフットボールのボキャブラリーの進化をつぶさに見ると、ドイツサッカーの成熟が遅れた歴史が明らかになる。

イングランドと同じく、ドイツでもフットボールは長らくパワーと根性のゲームだと思われていた。ドイツ人も、イングランド人同様、このスポーツのより精密な部分にこだわる意味がわかっていなかったのである。ただし彼らの場合は、それでも勝ててしまうからだったが。ところが、それでずっと成功してきたドイツは、20世紀末、突如として戦術の遅れという現実を突きつけられる。その後の再生は言葉と理論が先に立つもので、2014年ブラジル・ワールドカップの優勝となって実を結んだ。指導・コーチング基準向上を強力に推進したことが、洗練された新たな言語の地平を拓き、それまで制約となっていた戦術的束縛からドイツサッカーを解放したのである。

ドイツが栄光への道を再び歩みはじめるには、誰かがマニュアルをアップデートしなければならなかったということだ。

Arschkarte アルシュカルテ 尻カード

レッドカードはアルシュカルテ「尻カード」という。主審が尻ポケットに入れているからだ。この語は普段の会話でも、誰かが貧乏くじを引いた時に使われる。

Bauernspitz バウアーンシュピッツ 百姓の爪先

トーキックを指すこの言葉はバイエルン地方で生まれた。この地方では、爪先でボールを蹴るのは粗野だとして、理不尽に農家と結びつけられている。

Fritz-Walter-Wetter フリッツ・ヴァルター・ヴェッター フリッツ・ヴァルターの天気

ドイツでは、大雨の中での試合を、元西ドイツ主将のフリッツ・ヴァルターにちなんでこう呼ぶ。彼は雨天の試合で絶好調と言われた。第2次世界大戦で南欧行軍中にマラリアにかかって以来、暑いのが大嫌いだったのである。彼は1954年ワールドカップ決勝で、激しい雨とぬかるんだピッチのお蔭もあってか、もっとも記憶に残るパフォーマンスを見せた。この試合、勝ち目がないと思われたドイツのセミプロ選手たちは、2点ビハインドをひっくり返して3-2で勝利し、有利だったはずのハンガリーに衝撃を与えた。Das Wunder von Bern(ダス・ヴンダー・フォン・ベアン、「ベルンの奇跡」)として有名になる試合である。番狂わせの優勝は、ガッツと体力、そして鉄の自信の上に成り立ったもので、第2次世界大戦という恥辱からドイツが心理的に立ち直るきっかけとなり、その後ドイツがフットボールで勝ち取った栄光ほぼすべての方程式となった。

天気の変化を好まない選手をSchönwetterfußballer(シェーンヴェッターフスバラー、「好天フットボーラー」)、あるいはWarmduscher (ヴァルムドゥーシャー、「温かいシャワー野郎」。冷たい水が我慢できないのかという侮辱)という。悪天候はEnglisches Wetter(エングリッシェス・ヴェッター、「イングランドの天気」)、週の半ばと週末に試合のある週はEnglische Woche(エングリッシェ・ヴォッヘ、「イングランドの週」)と呼ばれる。ドイツのイングランド観が垣間見える。

Gurkenpass グルケンパス キュウリパス

ドイツではキュウリはやや問題のある言葉だ。不正確なパスはグルケンパス「キュウリパス」といい、つまらない試合はGegurke(ゲグルケ)、つまり「キュウリだらけ」と軽蔑される。へたくそなチームはGurkentruppe(グルケントルッペ「、キュウリ軍団」)と呼ばれるだろう。

西ドイツの第3ゴールキーパーだったウリ・シュタインは、メキシコで開催された1986年ワールドカップで、自分のチームをキュウリ軍団と呼び、さらに監督のフランツ・ベッケンバウアーが1960 年代にスープのCMに出ていたことからSuppenkasper(ズッペンカスパー、「スープ芸人」)と貶したため、代表から追放された。ドイツ語のGurke(グルケ、「キュウリ」)は古典ギリシャ語のἀγγούριον(アングーリオン)が語源で、「未熟」や「稚拙」の意味がある。

Notbremse ノートブレムゼ 非常ブレーキ

最後の砦となったディフェンダーが、スピードのある相手フォワードを止めるにはファウルしかないと思うことを、電車の非常ブレーキを引くことにたとえる。

……ほか『DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典』にはまだまだたくさんのサッカー用語が紹介されています。

トム・ウィリアムズ (著)/堀口 容子 (翻訳)『DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典』

フットボールを語ることは、1,000もの言語を語ること。 本書は世界中のフットボール用語を集めた画期的な本。 世界のファン、コメンテーター、選手が使う、楽しくてちょっとひねくれた、クリエイティブなことばを豊富に掲載した。 89か国、700ワード。圧倒的な調査量。フットボール用語ガイドの決定版

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DO YOU SPEAK FOOTBALL?

『DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典』に学ぶ自由で豊かなサッカーの言葉

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トム・ウィリアムズ

ロンドン在住、フットボール・ライター、キャスター。AFP通信で長くイングランド・プレミア・リーグとフランス・リーグ・アンを担当し、イングランドとフランスのフットボールに特に精通する。「ブリザード」「ガーディアン」「インディペンデント」などに記事を執筆。BBC、CNN などの番組にも出演し、選手・関係者と読者・視聴者の双方から信頼を得る。本書は初の著書で、ドイツ語、フランス語、ポーランド語に翻訳された。
Twitter@tomwfootball

堀口容子

翻訳家。スポーツ・美術・歴史・天文・生き物と、古今東西の合唱曲を愛する。訳書に『鉄道ギネスブック日本語版』(イカロス出版)、『ワールドサッカーユニフォーム1000』『トロール』『海の美しい無脊椎動物』『図解 世界の武器の歴史』『アナトミカル・ヴィーナス 解剖学の美しき人体模型』『消えた屍体 死と消失と発見の物語』『ハッブル・レガシー ハッブル宇宙望遠鏡30年の記録』(以上グラフィック社)他。

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