日本の家計の半分以上を占める現金・預金。しかし「貯蓄に励めば自分の資産を守れる」という常識はもう通用しなくなる、と“投資のプロ”朝倉智也さんは語ります。資産運用の世界で35年を生きてきた朝倉さんが、その経験と知見をフル活用した運用方法を「50歳の投資未経験者」に向けて開陳する新書『私が50歳なら、こう増やす!』より、一部を抜粋してお届けします。
物価が年3%上がれば、20年でお金の価値は半分になる
日本では、これまで投資をしない人のほうが多数派だったといっていいでしょう。
みなさんの中にも、「投資は自分にとって身近とはいえず、あまり考えてこなかった」「損をしたくないし、投資をするのはなんとなくこわい」という人がいるのではないでしょうか。
日本人があまり投資をしていないことは、データで見ても明らかです。アメリカ、欧州、日本の家計について、それぞれの資産構成を比べると、投資商品である株式や投資信託などの有価証券の保有割合はアメリカが56.2%、欧州が33.3%なのに対し、日本は16.7%にすぎません。
その代わりに、日本の家計の半分以上を占めているのが「現金・預金」です(図5)。
この「現金・預金」がいま、危険にさらされていることをご存じでしょうか?
日本では、長らく物価が持続的に下落する「デフレ」の時代が続いていました。デフレ下では物の値段が下がるわけですから、お金の価値は相対的に高くなります。
現預金でお金を貯めておきさえすれば、その価値が高まっていくわけですから、節約するなどして貯蓄に励めば、自分の資産を守ることができたわけです。
ところが昨今、みなさんも日々の生活で感じているとおり、物価が上がり始めています。
これが一時的なものではなく、今後、日本がインフレの時代に入っていくとすれば、私たちはこれまでの“常識”を変えなければなりません。
インフレ下では、「お金を貯めていれば資産を守れる」という常識は通用しなくなるからです。
仮に、年3%ずつ物価が上昇していったとしましょう。ちなみに、この「3%」というのは、物価上昇率として決して高くはなく、今後の日本では十分に起こり得る水準です。
物価上昇率3%が続くと仮定すると、20年後、現金の価値はどれくらいになると思いますか?
図6をご覧ください。このグラフは、物価上昇によって現金の実質的価値がどれくらい目減りするかを試算したものです。
たとえば現金1000万円の価値は、20年後にはいまの553万円と同じくらいの価値になってしまいます。ざっくりいえば、およそ半分の価値しかなくなってしまうわけです。
物価上昇が続くこれだけの理由
デフレは30年近く続いてきましたから、みなさんの中には「インフレだと騒ぐ声もあるけれど、物価上昇はいっときのことで、本格的なインフレにはならないのでは?」と思っている方もいるかもしれません。
たしかに物価が一方的に上がり続けるとは限りませんが、私は大きな時代の流れとして日本がデフレからインフレに移っており、物価上昇基調は継続すると考えています。
図7をご覧ください。これは日本の消費者物価指数(総合)の推移を示したものです。
すでに2022年12月の段階で、生鮮食品を除く総合指数が4.0%(前年同月比)の上昇となりました。
このような物価の動きは、41年ぶりですが、つまり、現在50代の方が10歳くらいのころ以来だということです。
私自身も41年前は16歳でしたから、大人になってからはみなさんと同様、ずっとデフレ時代を生きてきました。
つまり、いまの日本は多くの人にとって「未経験のゾーン」に入ったといっていいのです。
このような物価の上昇が今後も続くと考えられる理由の1つは、人手不足です。
日本は少子高齢化が進み、最近はさまざまな業界で深刻な人手不足が生じているというニュースを目にすることが多くなりました。
絶対的に人手が足りない中で人材を確保しようとすれば、企業側はそれなりに賃金を上げていかざるを得ません。これは企業にとっては重いコストとなり、企業が提供するさまざまな物やサービスの価格上昇につながります。
地政学上の問題も、物価上昇に直結します。
東西冷戦の時代から米中新冷戦の時代へと世界の対立構造が変化する中、「産業のコメ」とも呼ばれる半導体の製造拠点を中国から移転させる動きが加速しています。
経済安全保障上は必要な対応ですが、これがさまざまな製品のコストアップ要因になることは、間違いありません。
気候変動も、物価上昇の要因となります。
日本では気候変動の直接的な被害を実感することはまだ少ないかもしれませんが、欧米を中心に、世界ではすでに気候変動が引き起こしていると見られる大規模な災害が多発しています。グローバルな視点で見ると、気候変動に対する危機感は切迫したものだといっていいでしょう。
もちろん再生可能エネルギーへのシフトは一朝一夕には進みませんが、世界各国が二酸化炭素排出削減を目指すことは必須となっています。
そしてこれは、化石燃料の長期的な需要減少が避けられないことを意味します。
化石燃料の生産に新たな設備投資をしようという企業は多くなく、このような事情を背景として、化石燃料の価格上昇は中長期的に続くことになりそうです。
物価上昇の根拠をいくつかご紹介しましたが、こうしたさまざまな構造的要因を考え合わせると、私はそう簡単にデフレ基調に戻ることはないのではないかと思います。
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この続きは幻冬舎新書『私が50歳なら、こう増やす!』をご覧ください。
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