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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

2025.01.16 公開 ポスト

菊池良が選ぶ「登場人物が多い本」はたくさんの妖怪が出てくる『もののけdiary』菊池良(作家)/藤岡みなみ(エッセイスト/タイムトラベラー)

元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。

毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第八回「登場人物が多い本」の後編です。たまたま二人とも絵本になったという今回、菊池さんが選んだのは?

 

読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。

*   *   *

菊池良が選ぶ「登場人物が多い本」:文 京極夏彦、絵 石黒亜矢子『もののけdiary』(岩崎書店)

菊池:僕が選んだ「登場人物が多い本」ですが、いや、僕もすごい迷いました。

藤岡:自分でテーマ決めたのに、めっちゃ迷ってる(笑)。

菊池:そうなんですよね(笑)。学校ものとかも登場人物多いよなとか考えたりもしたんですけど。
今年読んだ絵本でもあるんですが、もののけdiary。文章を京極夏彦さん、絵を石黒亜矢子さんが書いています。

藤岡:これ、すごい絵本ですね。知らなかったです。手に取った時の圧もすごい。家の屋根裏部屋とかから出てきたら、この絵本に何か宿ってるんじゃないかって思ってしまいそうな、伝説の本みたいな、そういう佇まいがあります。

菊池:そうですね。石黒さんの絵にもそういう雰囲気がありますよね。
この絵本には元になった物語があって、江戸時代に書かれた「稲生物怪録」っていう物語なんですけど。それを京極夏彦さんが現代語訳したという形の本ですね。
どういう物語かというと、何事にも動じない、驚かない、平太郎っていう少年がいるんですけど、その平太郎を驚かせようと、化け物が毎日のように30日間やってくる物語。いろんな妖怪がやってきて、あの手この手で驚かせようと、怖がらせようとするんだけど、平太郎は全く怖がらない。

藤岡:飄々としてますよね、平太郎が。

菊池:そうですね。何が来ても「それがどうした」みたいな感じで。30日間の中で、本当にいろんな多種多様な妖怪が出てくる。それで、登場人物の多い本にこれを選びました。

藤岡:いろんな妖怪が出てきますもんね。

菊池:そうですね。「けだらけのひとつめ」とか。

藤岡:私、「さしいれびじん」にめっちゃ来てほしい。「さしいれびじん」は美しい女の人が法事のごちそうを持ってきてくれるっていう妖怪。怖がらなければ、食べ物を差し入れしてくれる人みたいな感じ。

菊池:そうですね、一応火の玉とか出てますけど、言葉だけ見たら普通の人ですよね。

藤岡:うん、そうなんですよ。

菊池:そういう色んな妖怪が出てくるんですけど、平太郎自身は普通に暮らしている。他にも「つづらおおがえる」っていうカエルの下半身がつづらになってる妖怪とか。

藤岡:絵が迫力ありますよね。

菊池:そうですね、舌が出ててよだれも垂らしてます。
ぼくは「からうすのかい」が好きですね。

藤岡:「からうすのかい」。臼に手足が生えていて、臼が自分で杵で米をついてるみたいな妖怪。それを平太郎は全自動餅つき機のように扱って、「お米入れとけば餅になるっしょ」みたいな(笑)。

菊池:米を入れてつかせてみたんだけど、ダメだった(笑)。
妖怪がいっぱい出てくるんですけど、バリエーションに富んでて面白いですよね。

藤岡:そうですね。知らなかった妖怪がいっぱい。

菊池:大きな石に、カニみたいな目と指がついている「おおいし」とか。

藤岡:「おおいし」、ちょっと可愛くないですか? メンダコみたい。

菊池:そうですね、見ようによったらポケモンみたい。

藤岡:私たちも読んでるうちに平太郎の目が宿って、妖怪を怖いっていう目じゃなくて、こいつ変なだけだろっていう、その視点で見られるから、新たな魅力というか、可愛さとかも見つけられる。

菊池:そうですね。普通の生き物に思えてくるというか、そういう効果もありますね。

まるで絵巻物を読んでいるかのよう

菊池:この絵本、作りがちょっと変則的になってて。前半で取り上げた「これはすいへいせん」もファイリングみたいな、ちょっと変わった作りでしたけど。この絵本は、見開きのページの右側が長くて2ページ分になってて、折られているような作りになっているんです。

藤岡:そうなんです。これが巻物を解いているような、絵巻物のような感じで、世界観に浸れる。

菊池:そうですよね。ページを開くと左に文章があって、右側は、折ってあるとカラーの妖怪が描かれていて、それをめくると今度は白黒の別の妖怪だったりが描かれている作りです。

藤岡:「全ページ袋綴じ」じゃないけど、そんな感じで、自分で開く動作が必要になる。楽しいですよね、これが。

菊池:そうですね。今度は何が書かれてるんだろう? みたいな。でも、言われて気づきましたけど、確かに巻物みたいです。

藤岡:そうなんですよ。秘密の書を読んでいる感じ

菊池:あと、ページが折られているんで、本を持った時の感触も違うんですよね。ページをめくるときの感じとか。

藤岡:自分で折り目をめくるから、妖怪が飛び出してくる感じがしたりとか。

菊池:「いないいないばあ」みたいというか。

藤岡:まず文章を読んで、こういう妖怪なのかってカラーで見て、それから私は折り目を開いたんですけど、白黒のシーンがパノラマで現れて、こういうことが起こってたんだ! って伝わってきました。

