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おっさんだって、やりたいよ!

2025.02.03 公開 ポスト

バレンタインデーで彼女と盛り上がり、車でしようとしたら大変な事に…スギム(クリトリック・リス)

1991年のバレンタインデーを忘れる事はない。夜、バイトから帰ったら、付き合ってた順子から「今年もチョコ作ったから取りに来て」と連絡があった。

毎年の恒例行事だったので、どうせ惰性で連絡をくれたんやろう。付き合って4年目となり、お互い出会った頃の新鮮さやドキドキはもう無い。順子は他の男と遊び回ってるし、我も週末はコンパ。「ほんまに付き合ってんの?」と言われるぐらいアッサリとした関係になってた。

「バイトでヘトヘトやのにダルいなぁ」と思いつつ愛車の日産パルサーに乗り込み順子の住む尼崎を目指した。

 
当時のスギム 髪の毛はまだあった。

いつものファミレスで落ち合った。順子は尼崎のチャキチャキ娘。普段はジーンズにスカジャンといったカジュアルな格好をしてる。だけどこの日はバレンタインデーを意識してか、女の子ぽい可愛いセーターにスカート姿で赤い口紅を塗っていた。

どうした順子? やけに気合いが入ってんな。ん? そっか! そういう事か、暫く会ってなかったんで、性欲が溜まってるんやな。ふむふむ。「久しぶりやし、ちょっとドライブしよか?」とファミレスを出て車を走らせた。ラブホに直行したかったけど、貧乏大学生の財布にまとまった金など無かった。

ひと気のない工場地帯に車をまわし、街灯の当たらない真っ暗な路肩に停めてエンジンを切った。

「チョコレートありがとうな」と順子の肩を抱き寄せてチュー。そのまま覆い被さり、右手で助手席の座面下にあるレバーを引いてシートを倒した。セーターの上から揉み揉み。荒くなった鼻息により、ウインドウはあっという間にすりガラスのように曇った。

「な、ええやろ?」とスカートの中に手を入れようとしたら、順子に手を掴まれ「ダメ!」と言われた。

「えっ! ダメ?……」

我より10倍ぐらいの経験人数が居て、我と付き合うまでは「誰とでもやるドスケベ女」と噂されていた順子が拒むなんて信じられない。

「どうしたんだHEY HEY BABY バッテリーはビンビンだぜ! 何で何で? 車でするのがそんなに嫌? 大丈夫やって、ここやったら誰も来うへんて」

「でもぉ…… やっぱり……」と渋る順子。

しまった! 焦り過ぎたか、夜景の見えるロマンチックな六甲にでも登ればよかったか、ここは油のにおいが漂う尼崎の工場地帯で雰囲気もクソもない。順子にも譲れない部分があるか……。情けないけど、ここはもう頼み込むしか無いな。

「お願いします。お願いしますよ……」

我の真剣な懇願に順子は暫く考え込んだ後、ため息をついて「もぉ~ しゃあないなぁ、じゃあ……入れんかったらええよ」と呆れながら答えた。

えーー? 合体無し?? まぁ、しゃあないな……我がロケーションをミスった。

「では失礼します!」と拝んで、おパンチィを脱がし洞窟に手を伸ばすと、なんじゃこりゃ! 温泉が湧き出てる。ホカホカでびしょびしょ。何やねん! やっぱり欲しかったんやないか! 体は正直、このドスケベが!

いじくると「ヒヒーン!」と馬のようにもがく順子。すっかりエンジンがかかったようで覆い被さっていた我を運転席に押し戻し、我のズボンとパンツを降ろしだした。

ほーら、いつものエロい目になった。ええやん、ええやん、それでこそ順子。順子は我の固いシフトノブを握りしめ、3速、4速と上げていく、そしてトップギアに入れようとした時だった、「キャーーーー!」と悲鳴をあげた。

「どうした、どうした?」

なんと運転席側のドアウィンドウにヤモリのようにヤンキー3人がへばりついてたのだ。目が合ったヤンキー達はゾンビのようにドアをガチャガチャ開けようとしたりドアウィンドウをドンドン叩き出した。

順子は顔を隠し怯えてる。「ヤバいヤバいいいー!」慌ててアクセルを踏んで車を発進させると、なんとヤンキー達も車で追いかけてきた。

フロントガラスは曇ってるし、シートは倒れたままで、ズボンとパンツは膝下に引っかかっててめちゃくちゃ運転し辛い。だけど捕まると何をされるか分からないのでアクセルを踏み続けスピードを緩めなかった。カーブでは丸出しのシフトノブが慣性の法則でだらしなく揺れた。

ワイルドスピード並みのカーチェイスを繰り広げてなんとかヤンキーを撒いて、順子の家まで辿り着いた。

イラスト:スギム

「今日は大変やったな、疲れたわ……ほんなら、また連絡する バイバイ」いつもなら笑顔でサヨナラするのに、順子は何か言いたげで物悲しそうな顔をしてる。ヤンキーに絡まれたんがショックやったんかな?

「大丈夫や、次あいつらに会うたらしばいたるからな」虚勢を張って別れた。

 

1人になって安心すると急にお腹が空いてきた。そう言えば晩飯を食べて無かった。帰り道、24時間営業の牛丼屋を見つけて入ると、「どないしはったんですか?」店員が驚いてる。

さっきの恐怖がまだ顔に残ってるんかな?「ヤンキーに絡まれて大変やったんすよ……」

「お客さん……、本当に……本当に……大丈夫ですか? 警察を呼びますよ?」

「え、警察? 何でですか?」その時、壁の鏡に映った自分の顔が目に入り驚愕した。なんと、手と口の周りが血だらけや!

