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アルテイシアの初老入門

2025.03.27 公開 ポスト

フェミニズムのおかげで離婚を回避できました【前編】アルテイシア

「フェミニズムのおかげで〇〇できました」

そんな報告を読者の方からよくいただく。

セクハラを撃退できた、トラウマを克服できた、社会活動を始めた、議員に立候補することを決めた……等いろいろあるけど、一番多いのは「夫と離婚できました」という報告である。

フェミニズムには「自分には力がある」と気づくエンパワメント効果がある。

 

また自尊心を取り戻す効果もある。夫のモラハラに耐えていた妻が「自分はこんな目に遭っていい人間じゃない!!」と怒れるようになるのだ。

だから一部の男性はフェミニズムを忌み嫌うのだろう。彼らは女が自分のパワーや人権に気づくことが怖いのだ。

一方で「フェミニズムのおかげで離婚を回避できました」という報告をもらうこともある。

今回は友人のアキラさん(43歳、自営業)のお話を紹介したい。

アキラさんと夫は高校時代に塾で出会った。彼はいわゆる草食系の人見知りボーイで、男子校のホモソノリについていけないタイプだったという。

オラついてないところがいいな、と思った彼女からアタックして交際→20代のときに結婚。

ケンカもしない仲良し夫婦だったが、結婚6年目に子どもが生まれたのを機に「夫婦仲が一気に悪くなったんです」と語る。

このパターンはむっさ、げっさよく耳にする。

日本では妻が夫の5.5倍の家事育児を負担しており、日本人男性は世界一家事育児をしないという調査もある。

子育て世代は共稼ぎが8割で、フルタイムの共稼ぎでも妻が家事育児の7割を負担している。

その結果、働き方を変えざるを得なくなり、キャリアや昇進を諦める女性は多い。女性は出産すると賃金が半減するという調査もある。

そりゃ「子育て罰」という言葉が生まれるわけである。「結婚も出産もしません」と宣言する女性が増えるのも当然だ。

一方、スウェーデンでは国民の97%が「自分の国は子どもを産み育てやすいと思う」と答えている。

スウェーデンに住む友人は「個人の努力や自己責任じゃなく、頑張らなくても子育てできる仕組みになってるのよ」と話していた。

パーソナル・イズ・ポリティカル(個人的なことは政治的なこと)

私たちが生きづらいのは個人のせいじゃなく、政治や社会の責任なのだ。それに気づけるのもフェミニズムの効果である。

女にケアを丸投げするヘルジャパンで、金田一の犯人よりやることが多いワーママたちは「私の人生はこんなに変わってしまったのに、なんで夫の人生は変わらないんだろう……」と涙を流す。

私もまさにそうでした、とアキラさんの額に「怒」の文字が浮かぶ。

「私は経営者だから仕事を休めない。こっちは朝から晩まで働いて、夜は赤子の寝かしつけに2時間かかるのに、夫はゲームをして飲み会にも行く。寝不足でヨレヨレの状態で「なんで飲みに行くわけ?」と抗議したら「俺はいつまで我慢しなきゃいけないの」と返されて、殺意を抱きましたね」

殺意を実行に移さなかった友にノーベル平和賞を贈りたい。

彼女のほうは生活だけじゃなく身体にも変化があったそうで「出産後、不眠症になっちゃって。あと尻がとにかく痛かった。ひどい痔になって肛門から花が咲いてる状態でした」

肛門から花。

その花言葉は「激痛」。

妊娠中はつわりに耐え、出産の激痛に耐え、出産後も尻の激痛に耐える。女、耐えすぎやないか。

一方の夫は無傷のまま子どもを手に入れ父になる。おまけにゲームもするし飲みにも行く。そんな理不尽、マザーテレサでもバチギレるんじゃないか。

別のフェミ友の夫は「あなたは命がけで妊娠出産してくれたんだから、産む以外は全部俺がやる」と宣言、妻は半年で職場復帰して、夫は1年の育休を取って子育てしている。

友人は夫に感謝して夫婦仲も良好だが、周囲から「あなた本当に幸せ者ね、旦那さんに感謝しなきゃ」と言われまくって「男女逆なら言いませんよね?」とうんざりしている。

「男は仕事、女は家庭」というジェンダーロール(性別役割意識)は根強い。サンポールでも除去できないぐらい根強い。

「私も当時はまだ家父長制の呪いが残ってたんです。だから母親の私が頑張らなきゃ、夫は手伝ってくれるだけマシなんだから感謝しなきゃ……と我慢していて、それがよくなかった」とアキラさん。

