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2月は寒い。
寒さに弱い初老は老テンションで過ごしているが、もふもふキャットは元気いっぱいである。
先日、友人が「太りすぎて下っ腹が餓鬼みたい、ガッキーって呼んで!」と言っていた。
四十を過ぎると下っ腹だけじゃなく、肝っ玉も太くなる。
若い頃は遠慮して言いたいこと言えないポイズンだったけど、初老になるとおかしいことはおかしいと言えるようになる。
「大切なもん守れねぇ痛みに比べたら、こんなもん屁でもねぇ」というハイ&老(ロー)精神が芽生えるのだ。
そして後輩たちを守らねばとの思いから「それセクハラですよ」「マンスプやめましょうよ」と注意できるようになる。
自分だけじゃなく他人を守るためにも、ジェンダー知識は役に立つ。というわけで、前回に続いて参考にしていただければ幸いです。
マンタラプト(man-terrupt)
男性が女性の発言を遮ること。男性が女性の発言を遮る率は、その逆の3倍という調査がある。
女性や若者の意見はスルー&軽視されがちなので、周りが「いま〇〇さんがしゃべってますよ」「最後まで聞きましょうよ」とフォローすることが大切。
「人の話を遮らず最後まで聞くこと」など、最初にグラウンドルールを共有するのもおすすめだ。
それでも遮るマンタラおじさんには退場いただくか、口に大量のミルキーをつっこむといいだろう。
すると銀歯がとれて勢いを失うし、歯医者に行くため退場を余儀なくされる。
ヒピート(he-peat)
女性が意見を言っても無視されるのに、同じ意見を男性が言うと評価されること。
ヒピートの話を女性にすると「わかる!」と膝パーカッション祭りになるが、男性は「そうかなあ?」とピンとこない場合が多い。
女性は「私が男だったら意見が通るんだろうな」みたいな経験をさんざんしている。企画やアイデアを男性に横取りされることもよくある。
科学分野で女性の功績が無視または過小評価され、男性の功績にされることを「マチルダ効果」というが、これはどの分野でもあるあるだ。
なので周りの人が「それ〇〇さんが先に言いましたよね」「それ〇〇さんのアイデアじゃないですか?」などフォローすることが大切。
それでも無視するおじさんは耳をつかんで「見て! すっごい耳くそ」「ミルキーが詰まってるのかしら!」と騒ぎ立てるといいだろう。
ヒムパシー(him-pathy)
主に男性が性暴力の加害者男性に同情して擁護すること。
たとえばセクハラ加害者のことを「彼も悪い人間じゃないんだよ」「反省してるんじゃないかな」「彼はこの組織に必要な人間だから」とかばう人がいるが、寄り添うべきは加害者じゃなく被害者だろう。
こうした発言によって被害者は口をふさがれ、加害者が野放しになるケースも多い。
殴る蹴るのリンチをした人について「彼も悪い人間じゃないんだよ」「だから許してあげようよ」なんて言わないだろう。
ヒムパシーの根っこには、性暴力の軽視がある。
滋賀医科大生の性暴力事件でも、加害者の友人ら251人が「寛大な処分を求める」という嘆願書を出したが、殴る蹴るのリンチだったら寛大な処分を求めたか? と聞きたい。
アメリカでは性加害をした若い男性が「彼はプロミシングヤングマン(前途有望な若者)だから」と同情&擁護され、罪が軽くなることが問題視されている。
キャンセルカルチャーという言葉があるが、真にキャンセルされているのは誰なのか?
性被害に遭って仕事や学校を辞めざるを得なくなり、トラウマから働くこともままならず、キャリアや未来を奪われたのは誰なのか?
理不尽に人生を壊されたのは一体どちらなのか?
加害者の再犯を防ぐためにも罪をきちんと償わせ、再犯防止プログラム等につなぐべきだろう。
もしヒムパシー発言をされたら「なぜ加害者をかばうんですか? 被害者に寄り添うべきじゃないですか」と正論でド詰めしよう。そのうえで映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』をおすすめしよう。
私はあの映画を見て「股間から矢を飛ばすスタンド能力がほしい」と思った。
マンファレンス(man-ference)マネル(man-el)
参加者が男性ばかりの会議はマンファレンス、登壇者が男性ばかりの討論会はマネルと呼ばれる。
私も企業の役員向けジェンダー研修に呼ばれ、参加者全員おじさんなのに「わが社は男女平等です」と言われて「気は確かですか?」と返したことがある。
ハイパー失言クリエイターの森喜朗氏が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と発言したが、偉いおじいさんに忖度して意見を言わないおじさんばかりだと会議をする意味がない。
また女性の数が少ないと、おじさんに気に入られる「わきまえた」女性、中身がおじさん化した女性しか生き残れない(自民党の女性議員を見るとよくわかる)
そもそも人口の割合だけ女性やマイノリティがいない状態では民主主義とは言えない。
クリティカル・マス(マイノリティの割合が3割を超えると意思決定に影響を及ぼすことができる)という言葉があるように、多様な意見を反映するには少なくとも3割が必要なのだ。
あらゆる分野に女性が増えると良い影響が出ることは、大量のデータが証明している。
たとえば2022年の調査では、6割の自治体で防災担当部署に女性職員がゼロだった。それらの自治体では生理用品、育児用品、介護用品などの備蓄が進んでいない傾向があるそうだ。