菊池:そうですね、体験的な読書になってて面白いですよね。

藤岡:面白い。

菊池:「これはすいへいせん」もそうですけど、こういう変則的な作りっていうのも絵本の特徴なのかなって思いますね。

藤岡:そうですね。紙代も高くなっている中、絵本を作る人たちは、頑張って工夫をしたいという気持ちと、予算の面とで、色々頭を悩ませて面白い作品を届けてくれてる。

菊池:いや、そうですよね。形でも楽しませたいっていうのが、絵本を作る人たちにはあるのかもしれないです。

藤岡:ちょっとしたことで、本当に読書感が変わりますしね。こんなにちょっとの違いが大きいんだって、びっくりしますよね。絵本のデザイナーさんってすごいな。

菊池:そうですね。仕掛け本とか飛び出す絵本もいろいろありますけど、ああいうのを設計する人のことを「ペーパーエンジニア」っていうそうです。そういう肩書きがあるみたいで。

藤岡:そうなんですね。かっこいい。ペーパーエンジニア。確かに言われてみればエンジニアだ。

菊池:どう飛び出すかの設計であったりとか。

藤岡:自分では想像もできない。

菊池:そうですね。そういう楽しみもある絵本だなって思いました。

想像力で解決していた江戸時代

藤岡:登場人物には妖怪もたくさんいますが、その妖怪をなんとかしようと平太郎の家にやってくる人たちもたくさんいて、みんな全然違う怖がり方で、お札を貼ってあげようとか、いろんなことをしにやってくるんだけど、全部ダメだし、全員怖がってる。

菊池でもみんないい人ですよね。

藤岡:いい人ですよね。

菊池:平太郎がなぜか慕われている。

藤岡:平太郎は別にそこまで困ってるわけではないし、「助けて」なんて言ってないのに、みんな助けに来るんですよね。

菊池:そういうところも江戸時代の落語っぽいというか。人情的な側面も感じるんですよね。
江戸時代にこんな物語があったっていうのも驚きですね。

藤岡:嬉しいですね。ユーモアをすごく感じるし。

菊池:こんなにいろんな妖怪を考えてたんだなって。

藤岡:やっぱり昔って、明らかになっていないことが今の時代よりめちゃくちゃたくさんあって。それでいろんな妖怪のせいにされてたんじゃないかなって。科学とかで解明するんじゃなくて、妖怪ってことで理解するみたいな感じですかね。

菊池:そうですね。想像力で解決するというか。

藤岡:納得感を生むというか。

菊池:確かに、この絵本の中でもそうなのかなって思う妖怪がいますね。
影が動いて見えるという「かげしばい」だとか。そう見える瞬間があったんだろうな。

藤岡:そうですね。「かべのかお」とか、今もいますよね。天井とか壁とかに「あれ、顔だな……」みたいな。おばあちゃん家とかの壁の木目が怖い顔に見えたりして。

菊池:1回そう見えてくると、そうとしか見えなくなりますよね(笑)。
それって妖怪なのかな? っていうものも面白いですよね。「さしいれびじん」もそうですが、「こむそう」は妖怪じゃないんじゃないかなとか。虚無僧は虚無僧なのでは? たまたまそこを通ったんじゃないのかな……。

藤岡:うん。そうですよね。

菊池:当時の人も笑ってたんですかね? 当時の人の反応も想像すると、より面白いです。

藤岡「稲生物怪録」を現代語訳したタイトルが「もののけdiary」って、なんかすごくポップ。

菊池:ええ。すごいタイトルですよね。

藤岡:いいタイトルですよね。可愛いし、でも元々の世界観を壊していない。

菊池:今ならARとかXRとかで、平太郎の体験ができると面白いかもしれないです。

藤岡:確かに、簡単に家に妖怪を呼べますね。

菊池:自分の家に。家がお化け屋敷になりますね。

藤岡平太郎体験

菊池:あ、平太郎みたいに30日間! 夏休みとかに良さそうですね。

藤岡:そんなことする人いますかね(笑)。

菊池:というわけで、僕が選んだのは文 京極夏彦、絵 石黒亜矢子の『もののけdiary』でした。

藤岡:はい、ありがとうございます。

次回のテーマは?

藤岡:次回はテーマが決まってますもんね。

菊池:そうですね。「2024年ベスト」ってことでいいんですかね。

藤岡:ちょっとまだ決められてない……。

菊池:そうですね。

藤岡:結構重い決断になってしまうから、もしかしたら2024年印象に残った本ぐらいになってるかもしれない(笑)。
やっぱり、いろんな面白い本がたくさんある中で、1冊って難しいですよね。

菊池:そうですね。あと、この収録時点ではあと数日あるんで。

藤岡:はい。今から出会う可能性も。

菊池:あるかもしれない。年明けに選ぼうかと思います。
それでは次回もよろしくお願いします。

藤岡:ありがとうございました。

*   *   *

次回は菊池さんと藤岡さんが選ぶ「2024年ベスト」を紹介していただきます。お楽しみに!

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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。

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菊池良 作家

1987年生まれ。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズ(神田桂一氏との共著)は累計17万部を突破する大ヒットを記録。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』『芥川賞ぜんぶ読む』『タイム・スリップ芥川賞』『ニャタレー夫人の恋人』などがある。

藤岡みなみ エッセイスト/タイムトラベラー

1988年、兵庫県(淡路島)出身。上智大学総合人間科学部社会学科卒業。幼少期からインターネットでポエムを発表し、学生時代にZINEの制作を始める。時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2019年にタイムトラベル専門書店utoutoを開始。文筆やラジオパーソナリティなどの活動のほか、ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018)、『keememej』(2021)のプロデューサーを務める。

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