その結果、夫は「母親がやって当然でしょ」という態度になり、保育園のあれやこれやも丸投げするように。

しかも同時期に夫が部署異動になり、仕事のストレスが増えたんだとか。そのせいでイライラして文句を言うなどモラっぽくなり、夫婦仲はますます険悪に。

そのタイミングで第二子が誕生する……ってなんで? よく子作りする気になったよね?

「もともと子どもは二人ほしくて、子育てがこんなに大変なら一気に終わらせようと思ったんです。でも上の娘がイヤイヤ期で大変な時に息子を出産して、マジで気が狂うほど大変でした」

金田一の犯人も逃げ出すような状況で、夫に出生届を出しに行ってと頼むと「家父長制がどうのとか言うなら自分で出生届ぐらい出しに行けば」と返された。

「あの時の恨みは一生忘れない……」と魔太郎顔になるアキラさん。

妻の夫に対する愛情が冷めた理由の一位は「子育てに協力的じゃなかったこと」なんだとか。大変な時に支え合えないパートナーであれば、百年の恋も冷めるだろう。

「夫のマッチョじゃないところに惚れたのに、そんな男でもこうなっちゃうのかと心底がっかりしました。それでもまだ期待を捨てられず、夫に不満を伝えてたんですけど……」

ある日、アキラさんが乳腺炎で40度の熱を出しながら出社して、帰宅後にソファで寝ていたら息子が泣き出したんだとか。

「そのとき、夫に「泣いてるよ」と言われて「ごめん」と飛び起きたんです。私なんでこの状態で謝ってるわけ? と思ったら、サーッと愛が冷める音がしました」

わかるわかる、するよね音。

私はその音が聴こえたら「もう無理!!」とちゃぶ台をひっくり返して男と別れてきた。

でもそれは子どもがいないから、ちゃぶ台にまだいろいろ載っていないからできたことだ。

「私も本来はちゃぶ台ひっくり返し系なんですけど、ひとりで幼子二人を育てるのは無理だと思って。なので、子どもが大きくなったら離婚しようと決意しました」

子どもが大きくなったら、と離活(離婚に向けた準備活動)をする女性は多い。

妻は何年も前から苦悩しているのに、いざ離婚を告げられると「青天の霹靂! 裏切られたッ」と被害者ムーブを決める夫は多い。

また「嫌知らず」という言葉があるように、不満を伝えても聞く耳を持たず、不機嫌になる夫も多い。だから嫌でも嫌と言えず、諦めた方が楽だと思う気持ちはよーくわかる。

でも愛情や信頼をもてない相手と暮らすのは苦しいよね?

「そうなんですよ。こいつには何言っても無駄と諦めていても、嫌いポイントはどんどん貯まっていくんです。当時は必死すぎて怒る余裕もなかったけど、怒りのマグマも蓄積されていくんですよね」

そのマグマがついに爆発する日がやってくる。

「あれは3年ほど前、アルさんの「アクティブバイスタンダー 性暴力を見過ごさない」動画がテレビで流れた日でした。たまたま一緒に見ていた夫が「でも冤罪もあるよね」って言ったんです」

その瞬間、全身の毛穴から怒りが噴き出し、怒りのチョコレートファウンテンになったという。

「てめえは娘の父親だろうがーー!!!! ってバチギレました。前に娘の通う小学校でも盗撮事件があったんですよ。娘や同じ年頃の女の子たちが性暴力にさらされて、この先もあの動画みたいな被害に遭うかもしれない。それなのに……それなのに……と思ったら」

「クリリンのことかーーっ!!!!」

クリリン関係ないけど、そりゃ怒髪天を突きスーパーサイヤ人になるだろう。

おまえカカロットやったんかい? と仰天した夫はその後、妻も予想しなかった変化を遂げるのであった―――後編に続く!

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アルテイシア

神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、恋愛、家族問題などについて執筆、講演や授業も多数行う。2005年『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。
著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他多数。

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