被災地の避難所でナプキンを1日1枚しかもらえなかった、といった話も聞く。1日何回ナプキンを交換するか知らない人がどうやって必要な備蓄量を決めるのか。
マンファレンスについては、この記事がわかりやすいのでぜひ(中野晃一先生の「中高年男性はどう退場する?」という解説がすばらしいです)
マンフル(man-flu)
男性が自分の病状や体調不良を大げさに言うこと。
37.1度の微熱なのに「俺はもう死ぬかもしれないゼエゼエ」とアピールする男性は「だからケアして! ケアしてよ!」と訴えるケアクレクレ妖怪なのだろう。
こちらの記事でも書いたが、妻が「風邪引いたみたい」と言うと「俺も熱っぽいんだよ」と返す夫はあるあるだ。
もし相手が上司や取引先なら「僕も熱っぽいんですよ」なんて返さず「大丈夫ですか?」と気づかいの言葉をかけるだろう。
「妻はケアする側、自分はケアされる側」と無意識に思っているから、妻には気づかいをしないのだ。
私はおじさん向けの講演で「上司や取引先は会社を辞めたら二度と会わない人たちだけど、家族は一生ものですよね? 妻や子どもにこそ気づかいや思いやりを発揮するべきじゃないですか?」「家族に愛想つかされて熟年離婚されて孤独死して畳のシミに……というフィナーレにならないために、男性はケア能力を磨いてください」と話している。
こちらよかったらコピペして使ってください。
ストローマン(strawman)
藁人形論法、かかし論法とも言う。相手の発言や主張をねじまげて非難や攻撃をすること。
たとえば「強姦や強制わいせつの容疑で逮捕された553人に行った調査では、33.5%が「AVを見て自分も同じことをしてみたかった」と回答。少年に限れば、その割合は5割近くに跳ね上がる」という記事を紹介すると「AVを見た男が全員レイプするって言うのか!」というクソリプがつく。
言ってない。
「夫婦別姓も選べるようにしよう」→「同姓を選ぶなって言うのか!」
「職場でのヒールの強制をやめよう」→「女はヒールを履くなって言うのか!」
「性加害を謝罪して辞任せよ」→「俺に死ねって言うのか! 俺が死んだら納得するのか!」
言ってない。
そんなこと言ってないのに「こいつこんなヤベーこと言ってるぞ!」とデマを広げるクソゴミ、おっと失礼、排泄物や廃棄物のような御仁がSNSには溢れておりますわね。
私もこの手の嫌がらせをされてきたが、「〇〇さんはそんなこと言ってませんよ」と第三者が訂正してくれるとすごく助かる。
私の経験から言うと、クソリプよりデマの方が何倍もつらい。
「真実よりデマの方が20倍広がりやすい」という調査があるが、こちらが「事実無根のデマです」と証拠を並べて説明しても、炎上を楽しみたいアンチにとっては燃料投下になり、火に油を注ぐことになってしまう。
新刊にも書いたが、数年前にデマを拡散された時は「もう死んじゃおうかな」と思った。その時に「デマを拡散するな!」と怒ってくれる人々の存在に救われた。
自宅で寝込みながらアマゾンで藁人形を検索したら1200円ぐらいだったので、呪力を鍛えたいと思う。
呪力はさておき、言葉の持つ力は大きい。言葉を知ることで人は強くなれるのだ。
中高生に授業をすると「ルッキズムという言葉を知れてよかった、自分が何に傷ついてきたのかわかった」「パーソナル・イズ・ポリティカルという言葉に救われた。苦しいのは自分のせいじゃないと思えた」といった感想をよくもらう。
自分の傷つきやモヤモヤに名前がつくことで「これって自分だけの問題じゃないんだ」「自己責任じゃなく政治や社会の責任なんだ」と気づくきっかけにもなる。
みたいな話を新刊『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』でもしておりますので、よろしくどうぞ。
7人の対談ゲストのうちの1人、竹田ダニエルさんがこんな話をしてくれた。
「日本ではセルフケアやセルフラブについて「自分の機嫌をとるために高いチョコレートを買う」「高級エステに通う」など消費文化と繋げられがちですが、それは誤解です。
元々は黒人が人権を獲得する運動のときに、闘ってばかりだと疲れるから、コミュニティの中で支えあうなど、外向きに力を出すだけではなく、自分にも目を向けようという話なんです」
この言葉が印象的だったので、フェミ友に「日本ではセルフケアやセルフラブが誤解されてるらしいよ。高級チョコやデパコスを買って自分にご褒美的な……」と話したら「デパコスって卑猥な言葉かと思ってた!」と言われてびっくりした。
「出っぱってるものをこする時な意味かと」「なんでそんな解釈になるの」と大笑いしていたら、むくむくと力が湧いてきた。
世界的なバックラッシュの時代だからこそ、笑っておしゃべりする時間が大切なのだ。
特に女性やマイノリティはひとりでは闘えない。仲間同士で支え合わないと疲れてしまって続かない。
格差と競争の椅子取りゲーム社会ではヘイトが増える。「〇〇はずるい」「優遇されている」と人々の分断と対立を煽り、不満の矛先をそらして得をするのは権力者だ。
古からの「分割して統治せよ」という支配の手法に負けるわけにはいかない。私たちは連帯して抵抗の声を上げ続ける。
そんな思いを強くする立春の候。ちなみに私も「クイニーアマン」をエロいものだと思っていた。
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