「え! なんで、なんで?」訳分からず一瞬パニックになった。はっ! そっか、なるほど。「順子、生理やったんや!」暗かったのと興奮してたんで全然気付かんかった。だから拒まれたんや! いつもやったらすぐやらせてくれるもん。おかしいと思っててん。

 

そんな事より何とか誤解を解かないとと、店員の目に我は人を食らった殺人鬼のように映っているはず。

とっさに思いついたのが「実は芸大に通ってて、新しい技法として口に絵の具を含んで絵を描いてるんですよ。すいません、汚れてるんで風呂に入ってまた来ます」そう言って逃げるように店を出た。

家に帰って晩飯代わりに貰ったチョコを食べると、心なしか血の味がした。この日のことが原因ではないけど、それから順子とは会う機会も減っていき夏には別れ話もないまま自然消滅した。

イラスト:スギム

同じこの年の秋にアイルランド出身のオルタナティヴ・ロックバンド、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが『ラヴレス』という真っ赤なジャケットのアルバムをリリースする。

アルバムタイトルとアーティスト名を訳すと『愛のない』 私の血まみれのバレンタイン。あの日の出来事を想起させる。

聴いてみるとアーティスト名からイメージするおどろおどろしさは一切なく、儚く退廃的で騒々しいけどひたすら美しい。爆音で流していると、甘酸っぱさや後悔といった過去に経験した様々な感情が次から次へと波のようにグワーーっと押し寄せてきて、サイケデリック体験を味わえる。

今思うと順子は生理だから拒んだんじゃなく、愛の無い心を見抜いて受け入れたくなかったのかもしれない。男と遊び回ってたのも、もしかすると寂しかったからかもしれない。ちゃんと話し合いたかったのかも。我はいつも自分の都合のいいように物事を考え、順子の気持ちを分かろうとせずに勝手だった。

別れ際の物悲しそうな順子の顔が浮かんで懺悔の念に駆られる。ギターノイズの海に溺れて、許しを請うように「うわぁーーーーーっ!」と叫んで泣いた。

1991年リリース My Bloody Valentine /  Loveless

*   *   *

ライブ情報

◯ 1/31(金) 大阪・難波mele
◯ 2/4(火) 東京・渋谷ロフトヘブン【テニスコーツ 2マン】
◯ 2/7(金) 埼玉・熊谷ヘブンス
◯ 2/10(月) 東京・高円寺HIGH
◯ 2/14(金) 東京・新宿レッドクロス【俺たちのバレンタイン2025】
◯ 2/15(土) 東京・吉祥寺・武蔵野音楽祭 サーキットフェス
◯ 2/16(日) 東京・渋谷BYG【HONEBONE 2マン】
◯ 2/22(土) 愛知・今池ハックフィン【好き好きロンちゃん ツチヤチカら】
◯ 2/23(日) 大阪・梅田ムジカジャポニカ
◯ 3/1(土) 東京・新宿サーキットフェス【見放題東京】
◯ 3/2(日) 大阪・難波サーキットフェス【ヒミツの混★乱★大廻転】
◯ 3/6(木) 大阪・南堀江KNAVE【ヤバイホイール2025】
◯ 3/8(土) 大阪・堺ファンダンゴ【まりクリ大阪】
◯ 3/9(日) 沖縄・那覇桜坂劇場ホールB【Output LAUGH PROJECT アベンジャーズSPECIAL2025】
◯ 3/14(金) 愛知・名古屋ミカツキ【里緒 2マン】
◯ 3/15(土) 茨城・水戸ペーパームーン【ワンマン】
◯ 3/16(日) 東京・四谷アウトブレイク
◯ 3/17(月) 大阪・梅田BANGBOO【天下一不毛会】
◯ 3/22(土・昼) 大阪・服部緑地野外音楽堂(大阪)  服部フェス
◯ 3/22(土・夜) 愛知・名古屋ブラジルコーヒー【ワッツーシゾンビ 2マン】
◯ 3/23(日) 大阪・堺ファンダンゴ【TOMOVSKY 2マン】
◯ 3/30(日・昼) 大阪・東心斎橋かくれあわび
◯ 4/1(火) 大阪・堀江VIJON【天下一不毛会】
◯ 4/4(金) 大阪・味園ユニバース
◯ 4/5(土) 兵庫・神戸太陽と虎【シコシコ万博】
◯ 4/19(土) 東京・吉祥寺SHUFFLE
◯ 4/20(日) 愛知・名古屋ちくさ座
◯ 4/24(木) 大阪・心斎橋新神楽
◯ 4/26(土) 群馬・高崎ジャマーズ
◯ 5/25(日・昼から) 東京・西永福JAM【スギム55.5祭 5時間ライブ】

チケット:フォーム予約

メディア出演

茨城放送ミッドナイトクレイジーラジオ 毎週土曜日22~23時 放送中

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おっさんだって、やりたいよ!

中年サラリーマンが酔った勢いで初ライブ、その後脱サラし各地のライブハウスやフェスのサブステージを湧かして回る。パンツ一丁で人生を歌う「サブステージの王様」、クリトリック・リスことスギムのエッセイ連載スタート!

バックナンバー

スギム(クリトリック・リス)

ソロ音楽ユニット「クリトリック・リス」として活動中。

音楽経験のまったくなかった中年サラリーマンが酔った勢いで、行きつけのバーの常連客達とバンドを組むが、初ライブ当日に他のメンバー全員がドタキャン。やけくそになりパンツ一丁で楽器を持たずに行った即興パフォーマンスが、コミカルでありながらなぜか感動してしまうと話題となる。42歳で脱サラして以降は、全国のライブハウスをドサ回りしながら生活している。

X(Twitter): @sugi_mu
ライブスケジュール&予約: クリトリック・リス ライブ 前売り予約フォーム

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