元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。
毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第八回のテーマは「登場人物が多い本」です。2024年の年末に行った読書会の様子をお届けします。
読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。
* * *
藤岡:今月もやってまいりました。マッドブックパーティー。
収録しているのは2024年の年末なんですけど、今年は月に1回、こうやって菊池さんと一緒に本について語り合う時間があったのが、すごくいいリズムになりました。
菊池:そうですね。すごく楽しかったです。
藤岡:ね。課題図書があって、ただ読むだけじゃなくて、話そうって思って読むとより深い読み方ができたり、相手の話を聞いて「そういう見方があるのか」ってなったり、すごく豊かな読書体験になってます。
菊池:取り上げる本について改めて調べてみたりとかもして。
藤岡:そうそう。ありがとうございます。
今回はテーマがちょっと変わってましたよね。
菊池:そうですね。「登場人物が多い本」。
藤岡:これ、すごく迷って。小説でも登場人物が多い本ってあると思うんですが、私がぱっと思いついたのが絵本だったんですけど、なんと、菊池さんも絵本。
菊池:はい。今回、偶然どちらも絵本になりました。
藤岡:なりました。でもどちらも、大人が読んでもぐっとくる絵本たちです。
菊池:はい、そうですね。今回は藤岡さんから紹介していただきます。
藤岡みなみが選ぶ「登場人物が多い本」:ぶん 谷川俊太郎、え tupera tupera『これはすいへいせん』(金の星社)
藤岡:私が選んだのは、『これはすいへいせん』という絵本です。谷川俊太郎さんの文と、tupera tuperaさんの絵という、とっても素敵なコンビネーションなんですけど、「つみあげうた」っていう種類らしいんです。
この本の紹介は、なんて言ったらいいのかな……。
まず最初に水平線があるんですよね。誰もが見たことのある1本の線。その向こうから、1軒の家が流れてくるところからお話が始まります。
「これは すいへいせんの むこうから ながれてきた いえ」って始まって、最初の絵は、おじいさんが中にいる家が流れてきた絵なんですけど、その次のページに行くと、その家の中のおじいさんにぐっと寄って、「これは すいへいせんの むこうから ながれてきた いえで ひるねしていた おじいさんの ガブリエル」って、1ページ目の文章が引き継がれていくんですね。
こんな感じで毎回1行ずつ増えていって、でも最初の文も残っていて。それが「つみあげうた」の形式です。だから、この本を読み聞かせすると、少し疲れます。
菊池:重複してる部分が多いですもんね。
藤岡:そうそう、ずっと同じ文章を読んで、最後に1行だけ追加されるので。でも、読んでいて心地よさはすごくあるし、多分読み聞かせされる側も聞いていて気持ちよさがあるから、重複しているけれど耳に面白いのか、最後まで読み終わると、もう1回読んでって言われる率が高いです。
菊池:じゃあ、何回も?
藤岡:そうそう、無限ループに入っちゃうんです。
文章がどんどん繋がっていくんですけど、それとともに絵も連動して、登場人物が1ページごとに増えていくような構成になっています。
菊池:そうですね、楽しい絵本です。
藤岡:私、これは菊池さんが好きなパターンの絵本じゃないかなと思って。絵本にしかできないことをやっているというか、構成が面白い。どうですか?
菊池:まさにそうですね。絵本にしかできない形式です。説明が難しいんですけど、1ページ進むごとに、1行ずつ文章が足されていきますよね。絵があって、それを設定する1行があるんですけど、次のページだと、前のページの絵の一部に視点が移動して、それを説明する言葉が足されていくっていう感じですよね。
藤岡:実物を読むと「そういうことね」ってなるんですけど、説明するのはちょっと難しいですよね。
菊池:そうですね……。
藤岡:1ページ目は1行だけなんですけど、最後は14行になる。見開き1ページで1行増えていくんです。
しかも前の登場人物とどこかしらで繋がって、次のページになるんですよね。例えば、「……てを ふる いじめられっこの トテカの ぱんつを つくった ようふくやの あらいさんが かっている へびの クネウネが……」みたいな。
最初はただの1本の線、水平線だったところが、よく目を凝らすと世界のどこまでも繋がっていくっていうメッセージ性がありますよね。
菊池:そうですね。どんどん文が長くなっていくんですよね。
藤岡:私はそこに、私たちが生きている世界との類似性を感じるというか、目の前にあるものは全て誰かと繋がっているってことなのかな、と思いました。
例えば、「私の机の上に今あるマグカップをくれた妹が……」とか、「マグカップの中に入っている紅茶を作っている生産者の人の娘が気に入っている絵本が……」みたいに、一見マグカップが置いてあるだけなんだけど、目を凝らしてよく想像すると、その向こうには必ず人がいる。そういうことを思い出させてくれる、教えてくれる絵本なんですよね。
菊池:世界が繋がっているっていう感じがしますよね。
藤岡:そう。しかも、最後が心憎い演出で、14行目が繋がったところで、一番最初のおじいさんの家になるんですよね。だから、ループしてるというか。
菊池:そうですね。
藤岡:1ページ目と最後のページが繋がって綺麗な輪になるんですけど、その中でつじつまが合っていないところも面白くて。「なんとかの、なんとかの、なんとかの……」って繋がる中で、「20年後に」とか「絵本の中の」とかもあるんです。フィクションとか時空とかも超えているのに、最後で最初のおじいさんに繋がってしまう。それがとっても素敵なところ。
菊池:谷川さんのユーモアというか、そういうところもすごく面白いですよね。
藤岡:そうなんですよ。こういうことってあるだろうなって思うし、一周して世界が繋がっていたり、関係ないと思われた人たちが実はすごく遠くで繋がっていたり、多分、世界ってそうなってるんじゃないかなって思います。
絵本にしかできない工夫がたくさん!
