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いのちの十字路

2023.04.29 公開 ポスト

8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー…。『いのちの十字路』で描かれる介護の現場。

余命わずかでも故郷に帰らない技能実習生。南杏子

吉永小百合さん主演映画「いのちの停車場」の続編小説『いのちの十字路』は、在宅での介護をテーマにした感動の連作長編です。主人公は、映画で松坂桃李さんが演じた、野呂誠二。医師国家試験に合格して金沢の「まほろば診療所」に戻ってきた彼が、さまざまな介護の現場で奮闘します。
8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー……。『いのちの十字路』で綴られる、介護の現場のリアルを、登場人物の言葉とともに、ご紹介していきます。

余命わずかでも故郷に帰らない技能実習生。

「第三章    シャチョウの笑顔」
末期癌を宣告されたインドネシアからの技能実習生(20代)と、彼を預かる水産会社の社長。

【あらすじ】
生まれ故郷に家を建てたいとインドネシアから技能実習生としてやってきたスラマット君は、スキルス胃癌で余命わずかと宣告された。彼を家族同然に可愛がってきた北沢社長は、親元に戻すべきか悩むが、スラマット君は頑なに帰国を拒む。なるべく苦しまないように緩和治療をおこなうまほろば診療所の野呂も、何が正解なのか、悩んでしまう。

看護師・麻世
「何にしても、帰国しないと決めたのはスラマット君本人だよね。三十にもなろうって男が自分で決めたことは尊重してあげないといけないんじゃない? 野呂先生としても、そう思うでしょ?」

野呂
「いや、やっぱり後に残される家族のことをちゃんと考えないと。家族は最後に一目だけでも会いたいって思うはずだ。それがかなわない別れは、家族の心に深い傷を残す。僕にはそれが分かるから……」

スラマット
「イロイロ考えて、決めたから。日本に来て、ボクは漁業ができるようになった。それ、すごくウレシこと。北沢シャチョウはボクのもう一人の父親。日本、ダイスキ。飛行機代は高いし、コロナでもあるし、インドネシアに帰っても入れる病院はない」

北沢社長の妻・朋子
「私たちがスラマットを看取って本当によかったのか。いくら本人が嫌だと言っても、国に連れて帰ってやればよかったんじゃないのか。あの子の両親はどんなに悲しんでいるだろう。そんなことを考え出すと、涙が止まらなくなってしまうんです……」

関連書籍

南杏子『いのちの十字路』

医師国家試験に合格し、野呂は金沢のまほろば診療所に戻ってきた。娘の手を借りず一人で人生を全うしたい母。母の介護と仕事の両立に苦しむ一人息子。末期癌の技能実習生。妻の認知症を受け入れられない夫。体が不自由な母の世話をする中二女子。……それぞれの家庭の事情に寄り添おうとするけれど、不甲斐ない思いをするばかりの野呂には、介護していた祖母を最後に“見放してしまった”という後悔があった。

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いのちの十字路

吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!

老老介護、ヤングケアラー、8050問題……。介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。

バックナンバー

南杏子

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、都内の大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを勤める。帰国後、都内の高齢者中心の病院に内科医として勤務。

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