一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第39回 増山実『あの夏のクライフ同盟』
皆さん、こんにちは。冬は昼でも暗イフ。アルパカ内田です。
時は1974年、舞台は北九州。主人公は好奇心に衝き動かされる個性的な14歳たち。サッカー部の仲間である4人組の「推し」は、オランダ代表の「神」ヨハン・クライフ、背番号「14」だ。ワールドカップに出場する雄姿を観るために、台風が近づく中を自転車に乗りテレビ生中継のある街まで駆け抜ける。
興奮と熱狂、そして絶望。数々の苦難に勇気をもって立ち向かい、時には大人の助けを借りつつ、力を合わせてそれらを乗り越えるメンバーの姿が実に清々しい。若き血潮がたぎる高揚感抜群の展開にのめり込み、いつしか自分も彼らと一緒にひと夏の冒険をしていた。
教室の匂いや甘酸っぱい記憶、思春期特有の繊細な心模様の描写はもちろん、高度経済成長時代直後の地方都市の空気に、生まれ育った街や旅先の風景も見事に再現されており、あたかも劇場で大迫力の映像を見ているかのよう。脳裡に焼きついたシーンが忘れられず、きっと誰もが物語の聖地めぐりをしたくなるだろう。
カッコ悪くもあれば美しくもある青春の息吹を完全凝縮した極めて密度の濃い作品。約400ページのボリュームなのだが、ページをめくる指はまったく止まらず、一気読み間違いなし。
50年後の現在からの視点であるエピローグでは、メンバーたちの気になるその後が語られる。過去から未来へと橋が架かる瞬間を目の当たりにし、名画のエンドロールのような印象の余韻に包まれる。これぞ物語だけが起こせる奇跡。最高の読書体験を味わえる一冊だ。
アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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