菊池:あと、この絵本の最初に水平線が描かれてるんですけど、その線の位置が一冊通して全部同じ高さになっています。
藤岡:あ、ほんとだ。気づかなかった。これ、こだわりですね。
菊池:途中で地平線になったりもするんですけど、パラパラめくるとわかるんです。
藤岡:机になったりもするけど、それでもずっと同じところに線がある!
菊池:うんうん。こういうところも、「1本の線で繋がっていること」を表しているのかもって思いました。
藤岡:あ、すべてが1本の線で繋がってるってことか! だから、蛇が出てくるのもモチーフのような感じがします。
菊池:うん、そうかもしれません。
藤岡:あと、この絵本自体にインデックスがついているみたいになっていて、これもちょっと言葉で説明しづらいんですけど、この人はこのページって、アイコンみたいなものが見出しのようになってるんですよね。ページをめくりやすくしてくれてて。
菊池:そうですね。ファイルみたいに、項目ごとにわかれているような見た目ですよね。
藤岡:繋がってるけど、1ページ1ページ別の世界がちゃんとそこに広がっている。
菊池:すごく丁寧な作りになってますよね。
藤岡:登場人物がいっぱい出てくるけれど、でも知らず知らず全員が繋がっているっていう、そんな絵本ですね。
菊池:うんうん、非常にいい絵本です。
藤岡:いい絵本ですよね。
この絵本が描いているのって、見えない部分ですよね。普段、水平線とか地平線とか夜景とかを見て、このビルの中にいっぱい人がいるんだろうなとか、あのマンションの中に一つひとつ生活があるんだろうなと思いつつも、目に映る景色は通り過ぎていく中で、実は一つひとつに世界があるよ、そしてどこかできっと繋がってるよっていうメッセージって、すごく大きなメッセージです。
菊池:そうですよね。一つひとつに世界があって、生活があって。そういうことも考えさせられますね。
藤岡:はい。あとは国とかも超えてるのかな、これ。登場人物が、最初のおじいさんはガブリエルだけど、あらいさんとかも出てくるし、イチローとかミミとか、一番最後に出てくるお家を作った大工は、さんざえもん。
菊池:時代も国も超えていますよね。
藤岡:そうそう、いろんなところを超えているところが見どころですね。
谷川俊太郎さんの絵本の面白さ
菊池:絵本を色々読んでいると、谷川さんの絵本って本当にすごくいっぱいあるんです。そのどれも工夫があって、言葉遊びがあって、どれを読んでもすごいなって思います。
藤岡:今回この本を持ってきたことの理由の一つに、2024年の最後に谷川俊太郎さんの作品を持ってきたかったっていうのもあります。
菊池:そうなんですね。谷川さんの絵本は、多分100冊以上あると思います。
藤岡:そんなにあるんだ。
菊池:谷川さんが書いた詩に絵をつけるパターンもあって、そっちもいっぱいありますし、いろんな画家の人がやっています。『これはすいへいせん』は書き下ろしなのかなって思いますけど。
絵本においても素晴らしい作品をたくさん作った方ですね。
藤岡:今改めて詩集が注目されていますが、絵本っていう観点でも。そっか、100冊もあるんだ。
菊池:そうなんです。
藤岡:冬休みに谷川俊太郎さんが関わっている絵本をたくさん読んでみるっていうのも、やってみたら楽しいかも。
あ、でも、この記事が公開されるのは冬休み終わってからか……。
菊池:2025年に読んでみるといいかもしれないです。
藤岡:ね。そうですね。
というわけで、私が持ってきたのは、『これはすいへいせん』という作品でした。
菊池:はい、ありがとうございました。
* * *
後半は来週公開します。菊池さんが選んだ「登場人物が多い本」、お楽しみに!
菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ
菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。
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