吉永小百合さん主演映画「いのちの停車場」の続編小説『いのちの十字路』は、在宅での介護をテーマにした感動の連作長編です。主人公は、映画で松坂桃李さんが演じた、野呂誠二。医師国家試験に合格して金沢の「まほろば診療所」に戻ってきた彼が、さまざまな介護の現場で奮闘します。
8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー……。『いのちの十字路』で綴られる、介護の現場のリアルを、登場人物の言葉とともに、ご紹介していきます。
余命わずかでも故郷に帰らない技能実習生。
「第三章 シャチョウの笑顔」
末期癌を宣告されたインドネシアからの技能実習生(20代)と、彼を預かる水産会社の社長。
【あらすじ】
生まれ故郷に家を建てたいとインドネシアから技能実習生としてやってきたスラマット君は、スキルス胃癌で余命わずかと宣告された。彼を家族同然に可愛がってきた北沢社長は、親元に戻すべきか悩むが、スラマット君は頑なに帰国を拒む。なるべく苦しまないように緩和治療をおこなうまほろば診療所の野呂も、何が正解なのか、悩んでしまう。
看護師・麻世
「何にしても、帰国しないと決めたのはスラマット君本人だよね。三十にもなろうって男が自分で決めたことは尊重してあげないといけないんじゃない? 野呂先生としても、そう思うでしょ?」
野呂
「いや、やっぱり後に残される家族のことをちゃんと考えないと。家族は最後に一目だけでも会いたいって思うはずだ。それがかなわない別れは、家族の心に深い傷を残す。僕にはそれが分かるから……」
スラマット
「イロイロ考えて、決めたから。日本に来て、ボクは漁業ができるようになった。それ、すごくウレシこと。北沢シャチョウはボクのもう一人の父親。日本、ダイスキ。飛行機代は高いし、コロナでもあるし、インドネシアに帰っても入れる病院はない」
北沢社長の妻・朋子
「私たちがスラマットを看取って本当によかったのか。いくら本人が嫌だと言っても、国に連れて帰ってやればよかったんじゃないのか。あの子の両親はどんなに悲しんでいるだろう。そんなことを考え出すと、涙が止まらなくなってしまうんです……」
いのちの十字路
吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!
老老介護、ヤングケアラー、8050問題……。介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。